ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
#五 約束
 眠れない…。数時間前の出来事を思い出してしまい眠ることが出来ない。
 突然の朝倉からの告白…。考えるなという方が無理な事。どうしても考えてしまう。状況が状況だったために…。
 ロクに眠ることが出来ないまま朝をむかえ、登校した。
 少しドキドキしながら教室に入る。登校中も様々な事を考えていた。昨日の出来事はもしかしたら夢だったのかもとか…。
 教室を見渡すと既に自分の席に着いていた朝倉と目が合った…。すると彼女は軽く微笑んだ。それは周りで見ていてもおそらく判らないほど僅かなものだった。その朝倉の仕草を見た瞬間、昨日の事は現実の出来事だったと再認識した。
 しかし朝倉とはそれっきりで、その日一日彼女と接点がないまま放課後になった。
 下校しようとした時、朝倉が歩み寄ってきた。近付いてくる彼女と目が合った瞬間、俺は身構えてしまった。身構えるといっても、野生の動物が危機に瀕した際に身構えるそれとは違い、動揺する自分を如何に隠すかという身構え。そんな俺とは対照的に彼女はスッと俺の視線から目線を逸らすと、脇に移動し、すれ違う格好になった。だがその瞬間、力なくぶら下がっていた俺の手に彼女の手が触れたのが判った。一瞬手を握られた感覚を覚えたが直ぐにその感触は消え、変わりに手の中には何か異物が握らされていた!
 一連の動作を彼女は止まることなくやり通した事に俺は少し驚いた。手に握らされた物が紙だと判った瞬間、彼女を目で追ったが朝倉は既に教室から出て行ってしまった後だった…。
 少し呆然としていたが、俺も直ぐに教室を出て渡された紙を確認した。そこには携帯のメールアドレスが書かれていた。朝倉のものだろう。メールアドレスの下には彼女の携帯番号も書いてあったのでそちらに電話を掛けた。
『プルルル〜プルルル〜』
 何度かコール音がした後、
『プルッ…はい…』
 受話器から朝倉の声がした。まるで何年かぶりに朝倉の声を聞いた感じがした。
「もしもし?俺、柊だけど」
 と名乗ると、朝倉は嬉しそうな声で、
『あ、ありがとう…まさか、電話してくれるなんて…』
 俺が電話してくるとは思っていなかった様に言った。
「一緒に…帰らないか?」
『え!良いの?嬉しい』
 俺の問い掛けに素直に答えてくれた。俺も朝倉と話をしたかった。
「どうしようか?今どこ?」
『今、バス停の前のハンバーガーショップの前…』
「OK、じゃあ直ぐ行くから、中で待ってて」
『はい』
(朝倉がファーストフードか…)
 何となく意外な気がした。
 学校の直ぐ近くという事でたまに帰りによる店だが、学校の生徒が大挙して押し寄せているためゆっくり食事出来ないのが難点なのが今から行く店。
 そんな事を考えているうちに着いてしまった。
 店内に入り周囲を見回してみる…。
 どうやら一階には居ない様だ。この店は二階建ての造りになっている。二階へと続く階段を上り、二階のフロアへと歩を進めた…。階段を上がり切った所でフロアを見渡したが朝倉は見当たらない。一階で見落としたのか?ともう一度一階へ下りようとした時に思い出した!この二階には奥に行かないと見えない席があったことを。
 俺は足早にその席に歩いて行った。やっぱりそこに彼女はそこに居た。
「ごめん、お待たせ」
 俺が声を掛けると、朝倉は『やっと会えた!』という様な安堵の表情を浮かべた。
「ううん、私こそこんな所に居て…」
 席の事で謝る朝倉だが、ここは他人には見られ難い場所だから好都合な場所だ。多分彼女も同じ考えでここを選んだのだろう。
 幸い今この店には知っている者は居なかったが。
「あ、俺も何か注文してくるから、先に食べててよ」
「うん…」

 ・・・5分後。
「さてっと…」
 俺はテリヤキバーガーとコーラを持って彼女の向かいのイスに腰掛けた。
 結構時間が経ってしまったので朝倉の前に置かれたトレーはジュースだけになっていた。性格からだろうか?綺麗に折りたたまれているのはエビカツバーガーの包みのようだ。
「ちょっと意外だな〜」
 俺が言うと、朝倉はきょとんとして、
「何が?」
 と訊いてきた。
「いや、朝倉もこういうの食べるんだなぁと思ってさ」
「そう?ここのって美味しいじゃない?よく食べるわよ」
「へぇ、そうなんだ…」
 どうやら俺は勝手に朝倉麻梨子という人物像を形作ってしまっていた…。現実の朝倉麻梨子は俺が勝手に想像していたお嬢様ではなく、どこにでもいる普通の女子学生だと気付かされた。なんだか彼女に申し訳なさを感じながら俺も自分のハンバーガーを一かじりした。
「やっぱり男の人って豪快に食べるのね」
「へ、そうか?」
「うん」
 彼女は笑って言う。
 しばらく彼女と話している内に俺のハンバーガーもなくなった。これまで朝倉としっかり話しをした事はなかった。昨日が初めてだった。なのに彼女と話しをしていると、まるで何年も前からこういう関係だった様な錯覚になった。
 朝倉と会話していると凄く心地良い…。
 氷が解けてすっかり味が無くなってしまったコーラを一口飲みして、話の本題に入ることにした。本題とは今日の学校での朝倉の事である。
「なぁ、一つ訊いていいか?」
「何?」
「どうして今日、学校で俺と一度も話しをしなかったんだ?」
「どうしてって…学校で話し掛けると、あなたを困らせると思ったから…」
 やっぱりそうだったか…周囲に朝倉との関係を知られたくないという、俺の心情を理解してのこと…。
「ありがとう…でも、無理することはないんだから…」
 俺がそう言うと。
「いいの、学校で話せなくても、こうして放課後にあなたに会えたからしあわせなの」
 朝倉は笑顔で言った。
 本当にそうなのか?本当の恋人同士ならこんな関係で満足できるはずがない。でも、今の自分には彼女に…彼女の想いに100%応える事は出来ない…。出来ないが、今自分が出来る精一杯の事を彼女にしてあげようようと決めた。
「朝倉、今度の日曜日、暇?」
「え!うん…」
「デートしよう!」
「え!」
 思いもしなかったであろう俺の発言に朝倉はびっくりしただろう。言った自分も恥かしい…。
「うん!」
 朝倉は満面の笑みで返事をしてくれた。その笑みにつられて俺も嬉しくなる。
「じゃあ、日曜までに行きたいとこを決めといて」
「分かったわ」
「あ、ちょっと待って」
 言って、俺は自分の携帯を取り出し、朝倉の携帯に空メールを送った。
「それ、俺のアドレス。気兼ねしないでいつでも送って来ていいよ」
「ありがとう…」
 朝倉はそう言って、自分の携帯画面を見つめていた。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 しばらくして俺たちは店を出た。
「送っていかなくて大丈夫か?」
「うん、平気、まだ明るいし。…またね」
 そう言って彼女は帰っていった。
◆この物語のエピソード0。
興味がある方はこちら→SEASONS memoryをクリック。
◆SEASONSで描ききれなかった物語が紐解かれる…。
新作→SEASONS ParallelⅠ 夏休み※18禁サイトです、ご注意ください。



作者のtwitter。
各話の作者感想やつぶやき、ぼやき等。簡単な一言を書いています。
興味のある方は→COLORのtwitterをクリックしてください。 フォロー大歓迎、作品の感想、その他叱咤激励などは@で投げかけていただければ嬉しいです。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。