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ラブカクテルス その6
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は秋の刀でございます。

ごゆっくりどうぞ。


拙者はサンマでござる。
とは言っても前歯は出っ歯ってはござらん。
以後お見知り置きを。

我らは、今日もこの広い大海原を主君と共にさすらって候。
我らは誰が名付けたか、人間界では秋の刀の魚と書くそうでござる。
粋なまねをしてくれるでござる。
我ら一族はそのせいか、武道の道に志をおき、日々精進の生活。
腰の柔い魚とは同じ扱いなどに決してしないでいただきたい。

拙者はこの軍勢の中では、主君の次に権力がある、軍隊長である。
皆を指揮し、他の魚の大群を避けたり、敵との戦の時に一斉に大きな魚の形を作って、威嚇するよう指示したりと、なかなか忙しい役職なれど、拙者はとても気に入っておったし、下の者共も、あらくれ者ばかりだったが、豪傑揃いの名家の出のものばかりで、気持ちのよい者ばかりでござった。
そして我らの主君は堂々たるお方で我ら一族の中ではマレに見る輝くウロコの持ち主、顔立ちもそんじょそこいらのサンマと違い、その鋭くトガッた先はあのサメですら怖じけ付く程の立派なものでござった。拙者は主君に惚れ、一生お供することを、あの凛々しいお姿を見る度に誓うのでござった。

我らは時に、違う魚たちと一緒に行動することもござった。
それらはイワシであったり、アジであったり。だが、一番気の合う奴らはサバでござろう。
奴らとは、共に狩りをし、共に敵と戦いと、なかなかイキが良よいのでござった。そして、そのサバ軍の軍隊長は拙者の親友でござる。
奴めはかなりの剛腕で、あの尾ひれのカウンターをくらったなら、拙者も危ないくらいにござる。
されど、拙者の鋭くトガッた顔の先でのストレートも負けてはござらんが。

それはさて置き、久しぶりに奴らとすれ違い挨拶を交すと、サバ軍は人間たちがこの辺をうろついているから気をつけるように教えてくれたのでござった。
拙者は礼を言うと、すぐにお方さまに知らせ、指示を仰いだのだが、実は時すでに遅しでござった。

拙者はタダならぬ気配にとっさに皆に散るように命じたが、黒く大きいものが我らを四方八方から襲ってきた。すかさず、拙者はお方さまを力一杯突き飛ばし、その中から弾き出した。
そして拙者はあえなく捕まってしまったのでござった。

気が付くと、拙者は狭い海の中にいたのでござった。
いや、海ではござらん。初めて見るこれが、噂に聞く壁と言うものらしく、拙者はその固さに攻撃を諦めるしかなかったのでござる。

しばらく我らはその狭い壁とやらの中で揺られていたが、やがて海水から放り出されたのでござった。

初めて出た海の、いや水の外はかなり苦しく、跳ね回ってみたがやがて拙者は力尽きたのでござる。
周りの者共はあの世へ旅立ってしまうものばかりだったが、拙者はそう簡単にくたばりはしなかったのでござる。
拙者はまだ目の中で生きていたのでござった。
そのうち、拙者は氷に包まれ、他の魚たちと一緒にどこかへ連れて行かれたのでござる。
そこはスーパーと言う、やたらに寒くて眩しくて、なにしろ人間たちが沢山いるところでござった。

拙者は本日の目玉と言うコーナーに置かれたが、そこはやたらに人間が代わるがわる顔を覗かせる不思議なところでござった。

そこへ、人間の小僧っ子がやってきて、拙者をつついた。
拙者は失礼なはからいにムカッとしたが、これも精進。
しかしその子供はイタズラを止めないので、親を見ると、ほっぽらかし。
拙者は堪忍袋の尾ひれがキレ、子供の目玉を睨み、心を動かしたのでござる。
我は刀。振り回して、親を叩くべし。かぁっ!
子供は拙者の隣のサンマのしりの部分を掴むと、思いっきり親向けて勢いよく振りかぶって頭に叩きつけたのでござる。
拙者も、周りの人間も大笑いしたのでござった。
子供は叱られ泣いてござった。男のくせに弱虫なことじゃ。
親は店員に謝り、そのサンマを買って、ソソクさと帰っていったのでござる。
拙者はそのサンマに成仏するように祈ってやったのでござる。

やがて、とうとう拙者は買われる順番とあいなったのでござる。

それは美しい奥方で、拙者は惚れ込み、渾身の力でウロコの輝きに磨きをかけた。
それを見た奥方は拙者に手を伸ばして袋に入れてくれたのでござった。

拙者はとうとう料理されることにあいなったが、どうせ焼かれるのなら備長炭でしてはくれまいか、と目で訴えると、その奥方はいさぎよい拙者を七輪に置いた網に載せて、望み通りの備長炭で焼いてくれた。
その赤々と燃える火力は拙者の今までの人生、いや魚生を労うようでござった。
拙者は涙の代わりに体の脂を落として泣いたのでござる。

拙者はそれから真っ二つに切られ、秋に合うセンスのよい和風の皿に飾られたのでござる。
拙者は奥方にめしあがられるつもりがなんと、その主人と思われる御人にうまそうだからこっちと、奪われたので、その無礼に最後の力を振り絞り、拙者の小骨で奴の喉を刺してやったのでござる。
すると奴は、こっちは骨が多いからやっぱり止めたと、奥方に返した。
奥方は、あらそぉ?とっても美味しそうよ。と骨の随までしゃぶってくれた。
それがしは、そこで昇天したのでござる。
我の人、いや、魚生悔いなし。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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