表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

13話「幽霊」

残暑キビしい中、今日から俺も妹も学校が始まる。

あっという間に夏休みが終わってしまった……。

夏休みを迎えるなりカレー食って死にかけたり、鳥人間になりかけたり、クーラー爆弾で吹っ飛んだり、警察に厄介になったり……。

ろくなことなかったけど、それ以外は至って平凡ではあった。

たまに大学へ行かないといけなかったし、そー考えると夏休みがあっという間に終わったのも納得かもしれないな。


昼になって俺は大学の門の前でバスを待つ。

今日の授業は午前中で終わり、別に学校に残る必要もない。


早く家に帰って寝るとするかな。


……バスが到着し、窓際の席に座る。

日差しを直接浴びて体が火照り、ポカポカと気持ちよくなってきた。

「うぅ〜眠たい……見るんじゃなかったかな、夜中のバラエティ番組」

アパート近くのバス停から歩いて3分くらいで

「クタビレ荘」

が視界に入る。

「よし……もう少しだ」

2階へと階段を上がりながらポケットから部屋の鍵を探す。


「あ!」

うっかりポケットから鍵を落としてしまった。

拾った後に部屋の前を見ると、先程まで居なかったはずの白い着物を着た十代半ばくらいの女の子が立っていた。

明らかに俺を見ている。


髪に綺麗な花を付けているのが印象的だ……そして体が透けているのも印象的。


うん?あはは……透けてるぞ。

もしかして幽霊かよ。

俺は額から出る汗を手で拭きながら彼女から目を逸らす。

「私が見えてますね?」

「いえ!全然見えてません……」


しまったーー!!

返事してしまった!


俺はチラッとだけ彼女を見た。

彼女はウルウルと涙を流していた。

「はうぅ〜、待ち望んでいました……私の姿が見える人、しかも声まで聞こえるなんて」

うっ!正真正銘の幽霊だ!

浮いてるし!

しかもアパートに住み着いているとなるとテレビの心霊番組とかでたまに聞く地縛霊とかいうヤツかな?

……でもメチャクチャ可愛い!おろおろした癒し系、そして泣いてる姿は愛くるしい……。

「幽霊?」

「はい!私は幽霊です!」

「なんで昼間から幽霊が?」

「えっ!?幽霊って夜に出るものなんですか!?」

「たぶん……夜によく出るって聞くけど」

「そんなぁ〜」



「……邪魔」


学校から帰ってきた終羽里が幽霊少女に迷いのない見事な蹴り!

「ふゃぁぁぁ!」

……ドキューン!


幽霊少女は上空へ飛んでいき、しばらくして帰ってきた。

「な……何するんですか!ヒドいですよ〜!」

「邪魔だから蹴っただけよ……」


やはり妹はスゴい。


幽霊を見ても驚かないし蹴ることもできる。

「の……呪っちゃいますよ!」

「……消すわよ」

「と……取り憑いちゃいますよ!」

「……地獄へ落とすわよ」

「こ……殺しちゃいますよ!!」

「……内臓抜き出して刻んで鍋にぶち込んで弱火でジックリとグツグツ煮込んでからタレに漬けて食うわよ」

「はわわわ……ごめんなさい!」

幽霊少女惨敗!

人間に口で負けた。


幽霊界もビックリだな。

「外だとなんだし、家に入ってよ」

とりあえず俺が先導して部屋に入れた。


動揺してるのか、俺は冷蔵庫からお茶を取り出しコップに入れて幽霊少女の前の床に置いた。

「の……飲む?」

「はうぅ……気持ちだけ頂きます」

彼女は泣きながら言った。


「とりあえず名前とか、何故ココにいるのとか聞こうかな?」

「はい……私は寿ことぶきと申します、何百年も昔にココにあった橋から滑り落ちて川で溺れて死んじゃいました」


……ドジ子!

「幽霊になっていろんな場所に行ってから1年前にココに来ました」

「いろんな場所って?」

「えへへ……生きてた時に夢みてた日本全土ぶらり旅です」


……ちゃっかり子!


「外国には行かなかったの?」

照れながら寿さんは言った。

「行こうと思ったんですけど、私……英語が話せなくて」



まず見えねぇ〜よ!


「旅を終えて私が死んだココを住み処にしようと思って住民の方々に挨拶してまわったんですけど皆さん私を蔑ろにして……」

「みんなは無視なんかしてないと思うよ、見えてないだけだよ」

「いいえ!絶対に見えてます!何度も目が合ってるし、102号室に居る獰猛そうな女性だって明らかに私を使って刀の試し斬りを……」

麗華ちゃん……幽霊相手に何やってんのさ?


……ガチャ。

「完助殿!かき氷を持ってきたぞ……まだ暑いからな、一緒に食べよう」

間様と結衣さんがノックもしないで部屋に入ってきた。

「……ん?寿殿も居たのか、供えるから一緒に食おう」


俺と寿さんは口を開けたまま固まった。


「間様……寿さんが見えるんですか?」


「うむ……アパートの皆が見えてるし声も聞こえているが」


全員!?

なんて存在感なんだ寿さん。

もはや幽霊と言えるのか?

「なんで無視してたんスか?」

「たぶん……面白くなさそうだったからかな?」


……ガーン!

寿さんショック!

本当に1年間喋ってもらえなかったらしい、しかも理由がボケキャラじゃなさそうだから……。


「はうぅ〜死にたい……」

君は死んでるよ……寿さん。


こーして幽霊少女の寿さんがアパートの住民に加わった。

俺は

「今度から無視されないように頑張って」

と励ますことしかできなかった。


☆プロフィール

アパートの屋根などに住む

寿さん【本名=寿千鶴ことぶき・ちづる

年齢……享年15歳


※幽霊。ドジ。アパートのマスコットキャラの座を狙う癒し系。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ