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#一二 覚悟
「…ここなら声が外に漏れる心配はないわ…」
 そう言って朝倉は俯いた。
「あなたの好きな人って舞衣なの?」
 俯いたまま朝倉が問いかける。
「信じてくれ!今までその子が君の妹だって知らなかったんだ…」
「別にそんな事…疑ってないよ」
「・・・・・・・・」
 少しの沈黙…。エアコンから発せられる送風の音だけが地下室に響く。
「朝倉…今から俺が言う事で君に嫌な思いをさせてしまうかもしれないけど…聞いてくれるか?」
「うん、話して…」
 不安そうな声ではあったが、朝倉は躊躇なく言った。
 俺は5月に初めてあの子、朝倉の妹を観た時から今までを全部話した。
 教室の窓から見た下級生に一目惚れした事。それが朝倉の妹だった事実や、今までの朝倉への気持ちなどを…。
「そうなの…私の所為でそんなにあなたを苦しめていたのね…」
「違う!苦しめていたのは俺の方なんだ…」
「…もう苦しまないで、舞衣に言ってあげて…」
 俺の言葉を遮るように朝倉が言った。
「言えない…こんな事言うと君に嫌われてしまうかもしれないけど…俺、正直に言うよ…」
「?」
「俺、朝倉が好きだ!」
「!!」
 さすがに驚きを隠せない朝倉。
「決して君を喜ばせようと思って言ったんじゃないんだ。心から君が好きだ!」
 俺の言葉を聞いた朝倉は今日見た中で一番嬉しそうな表情をしてくれた。
「でも、君の妹の事も好きなんだ…まだ話しもしてない状態だけど好きなんだ…今日、再会してみてはっきり解かったよ。それと同じ気持ちを君と一緒の時も感じていた…だから君も、君の妹も好きなんだ…」 
 俺は自分で言って解かっていた。今自分が言った言葉が如何に身勝手な告白であるか。だが、俺は続けた。
「そして俺は優柔不断でどうしようもなく馬鹿で最低な奴だって事も解かった…」
 いっそここで朝倉に蔑んで欲しかった。「最低ね!」「もう顔も見たくない!」と…。その方が楽になれたし、そう言われても当然の事を彼女にはしてしまった。しかし朝倉は、
「そんな事言わないで!私もあなたへの感情を抑えられない馬鹿な女よ、さっきみたいに…。今私はあなたの本心の言葉を聞けたことですごく幸せです」
 俺の事を罵倒などせず、自分を責める様に言って俺の胸に抱きついた。まるでこれ以上俺が俺自身を否定するのを止めさせる様に…。
 言い様のないくらいの優しさに包まれた感じがして、俺にこんな事をするのは許されないと解かっていたが、俺も彼女を抱きしめた。
「こんな男でも良いのか?絶対後悔するよ…」
「良いに決まってるわ、どんな結末になっても私は後悔しません。でも、早く舞衣に想いを告げてね。あなたの苦しむ姿はもう見たくないの…」
 その朝倉の一言に俺は感覚的に感じていた彼女の優しさを身に染みて実感した!…こんな酷い男の事を尚も心配してくれている…。
「俺なんかにもったいないよ。君は…優しすぎる」
 俺は感じたままの事を言葉にした。
「そんなことない…私はあなたを独り占めしたいと思う酷い女よ…」
 どうして良いのか解からない衝動に駆られた俺。彼女も同じ感覚だったのか?どちらともなく唇を求め合いキスを交わした。それは先刻さっきのとは違い、お互いの気持ちを確認してのキス。そして同時に覚悟の口づけだった…。
 しばらくの抱擁の間、俺はこの先朝倉にどうしてあげれば良いのか、そして彼女の妹にもどうすべきなのか考えた…。
 しかしその答えは容易に出るものではなく、何の答えも出ないままただ朝倉を抱きしめていた。この先への不安とともに…。



 その後見せてくれた朝倉の笑顔を記憶に焼付けながら俺は帰路に着いた。
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