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ノブ、知ってたん? 作者:奈備 光
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12 いきおい

 柏原は恵の意見を入れてこのテーマを中止し、じゃあどうするかと聞いてきた。
「竹見沢さんと紀伊については、報告がてら、俺がアリバイを聞いておくということにしよう」
 頷いた恵に、生駒は聞いた。
「上野さんはどうしているか知らないか? 電話が通じないんや」
「ひとり住まいだから携帯だけで十分だって、固定電話はやめてしまったんですって。今は、えっとねえ、またヨーロッパだと思うわ。今度はゆっくり気ままに回るんですって」
「へえ! つつましいのか優雅なのか。で、連絡はつく?」
「はい、スカイプで」
「は?」
「えっとですね」
 といいかけたものの、面倒だと思ったのだろう。自分から連絡をしておくという。

「今日は静かだな。いつもは賑やかなのに。気分でも悪いのか?」
 柏原が赤石に干からびたチーズを出しながら気遣った。
「いや、そういうわけじゃない。なにも話すことがないだけ」
「そうか……」
 急に醒めた空気が流れた。バーに沈黙が落ちてきた。

 蛇草が立ち上がった。
 先ほど竹見沢批判を連発していたときの顔のほてりは消え失せていた。
「悪いけど、帰らせてもらう」
 千円札を二枚、カウンターに置いて鶴添を促した。
「生駒、今日はもうちょっと中身のある話を期待していたけど、まあ仕方がない」
 生駒は思わず立ち上がりそうになったが、
「誤解するな。責めてるわけやない」と、蛇草がまあまあというように手を上げた。
 「これは俺達には荷が重いな。このごろは互いに、それほど親密につき合っていない。そもそも、最近の朱里をほとんど知らないんやから、推理のしようもない」
 そう言って、あばよというように、佐藤や柏原と目を交わした。
 誰もひきとめようとはしなかった。ふたりはあっさり帰っていった。

「あいつら、わかってないなあ。くだらなくても、こんなことから始めないとしかたがないのに」
 佐藤がブツクサ言ったが、場の緊張感はすでに萎びてしまった。

「さて、今からどうする? まだ続けるか? 店の方はいいぞ。こんな生活をしていると変な粘りだけはつくからな。生駒が決めてくれ」
 柏原がニヤリと、妙なサインを送ってくる。
「今日はもうやめよう。弓削はどう?」
 弓削の同意も得て、生駒は閉会宣言をした。
「じゃ、今日のところは終了。なにか思いつくことがあったら連絡してください。また今日みたいに集まってもらいたいことがあれば、そのときはよろしく。佐藤さん、今日はすみませんでしたね。中途半端な終わり方になってしまって」

 飲み直しということになった。
「入り口の札を替えてきてくれ」
 オルカの閉店時間は通常十二時だが、気まぐれで替えられるように、色々な札が用意されている。柏原が「本日十時半まで」という札を寄越した。

 弓削が朱里さんのことはきっと解明しましょうね、などと念を押すように佐藤に話していたが、生駒は優と親しく話すこともできず、ぼんやりと彼らの話を聞きながら、行者還岳の地図を眺めた。
 やがて他の団体客が入ってきたのを機に、追い出される格好で佐藤や赤石や弓削たちは帰っていった。

「ユウ、餃子でも出前しようか」
 その夜、団体客は賑やかだった。
 顔見知りではあったが、生駒は閉店までの一時間をじりじりしながら過ごした。
「さて今日はこの辺でお終いにしまっさ。後から来た人から順にお帰りください」
 柏原がまだ飲み足らんぞという客を強引に帰らせて、カウンターの上を手早く片付ける。
「さて生駒、始めるか」
「やっぱり」
「だいたいおまえがだらしないんだ。直前に話を聞いた僕が、酒まで作りながら、なぜ進行役もすることになるんだ? 無理があるぞ。ちょっとは考える時間をくれないと。さ、おまえの考えていることを詳しく聞こうか。ユウも、気がついたことがあったらどんどん言ってくれ」
 張り切っている。
「話しておくべきことは、もう全部話したと思うけどな」
「おいおい、何を言ってるんだ。今からが本当の捜査会議だろ。しっかりしろよ。んー、弓削を帰らせたのはまずかったかな。いや、その方がいいか」
 生駒は柏原と目を合わせてニヤリとした。そう。実は、生駒もやる気満々だったのだ。
「じゃあ、やれるところまでやってみるか。疑問点というか、事件のポイントは次の三つ」
「おう、名調子!」
「ケッ、しょうもないこと言うな」
 優が手帳を開く。

「ひとつめは死亡推定日。さっき柏原が三日のアリバイを聞いたとおり、その可能性はないのか。警察は四日あるいは五日が死亡日としていたけど、その根拠はなにか。これはもう一度、警察に直接聞いてみるしか手はない。例えば、朱里の車が停めてあるところじゃなく、停める瞬間を見ていた人がいるかどうか、ほかに駐車していた車はなかったのか、など確かめる必要がある」
 優がちょこっとペンを動かす。
「二日は想定しなくていい。紀伊半島は大雨。三日は快晴。インターネットで調べ済み」
 優がほのかに笑った。

「次は遺書の件。本人が書いたものか、犯人が自殺と見せかけるために書いたものか。それとも無関係の第三者が書いたものか。あるいは、朱里が強要されて書いたものじゃないのか」
 柏原がうれしそうに頷く。
「俺の名前が出ているが、これはどういうことなのか」
「なんとしても遺書は手に入れたい」
「朱里のプライバシーが云々、とか言わないのか」
「俺は名指しされているんだぞ」
「もちろん見てみたい」

「三点目は関係者の整理。犯人像が全くわからない。行きずりの犯行なんてことは考えないでおこう。この場合は完全にお手上げやし、警察の領分や。で、朱里と最近も付き合いのあった人間のリストアップが必要や。当然、警察は調べてるやろうけど」
「当然、自力で調べまわるしか手はない」

「手始めにコナラ会のリストから、関係のないやつを消去していこう」
「ああ」
「コナラ会以外の関係者は、仕事の方面からヒアリングを開始する」
「というか、それしか思い浮かばないぞ」
「三好という女の人を突破口にする」
「告別式で会った、朱里のパートナーだな」
「彼女の連絡先は、弟さんに聞けば教えてくれると思う。告別式の案内先のリストを見せてくれればもっといい」
 柏原が大きく頷いた。
「そんなところでどうかな」
 優のペンがまた動いた。

「他にも例えば、部屋を見たいとか、事件当時の持ち物をもっと詳しく知りたいとか、現場や車の中を見たいとか、そういうこともあるけど」
「なるほど、なるほど。なかなかいいぞ」
「うるさいぞ」
「絶好調!」
「おい!」
「つまり、どう動くにしろ、弟さんの協力が欠かせないということだな」
「抜かりなく、携帯番号は聞いてある」
「いつ頃、部屋を引き払うんだ?」
「できるだけ速やかにということやろ」
「生駒、できたらパソコンごと借りてきてくれ。遺書はその中に保存されていたんだろ。生で見たい」
「おまえな、さっき朱里のプライバシーがどうこうって」
「借りてこないのか!」
「いわれなくても、もちろん、できればな」

「ところで、弓削をどうする?」
「本人は、なぜ疑われているのか分らないといっていた」
「そんなことはわかっている」
「家が近所だからたまには出会う、というだけの仲じゃなかったのかもしれないがな」
「おい、生駒。いいのか? そんな前提で」
「すべての可能性はまだ排除できない、なんちゃって」
「はあ? で、おまえがそう思う根拠は?」
「ない」
「なんじゃい」
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