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#八八 文化祭・まずは第一歩
「あ、来た来た。こっちよ~」
 月島が手を振って呼んでくれた。
「ん?どうした?沈んでないか?」
 豊が俺を見て訊ねた。
「べつに…そんな事ないけど…」
 言いながら朝倉の様子を窺った。
 見た目は普段通りなんだが…。
「さっ揃ったわね、行きましょ」
 月島が言った。
「ねえ由実、午前中どこ廻ってたの?」
 朝倉の質問に、
「え!ど、どこも廻ってないわよ…ねぇ、豊君?」
「あぁ…まだどこも廻ってないよ」
 焦る月島と同じく動揺する豊。
「じゃあ、午前中何してたんだよ?」
 すかさず今度は俺が訊いた。
「ま、何だっていいじゃん、行こうぜ」
 強引に煙に巻かれてしまった…。
 ま、二人が同じ様に慌てる素振りを見れば何をしてたか十分想像できるけどな…。
 そんな事より気になるのは朝倉のこと。多分、朝倉は午前中の俺の態度に怒ってるはず。それを修復しなければ。あの時は声を掛けてくれた女子に気を悪くさせない様にしただけで、決して思わせぶりな事はしていない!あくまで客として扱っていただけ。
 言い訳がましいがこれが本心である!既に二人の女の子を選べずにいる馬鹿な男。三人目四人目となると、それはもう人間として終わっていると解かっている!
「朝倉」
 思い切って呼んでみた。
「何?」
 思ったよりあっさりと応えてくれた。その朝倉の返事で少し気が楽になった。
「あの…明日の映画のチケット、豊たちにあげるけど…」
 かなり恐る恐る俺は言った。
「あぁ、どうぞ、私ので観るんでしょ」
 普段よりよそよそしい言い方で朝倉は言った。
「うん…」
 本題を切り出せなかった…。
 朝倉と並んで歩いている俺。その前では豊と月島が仲良く手を繋いで歩いている。
「豊~」
 俺は豊に声を掛けた。
「ん?何だよ?」
 振り返る豊に、
「演技部の映画、興味あるか?」
「演技部の映画…?あぁ、柄沢今年もやるのか?」
「そうなんだ、チケット二枚余ってるから良かったらやるよ」
「マジ!サンキュー。去年のなかなかおもしろかったからなぁ」
 喜んで受け取る豊。
「何?文化祭で映画やってるの?」
 月島が加わった。
「あれ?由実知らなかったのか?去年もやってたんだぜ、おもしれーの。そういえば、去年アイツの手伝いしてたな」
 知らない間に豊は月島を名前で呼んでるようだ。
「え?佐久野君も去年のに関わってたの?」
 朝倉が豊に問いかけた。その口調は普段のそれだが…。
「あぁ、最初は柊に無理やり手伝わされてたんだけど、途中からだんだん楽しくなってきてよ!なんつーかよ、ゲリラ的にやってたのが面白かったよな?」
「え!あぁ」
 朝倉の事ばかり気にしていたら不意に豊が俺にフッてきた!
「他に誰が手伝ったの?」
「えっと」
「トモちんに亜津だろ、あと…」
 朝倉の質問に俺が答えようとしたがそれより先に豊が答えた!
結城ゆうき
 豊が詰まった瞬間に俺が言った。なんだか無性に腹が立った。
「そうそう結城。懐かしいなぁ…二年の時はいつもあのメンバーでつるんでたな」
「へ~」
「あんた達去年の文化祭そんな事してたの?」
 月島も加わった。
「あぁほんと面白い文化祭だったぜ、ただ見て廻るだけじゃ味わえないスリルがあったなぁ」
 確かに豊の言うとおり去年の文化祭は楽しかった。
「ふ~ん、ありがとう柊君」
 思い出話ではしゃぐ豊からチケット奪った(?)月島が言った。
「良いって、でも、席俺たちの隣だけど」
「問題ねーよ」
 俺があげたチケットを見ながら、二人はまた手を繋いで歩き始めた。
(よしっ!)
 俺も朝倉の手を握った。
 瞬間、『ハッ』となった朝倉だが、俺の手を軽く握り返してくれた。
 午前中の事のモヤモヤは完全に消えていないが、まずは一歩前進だ。
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