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おいしいチェリーのいただきかた☆
作:卯月海人



純情少年に謝りまくる


 小宮に逃げられてから数時間後。
 いつのまにか寝てたあたしは携帯の音に叩き起こされて。
 店の開店時間を過ぎてるとママに言われた時は、小宮じゃないけど目の前が真っ暗になって気絶するかと思った。
 慌ててお店に駆けつけたらば、皆に開口一番、
 
「お酒飲んだな未成年!」
 
 と見抜かれて大目玉。
 
 うぅ……なんでバレたんだろ……。
 
 でも事情を話すと、
 
「カクテルとジュースを一緒に置いてた私も悪かったわね」
 
 とママに許してもらえて、だけど「酔っ払いは帰って寝てろ!」と皆に追い返されて。
 
 しょんぼりしながら床についたのだった。
 
 
 そして一晩明けて今日。
 
 
「ごめんっ! ホントにごめん小宮〜。 昨日はやり過ぎました! 反省してます!」
 
 あたしは両手を合わせて小宮に頭を下げた。
 すれ違うお散歩中の犬に「フンッ!」と鼻を鳴らされる。
 ちょっ。犬にまでバカにされてるあたし!?
 今のプードル、覚えてろよコノヤロウ。
 
 いつもの公園のいつもの散歩道を始終へこへこモードで歩いた。
 先行く小宮の背中に許してビームを送る。
 
「別に、怒ってなんかないから、気にしないで」
 
 小宮はさっきからそう言ってくれてるけど。
 
「じゃあなんで目を合わせてくれないの〜。もっと近くに寄ってよ小宮〜」
 
 そう。小宮は今朝から一度も目を合わせてくれないのだ。
 それが怒ってる態度じゃなかったら何なの?
 
 あたしは小宮の前に回りこんで下から顔を覗きこんだ。
 上目遣いに小首を傾げて謝る。
 
「お願い。許して。あたしを見て。ネ?」
 
 次の瞬間、小宮の顔が真っ赤になった。さっと顔を背けてあたしの視線を頑なに拒む。
 
 ああっ! ちょっとふざけてるように見えたかな?
 これでもシンケンに謝ってるんですけどぉ〜!
 
「えぇ〜〜ん小宮ぁ〜〜っ!」
「ちっ。ちがっ。ごめん、恥ずかしくて……」
「恥ずかしいって、なにが〜?」
「ひ、比奈さんの顔、今、まともに見れないんだ。ごめんっ。近付かないで!」
 
 ぎゃふん! 近付かないでなんて、ヒドイ言われようじゃない?
 
「やっぱ、無理矢理キスしたから……怖くなっちゃったんだね……」
「えっ!? いや、そうじゃなくて」
 
 あたしはしょんぼりと肩を落とした。
 
「小宮が女性恐怖症になったらあたしのせいだね……」
 
 前に向き直ってトボトボと歩く。
 もう出家しちゃおうかな……。酔っぱらって純情少年を襲うなんて、煩悩の塊なんだ、きっとあたし。
 
 そんなあたしの背後から慌てた様子の小宮が声をかけてきた。
 
「違うから! 怖いとかじゃなくて、昨日の……ア、アレを思い出すと、体がおかしくなるから……」
 
「体がおかしくなる? なにそれ?」
 
 振り返って小宮と目が合うと、小宮はまた真っ赤になって一歩退いて言った。
 
「ち……力が抜けて……立ってられなくなるんだ……」
 
 はぁ? どういう症状なのそれ?
 
 ちょっと考えて、恥ずかしい気持ちがぶり返してくるからだな、と分かった。
 なんのことはない。触った時のいつもの小宮の反応だ。
 
「そっか。じゃあ一時的なものだね、多分。昨日はお酒でラリっちゃってたんだ。もうしないから安心して」
「うん、分かってるよ。比奈さんは僕のために手ほどきしようとしてくれただけだって、分かってる。比奈さんは全然悪くないよ。むしろ不甲斐ない僕が……」
 
 言いながら段々落ち込んでく小宮。ずーん、ってカンジで頭を垂れる姿が痛々しい。
 
「情けないよね。全然体が動かなくて。比奈さんを止めることも、抱くことも……なんにもできなかった……」
 
 えーと、えーと。
 どうフォローすればいいかな?
 あ、そうだ!
 
「でもさ、でもさ、あたしにキスされてもナニされても今回は気絶しなかったじゃん! 進歩してるよ小宮! だいぶ強くなってるから! ネ?」
 
 うんうん!
 ちょっと前の小宮なら、あたしがキスした時点で気絶してたよ絶対。
 頑張って耐えたんだから、エライエライ!
 
「キ……。う……うん。ありがと比奈さん」
 
 カーッと頬を赤くしてもじもじしだす小宮。
 また思い出して恥ずかしくなっちゃった?
 
 と、そこであたしも重大な事に気づいて再び手を合わせて謝った。
 
「あ、そういえばアレが小宮のファーストキスだったんだよね? ゴメンね? 勝手に奪っちゃって。初めては好きなコとした方が良かった?」
 
「えっ!? あ、あの、それは、なんてゆーか、比奈さんで全然いいわけだし、えっと、とにかくもう気にしないで!」
 
「そっか、良かった。好きなコとするキスがファーストキスだと思えばいいよ」
 
 あたしは安心してニッコリ笑ってみせた。
 
 小宮にはまだ好きなコいないんだ、きっと。
 それはちょっぴり嬉しいかも。
 しばらく小宮を独占できるもんね。
 
「比奈さんも絶対天然だと思う……」
「へ?」
「なんでもない……」
 
 ? よく分かんないヤツ。
 
 でもとりあえず怒ってないようで良かった。
 いつものように隣に並んでも、もうススッと逃げださない。
 
 良かった。嫌われちゃったかと思ってたよ。
 でも今日ばかりは触るのはやめとこ。
 
 それから中央広場に着いたあたし達。
 いつもよりカラフルなカンジに「ん?」と見渡せば、花壇に新たな色が加わってるのに気付いた。
 
「あ、咲いてる!」
 
 凄い! マンガのお花畑みたい!
 
 思わず叫んで駆け寄った。
 
 周囲を紫陽花の青に囲まれた花壇。
 葉っぱだらけだったそこに、ピンク、オレンジ、黄色、色とりどりの、小さな可愛い花が咲き乱れていたのだ。
 
「わぁ〜〜! 咲いてるよ小宮〜〜!」
「ホントだ……。まだ咲くには早いかと思ってたけど」
 
 花壇の前にしゃがみ込んでじーっと観察。
 寝転がって日向ぼっこしたい〜〜。
 今は夕方だけどさ。
 
「可愛いねコレ。なんてゆー花なんだろうね」
 小宮を振り返って言うと、
「ポーチュラカ、っていうんだよ」
 
 びっくり! 答えが返ってきた。
 
「へぇ〜。よく知ってるね小宮」
 聞いたこともない名前なんだけど。
 優等生って何でも知ってるのかな?
「去年、花壇係だったから。草花についてちょっと調べたんだ」
 照れてはにかむ小宮。
 
 花壇係かなるほど。
 
 花壇係ってのは、うちの高校のクラス毎に持ってる花壇を世話する係のこと。
 植える花なんかも自由に決めていいし、あたしはそれなりに楽しそう、って思うんだけど、面倒くさいってコトであんまり人気のない係なんだ。
 
「小宮は去年、何を植えたの?」
「ありきたりだけど、パンジーだよ」
「ふ〜ん。なんか小宮のイメージにピッタリだね」
「えっ。そう?」
「うん、可愛くてほんわかしてるトコが似てる」
「可愛いってのは、男としてちょっと微妙かも……」
 
 あたし達は花壇の前で肩を並べて、可愛い草花に見惚れながらお喋りをした。
 
「見たかったな、その小宮のパンジー」
 
 いつもの優しい笑顔で花に水をやってる小宮の姿を想像すると、自然と笑みがこぼれる。
 目の前のオレンジの花に小宮を重ねながら言うと、
 
「比奈さんは一度見てるよ。まだ蕾の頃だけど」
 
 小宮から意外な返事が返ってきてビックリした。
 
「えっ!? ホント!? ……あ、でも、確かに去年、花壇をちょくちょく見に行ってたから見てるかも……」
 
「それだけじゃなくて。去年の秋、僕と話したこと、覚えてない?」
 
 えっ?
 
「小宮と? どこで?」
 
 思わず勢いよく振り返って訊いた。
 
「裏庭の花壇で。一緒に花壇を直したんだけど……覚えてないよね」
 
 花壇を直す……確かにそんなコトもあったような……。
 でもよく思い出せない。
 
 小宮だけ覚えてるなんてズルイ!
 
「いつ!? どんな状況で!? どんなコト話したの!? 詳しく聞かせて!」
 
 あたしの剣幕に押されてちょっと身を引く小宮。「えっと……」とずれたメガネを直しながらあたしを見返した。
 
 それから語ってくれたのだ。
 
 去年の九月の終わり。
 
 あたしと小宮が初めて言葉を交わした、その日のことを。
 
 
 







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