#一二八 海へと
「そういえば今年は泳ぎに行かなかったから、海に来るのは久しぶりです」
「やっぱりこの時期は寒いな。大丈夫?」
「大丈夫です、厚着してきたので」
正直どこに行こうか迷った。こんな寒いところではなく、屋内等の暖かい場所の方が本当は良かったのかもしれないが、今日の舞衣を見ているとあまり人の居ない場所の方が良いと思った。そう思うと自然に思い浮かんだのが海だった。
電車に乗って海を見に来た。海岸沿いの遊歩道を二人でゆっくり歩いている。
この時期の海沿いに人は居ないと思っていたが、結構人が歩いていた。ランニング、ウォーキング、犬の散歩をしている人に、カップルも多い。
何故ロスに行っていたのかをずっと訊きたかったが、昨日の電話での朝倉の声、今日の舞衣の雰囲気を考えると何だか簡単に訊いてはいけない気がした。
「ごめん、もっと楽める所にすれば良かったんだけど…」
「いえ、実は私も人の沢山居るとこには行きたくなかったので…」
「本当に?」
「はい。…あの、少し座りませんか?」
「ああ」
俺たちはカップルがチラホラいるベンチから空いている場所を見付けて腰掛けた。
「なぁ…やっぱり楽しくないか?」
「え!どうしてですか?」
「いや、その…ずっと表情が硬いっていうか…」
今日の舞衣の表情はずっと元気がない。何か悩みがあるんじゃないか?そんな表情をしている。もしそうだとしたら何とかそれを少しでも軽くしてあげたい。そう思って言った。
「……やっぱり、先輩にはかないませんね…」
「えっ!?」
「こうみえても顔には出さないようにしてたんですよ!なんたって演技には慣れたものですから」
「!」
そういう舞衣の表情は今までの“どこか思い詰めた”表情から一変した。
「先輩にはもっと早くに言わなくちゃって思ってたんですけど、なかなか言えなくて…。でも、もう迷わず言います!聞いてくれますか?」
決意を固めた!という様な強い表情になった舞衣。
「ああ」
舞衣の覚悟に俺も覚悟を決めた!舞衣が何を言おうとしているのか、おおよその見当はついていた。
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