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一学期

  春の陽光に誘われて
   少年は少女を目撃する…。
#一 目撃
 カツッ、コツッ、スー
 心地良い陽気を感じながら黒板に白い文字が刻まれていく様子をただボーっと眺めていた。
 ゴールデンウィークも明け新しいクラスにも少しは慣れ始めてきていた五月初旬。とはいえ、この学校は中、高、大、一貫の私立学校。さすがに6年も通っているとクラスが変わっても知った顔がほとんどなのだが…。
 そんな事を考えながら黒板に次々と書き込まれていく文字を自分のノートに写していった。雲間から降り注ぐ陽の光が机の上を照らした…、窓際の席はこうなると冬場は暖かくて良いのだが初夏の気候が日に日に強くなってくるこの時期は暑くて嫌になる…。
 そんな陽光に誘われて窓の外に目をやる。
 周りを木々に囲まれているこの学校は四季によって様々な色を楽しめる。既に桜の花びらは散っしまっていて桜の木は緑の葉を身に着けている。それを囲むようにあたり一面はさらに緑の壁に覆われている。

「ざわざわ」
 急に下の方が騒がしくなってきた…。目線を下にやると体育の授業が終わった生徒達が戻ってきたところだった。袖の色が緑という事は一年生。
 この学校では入学した年で体操服の袖の色が異なり、今年の一年は緑、二年は黄、三年は赤。と色分けされている。この色分けはローテーションになっていて来年入ってくる新一年生は、今の三年生の色、赤になる。
 ぼんやりとその群れを眺めていた次の瞬間目に入ってきた一人の少女に釘付けになってしまった!
 一年とは思えない姿。スレンダーと言った方がシックリくる体付き、ぼんやりとしか見えない顔はかわいいというより美人という言葉がピッタリだと思った。
 その姿が見えなくなっても彼女が歩いて行った先を見詰めていた…。
(ひいらぎ)!」
 その時、一際甲高い声が教室中に響いた!
 ハッと我に返りその声の方を向いた!目の前に居たのはウチの担任で社会科担当の城美純子(しろみじゅんこ)先生だった。
「何ボーっと外を見てるの?ちゃんとノートをとりなさい」
 少し強い口調だったが心底怒っているという風ではなかった。
「す、すいません」
 …そんなに長い時間見ていたのだろうか?
 先生はくるりと振り向くと教壇へと戻って行った。気の強い女性だがまだ教師二年目の二三歳という若さ。クラスの生徒からは『純ちゃん』と呼ばれている。本人も『先生』と呼ばれるよりその方が良いのか?止めさせようとはしない。しかし気の強い性格から怒ると怖い…。気さくな性格とルックスが美人家庭教師を連想させるため男子女子問わず生徒の人気はかなりのも。

『キーンコーンカーンコーン〜〜』
 そうこうしている内に終業のチャイムが鳴った。
「じゃあ、ここまで」
 そう言って挨拶を済ませ純子先生は教室を出て行った。
「おう、良かったな」
 背後から声がした。友人の佐久野豊さくのゆたかだ。
「何が良いんだよ?先生に怒られてんのに」
 豊は大の純子先生ファンだ。
「ま、お前には解からんか?いーや、弁当にしようぜ」
 そう言って豊は椅子を俺の机の前に移動させた。そんな事をしなくても俺がそのまま後ろを向けば早いのに…。
 豊と他愛のない会話をしながら昼食を摂っていたが先刻の一年生の事が頭から離れなかった。
 その事を意識すると自然に箸の進みが早まっていった…。
「お前早いな!どうしたんだ?」
「ん!?ちょっと用があって…」
 豊の問い掛けに適当に答え、残りの弁当を口にかき込んだ。自分でも何がしたいのか判らなかったがただ行動しなければ居ても立ってもいられなくなった。
「豊っ悪い、お先っ」
 言って、早々と片付けを済まし教室を出た。
(何してんだ俺!)
 頭では冷静になれ!と念じているが、体がそれに従わなかった。
 足早に階段を駆け下りていく…、一年のフロアへは四階から一階へ下りてさらに中庭を横切り隣の校舎へ行かなければならい。
 途中で、三年である自分が一年生のフロアへ行くのはどうかと思い一瞬足を止めたが、もう一度あの一年生を見たいという気持ちに負けてしまいゆっくりと歩を進めた。
 とにもかくにも一年生のフロアに到着してしまった…。想像したとおり廊下ですれ違う一年生は一往に『何だ!』という表情でこっちを見ている。アッチからすれば何事だ!?という感じなのだろう。
 あまりにもバツが悪いので足早に見て回った…。
 一年生のフロアは西棟の一階と二階の全フロアと三階の一部という広さ。ちなみに三年は東棟の二階の一部と三階、四階。
 二階へ上がろうとしたがさすがに居た堪れなくなり、これ以上の探索は諦め一年のフロアを後にした…。心残りの何とも言えない気分を抱えながら。どうしてこんな気分になるのか自分でも解からなかった。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 教室に戻ると数人の男子しか居なかった。
(そうか、五時間目は体育か…)
 渋々着替えを済まし、グランドへ向かった。今日の体育の内容は確かテニス。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「柊ぃ〜」
 力の無い声が俺を呼んだ。クラスメイトの伴城武ともしろたけしだ。
「何だよ?トモ」
 大体の見当は付いているが訊ねてみた。
「勝負しよーぜ、俺の相手になんのお前だけだから」
「あ〜!?オメー、テニス部だろ。俺が勝てるわけねーじゃん」
「謙遜すんなよ。お前が居なくなったから俺がキャプテンになれたんじゃん」
「・・・・・・・・」
 俺は三年に上がる前までテニス部に在籍していた。今は何の部活にも所属していない。
「…別に良いけど」
 あまり気が進まなかったが伴城との勝負を受けた。
 先生も俺とトモの試合を快く許したためコートには俺とモモしかいない。
 パカァーン ポカァーンッ
 激しく行き来するテニスボールを先生を含む全員が追っていた。
 トモとは何度も試合をしたことがあるが一度も負けた事は無い。しかし、今相手をしているトモはその時とは比べものにならないほど強くなっていた。俺が現役を退いて腕が鈍っているのもあるだろうが、テニス部主将になった実力だ。強くなっていて当たり前か。
 パコーンッ
 鋭い閃光の様なボールがトモの脇をすり抜けた!
「ゲームセットっ、ウォンバイ柊っ」
 審判をしていた先生が叫んだ瞬間周りで見ていた生徒達から自然とどよめきの様な歓声が挙がる。
「ふーっやっぱり強いよお前は。…テニス部に戻れよ、今からならまだインハイ間に合うぞ」
 トモは笑顔でそう言うとラケットを回しながらその場を去った。
 そう言われても俺はテニス部に戻る気はない…というより今更戻れないだろう。



 そんなこんなで一日はおわっていく。心残りだけを残して…。
 同じ学校の生徒だまたいつか会える…そう自分に言い聞かせた…。
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◆SEASONSで描ききれなかった物語が紐解かれる…。
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