第1話 1にちめ
さむいさむい12月の朝。
冷たい朝の匂いが立ち込める日に、ちゅー太は死んでしまいました。
ちゅー太が大切な友達だったはる子ちゃんは、とても悲しみました。
一晩中泣いた後、次の日お父さんと一緒に近くの神社へちゅー太を埋めに行きました。
ちゅー太はお父さんの買ってきたハムスターです。
お父さんは、はる子ちゃんが友達を作るのが苦手なのを知っていました。
そんなはる子ちゃんのなにか手がかりにでもと、お母さんと相談して
連れて帰ってきたのがちゅー太でした。
はる子ちゃんとちゅー太はすぐに友達になりました。
そして「ちゅー太は私の友達だ。」
はる子ちゃんはいつも心に思っていたのでした。
しかし
そんなちゅー太も波寄る年には勝てませんでした。
ちゅー太は、はる子ちゃんの手で神社へ埋められたのでした。
「あれ、ここどこ?なんで僕ここにいるんだろう?」
ちゅー太が目覚めた所は、神社の境内のはずれ。
木々に囲まれていて
暖かい、とても気持ちのいい所でした。
「あ、頭にわっかついてる!、僕もう死んだのかぁ!?」
ちゅー太は短い手で空を掻きながら、頭の上のわっかを触ろうとします。
ちゅー太は賢いハムスターでした。
いつも檻の中でぶら下っていましたが、
心の中では、はる子ちゃんがなにをしたら笑うのか、よく分かっていました。
そんなちゅー太ですから、死んでからもはる子ちゃんのことが
心配で仕方ありません。
「はる子ちゃん、また逢いたいなぁ。」
「はる子ちゃんの布団、あたたかかったなぁ。」
「はる子ちゃんは僕がボーっとしているだけでも嬉しそうなんだ。」
「はる子ちゃんは僕に頬すりするのが好きなんだ。」
「はる子ちゃんにまた逢いたいなぁ。」
ちゅー太は神社の境内をぶつぶつ言いながら、
右に行っては立ち止まり、左に行っては立ち上がりしています。
うろうろうろうろ・・・
そんな時、ちゅー太の後ろから声が聞こえてきました。
「おぬしは、はる子ちゃんが本当に好きなんだな。
一週間だけならば、わしがはる子ちゃんと一緒にいることを許してやろうぞ」
ちゅー太がはっとわれに返り後ろを振り返ると、そこには毛並みの美しい
きつねが座っています。
「わっ!!」
ちゅー太は全速力でそこを離れ、木陰に隠れました。
恐ろしくて見る余裕もありません。きつねはちゅー太の天敵なのです。
根っこの所で毛玉のように丸くなってしまいました。
「こら、ちゅー太。ワシは神様だぞ。」
いつの間にか正面に神々しい姿でまたきつねが座っています。
「お願い、たべないでぇ!!」
ちゅー太は悲壮な声をあげ、助けを乞いました。すると
「いや、落ち着けちゅー太。おぬしは死んでいるし、
ワシはお前なぞ食わんわい。」
神様は太いしっぽをゆっくりとフリフリしながら、ちゅー太をみつめます。
ちゅー太はその姿がどうしても、おいしそうなポーズに見えて仕方ありません。
だいたい神様なんて、会うのも初めてです。
このまま食べられたら、また死んでしまうかも・・
ちゅー太は勇気を出して言いました。
「ほんとに神様?神様ならその証拠を見せてください。」
「疑り深い奴だな。よし、では見ておれ。」
そう言うと、狐の神様はその場でクルンと宙返り。するとびっくり、きつねは
はる子ちゃんに変身してしまいました。
「ワーイ!!」
ちゅー太は嬉しさのあまり駆け寄りそうになりましたが、元がきつねだと知っている
ちゅー太はさすがに我慢して、こういいました。
「すごいや、確かに神様だ!!神様が僕に何のようですか?」
「いや、だから一週間だけならば、はる子ちゃんと一緒にいることを許してやろうぞ。なんだ、話聞いてるか?」
「あ、ごめんなさい、一週間でもはる子ちゃんといたいです。
神様、よろしくお願いします。」
ちゅー太は、はる子ちゃんになったきつねの前に行くと
手を合わせてお願いしました。
「よし、おぬしの願いは聞き入れた。今宵から一週間、春ちゃんの近くにいることを
許そう。しかしおぬしの姿は、はる子ちゃんからは見えん。触ることも出来んからな。
よく心得よ。」
そういい残すと、神様はまたクルンと回って、今度は姿が消えてしまいました。
「わーい!!」
ちゅー太はもうダッシュではるこちゃんのいる家へ、駆け出していきました。
第2話 2にちめ
ちゅー太が死んでしまって最初の朝。
家では、はるこちゃんが机の上に座っています。
「はぁぁぁ」
はるこちゃんは魂の抜けた目で、ぼーっとしています。
どうもやる気が起きなくて、学校に行くか、行かないか迷っているみたいです。
「やる気が起きないなぁ・・・ちゅー太いないしなぁ。
今日ならお父さんとお母さんも学校休んでも怒らないかな・・・・」
はるこちゃんの中で、弱い心がムクムクと大きくなっていきます。
そんなはる子ちゃんの頭の上で帰ってきたちゅー太が応援しているとは
流石にはる子ちゃんも思わなかったでしょう。
「は・る・子・ちゃーん!!頑張れ頑張れ!頑張って学校行け!!
もう僕はいないんだぞ、家にいたってやる事無いぞ!!」
ちゅー太ははる子ちゃんの髪の毛を、力いっぱい掘りさげながら応援しました。
「・・・・やっぱり学校行こう・・・家にいたってへっこみそうだし・・・・」
はる子ちゃんは自分の部屋から飛び出して2階から駆け下りると
玄関においてある手袋を手にして、うつむきながら言いました。
「いってきま〜・・・」
どうやらちゅー太の気持ちは通じたようです。
ちゅー太は嬉しさのあまり、はるこちゃんの頭を更にかきむしりました。
はる子ちゃんがとぼとぼ学校に向かっていると、後ろから声を掛けてくる子がいます。
「はるちゃ〜〜ん!おはっすー!!」
クラスメートの夏子ちゃんです。
夏子ちゃんはクラスでも明るいので人気者です。
そしてはる子ちゃんと家が近いので学校へ行く時はよく逢うのでした。
「はるちゃん、今日も寒いね。もう学校行きたくないねぇ〜。」
とか言いながら、夏子ちゃんははる子ちゃんの肩を掴んで、そのまま一緒に歩いていきます。
「実はね、前から飼っていた、うちのハムスター死んじゃったんだ。」
はる子ちゃんは夏子ちゃんが聞いてもいない事を、淡々と話し始めました。
言わなくても良い事。
それは分かっていましたが、言わないと秘密にしている様で気持ち悪かったのです。
「昨日埋めてきたの。」
夏子ちゃんはびっくりもせず、
「うわー、それは辛いね。私も前に犬の「ポチ」死んだときは悲しかったもん。
大丈夫?まだ辛いだろうけどゆっくり元気出してね。」
はる子ちゃんはその言葉で、とても癒されました。
でも夏子ちゃんは声が大きいので、続きを話すのは止める事にしました。
そのまま学校に着き、校門の所に差し掛かると後ろから走って近寄ってくる
少年がいます。
「うっわ、きっしょー!また「はる子」と一緒に学校来てる!
お前はる子菌うつんぞ!!」
少年は二人の前に回りこみ、夏子ちゃんを見ながらそう叫びました。
「あほか、どっかいけ!おまえの方がきもちわるいわ!」
夏子がそう言うと少年はにやにやしながら、走っていきました。
「はるちゃんあんな奴無視したったらいいのよ、かまってほしいだけなんだから。」
「うん」
はる子ちゃんはただ頷くだけでした。
一方、はる子ちゃんの頭の上では毛を逆立てて怒っているハムスターがいます。
「神様―!!神様―!!神様―!!」
ちゅー太ははる子ちゃんの髪の毛をかみ締め握り締めながらこう言い放ちました。
「あいつ殺してください。」
「駄目。」
ちゅー太の意見は聞き入れられませんでした。
人との話し方がいまひとつ分からない。
はる子ちゃんは人とうまく話すことが出来ません。
今日も休み時間には教室のカーテンの裏側に入り、目の前にある体育館の屋根をぼぅっと見つめています。
体育館の屋根にはたくさんの鳩が暮らしていました。はる子ちゃんはそんな鳩達の生活を何も考えずに見ているのが大好きです。
むくれてじっとしている鳩
鳩をずっと追っかけている鳩
追っかけられるのが嫌で飛んで逃げていく鳩
二匹ならんで幸せそうな鳩
お日さまの下でそんな鳩たちを見ていると、閉塞感ただよう教室からそっと抜け出せたような、そんな気がするのでした。
授業も終わり、学校の帰り道。
はる子ちゃんはまたちゅー太のことを思い出していました。
もうちゅー太とお話が出来ない、そう思うだけで涙があふれそうになりました。
「そうだ、ちゅー太に会いに行こう。」
はる子ちゃんはそのまま神社の境内の方へ向かいました。
夕方の神社は、決して落ち着くものではありません。
早く帰らないと真っ暗になってしまうし、なぜかおじいさんやおばあさんが頻繁にお参りに来るからです。
人が苦手なはる子ちゃんは、極力おじいさんやおばあさんに目が合わないようにしながらちゅー太のお墓へ向かうのでした。
「ちゅー太来たよ。今日も寒いね。
今学校の帰りでね、ちゅー太が寂しくないかなぁと思ってここに来たんだよ。
私の愚痴、今まで色々聞いてくれてありがとうね。
ちゅー太のお陰ですごく楽しく毎日が過ごせたよ。今日はちゅー太がいないんで学校休もうと思ったんだけど、学校行ってやったよ、私も強くなったね。
ちゅー太はもうゆっくり休んでね。また来ます。じゃね、ちゅー太。」
はる子ちゃんはちゅー太のお墓の前にしゃがみこみ、手を合わせました。
頭の上では、ちゅー太も一緒に手を合わせているのでした。
第3話 3にちめ
寝ると朝が来ます。
朝が来ると学校へ行かないといけません。
学校へ行くと居場所が無くて申し訳ない気持ちになります。
だから学校へは行きたくないのですが・・・・今日も朝が来ました。
夏休みの朝はきらきらしていて楽しいのですが、どうして学校のある時の朝はこんなに窮屈なんだろう?
そんなことを思いながら、はる子ちゃんは温かい布団からゆっくりとでてお父さんとお母さんのいる居間に向かいました。
「おはぉ・・・」
するとおかあさんがおはようと返事してくれました。
おとうさんは新聞を読んでいて無視でした。
はる子ちゃんはそのままテーブルの椅子へ座ろうとしました。するといきなりお父さんがばっと新聞を閉じて、
「はる子気をつけろよ、最近この辺りに変質者がいるらしいんだ。最近分かったらしいんだけど、ここ最近だけで5人も子供が行方不明になってるんだって。
学校が終わったらまっすぐ帰って来いよ。変なおじさんに声掛けられてもすぐ逃げなくちゃ駄目だぞ。」
そういいながらお父さんは、5人の写真が載った新聞をはるこちゃんに向けました。
はるこちゃんが新聞に目を向けると5人の女の子が、白黒の写真で新聞に写っていました。
荒い写真だったので詳細な顔まで分かりませんでしたが、はる子ちゃんは感じました。
「この子達、私とちょっと似てるかな?」
でもそれは言いませんでした。
「うん、気をつける。」
それだけ伝えてお母さんが持ってきたパンを食べ始めることにしました。
「はるちゃ〜〜ん!おはっすー!!」
はる子ちゃんがだるそうに歩いていると夏子ちゃんが走ってきました。
はる子ちゃんは前々から思っているのですが、どうして夏子ちゃんがいつでもこんなに元気なのか不思議でたまりません。
絶対おなじ人間である以上、夏子ちゃんにだって落ち込んだりする時があるはずです。
悲しいときや、気ののらない時があるはずなのです。
なのに、夏子ちゃんはいつでも元気です。
不思議というか、すごいなあ。
なんて思っていると夏子ちゃんがいきなりノリノリで話しはじめました。
「聞いた聞いた!?最近この辺りで変質者がうろうろしているらしいんだって!!
もう5人も行方不明になってるみたいよ!
そんでその中の一人は隣の小学校の子らしいよ!マジびっくりした!!」
「え、となりの小学校!?」
これには、はる子ちゃんも少し驚きました。
もっと遠い所の話だと思っていたからです。
「そうよ、となりとなり、砂地小学校の子らしいよ。絶対犯人この近所に住んでるって!!やばいよね〜」
ヤバイわりに夏子ちゃんはうれしそうです。
「砂地の子なんだね!?怖いなぁ。」
さすがにはる子ちゃんも少し心配になりました。
怖いなぁ、そんなことを思っていると後ろから走ってくる足音が聞こえてきます。
近づいてきたなと感じた瞬間、いきなりはる子ちゃんと夏子ちゃんは背中をドンと押されました。
「なっちゃん、はるちゃんおはよう!!今日のニュース見た!?子供を誘拐してる犯人がこの辺りにいるみたいやん!怖いなぁ、ぼさぼさしていたら誘拐されるでー!!」
秋夫君は近づいてくるやいなや、口早にしゃべり出しました。
「もうびっくりした!!いきなり背中押さないでよ、犯人か思ったじゃないの!」
夏子ちゃんは笑いながら、いいました。
秋夫君は今年の夏くらいに関西から引っ越してきた男の子です。
お父さんの仕事の関係であちらこちらによく引越しするみたいで、本人いわく、あちらこちらに友達がいるそうです。
あちらこちらに友達を作る秋夫君だけあって、はる子ちゃんの小学校へ引越して来た時もすぐにクラスになじんでいきました。
人が苦手なはる子ちゃんも、差別することなく話しかけてくれる秋夫君には少し興味があります。
興味というか尊敬というか、ちょっと好きみたいです。
「はる子ちゃんも気をつけなあかんで。テレビでも言うてたけど、大人しそうな女の子ばっかりさらってるみたいやし。はる子ちゃんなんか危ないでー。」
と秋夫が夏子ちゃん越しに言うと、はる子ちゃんは少し避け気味に「う〜ん」とだけ言いました。
一方、はる子ちゃんの頭の上では悔しそうに半泣きになっているハムスターがいます。
「神様―!!神様―!!神様―!!」
ちゅー太ははる子ちゃんの髪の毛をかみ締め握り締めながらこう言い放ちました。
「あいつ転校させてください。」
「駄目。」
ちゅー太の意見はまたもや聞き入れられませんでした。
いざ、学校に着くと黒板に
「体育館へ集合」
と大きな文字で書かれていました。
夏子ちゃんは他の友達メンバーと一緒に体育館に向かいました。
秋夫君は他の男の子達と一緒に体育館に向かいました。
はる子ちゃんは・・・やはり一人で体育館に向かうのでした。
子供向けに分かりやすくされた連続誘拐事件の説明の話と、帰り道には気をつけましょうと校長先生から聞いた後、各生徒は学年ごとクラスごとに戻っていきました。
はる子ちゃんは、クラスへ帰る途中、ちゅー太の墓参りをやめるべきか、やめざるべきかとても悩みました。
そして授業が終わり学校の帰り道。
はる子ちゃんはまだ悩んでいました。
先生の言うことは守らないといけません。先生の言うことは正しいし、もし破っているところを巡回の先生に見つかってしまったらきっと怒られます。
怒られるのは嫌です。
先生はいつも怒る時、
「怒られるのは嫌だろうけど、怒る方も嫌なんです」
といいます。もうあのせりふは聞きたくありません。
怒るのが嫌なら怒らなければいいのに。
はる子ちゃんは悩みました。悩んでいるはずなのに足は自然と神社の方向へ進んでいくのでした。
ちゅー太は、死んでからも毎日お参りしてくれるはる子ちゃんが、生きていた時よりもさらに好きになりました。
はる子ちゃんと一緒に生きてきて本当によかったなあと感激するのでした。
はる子ちゃんが境内の階段を上り神社に入ると、おじいさんやおばあさんがいつもの様にお参りをしています。
いつもはいない方が落ち着くのですが、今日に限ってはお参りに来ているおじいさん達が唯一の味方です。
敵である先生が混じっていないことを確認すると、はる子ちゃんは足早にちゅー太のお墓へ向かいました。
はる子ちゃんは手を合わせながら、
「ちゅー太また来たよ〜」と小さな声で話し始めるのでした。
ちゅー太もいつもと同じように手を合わせようとすると、ふと目の前になにかがいます。
それは太いしっぽの神様でした。
ちゅー太は神様に
「僕のお墓の上に乗らないでください!!」
と怒りました。
でも神様は動じません。それどころかいつもより落ち着いていて怖い感じです。
「ごめんなさい神様。僕のお墓の上に乗っていてもいいです。」
ちゅー太がびびっていると神様は太いしっぽをゆっくりと振りながら話し始めました。
「ちゅー太、冗談を言っている場合ではないぞ。はる子ちゃんが、物の怪に目を付けられておる。ほれ、後ろを見てみぃ。」
ちゅー太が後ろを振り向くとそこにはお参りをしている若い男が一人、お賽銭を入れている所でした。
男の足元にはとても可愛い女の子がいました。
歳ははる子ちゃんと同じくらい。
身の丈もはる子ちゃんと同じくらい。
ただ、顔ははる子ちゃんとは比べ物にならない位かわいいし、真っ黒で艶やかな髪に真っ黒な服を着ています。
真っ黒な女の子は真っ黒な瞳で、じぃっとはる子ちゃんを見つめているのでした。
「あの可愛い女の子が物の怪ですか?」
「そうじゃ。」
「他の人間には見えていないんですか?」
「そうじゃ。」
「可愛いですよ、あと10年もすればすごい美人になるんじゃないかなぁ?」
「そうじゃな。だがあれは人間ではない、物の怪だ。
あの男の生み出した醜い心そのものであろう。」
「あんなに可愛いのに醜い?」
ふふふと神様は少し笑いました。
「ちゅー太よ、美しいからすべて正しいのではないぞ。
美しいものにも悪い力は宿るものじゃ。
美しい。
可愛い。
かっこいい。
それだけで人は魂を揺さぶられてしまうものなのじゃよ。
人を殺め、罪を犯し、なおその美しさに惑わされ魂を売る。
本当に美しい事とはな、本来目立たずとても地味なものなのじゃ。」
ちゅー太は神様の言う事がいまいちよく分からないので、無視して女の子を見つめるのでした。
「神様、もしかしてあの真っ黒い女の子の近くにいる若い男、
あいつが最近子供たちを誘拐している犯人なんじゃないですか?」
「たぶん、そうじゃろう。」
「もしかして、次ははる子ちゃん狙ってるのかな?」
「あの者を見る限りでは、そう見えるの。」
ちゅー太は、身の毛がよだちました。
まさか、はる子ちゃんが狙われるとは!!
「神様!!」
ちゅー太ははる子ちゃんの髪の毛を引き抜かんばかりに引っ張り上げながらこう言い放ちました。
「はる子ちゃんを助けてください!お願いします!!」
ちゅー太は一生懸命神様にお願いしました。
そんな姿を見ながら、神様は言いました。
「わかったわかった。そんなにせっつくな、落ち着け。
ちょっとまっとれよ、ワシが今から他の皆とどうするか話をつけてやるから。」
そう言うと、神様はしっぽをピーンと立て、まっすぐ空を見つめながらなにやら交信を始めました。
喉元の真っ白のふさふさの毛が風に吹かれ、ただよっています。
大丈夫かなぁ?
ちゅー太はとても心配でした。
緊張の面持ちでじっと待っているといきなり、はる子ちゃんが立ち上がりました。
「じゃあ、ちゅー太。今日はもう帰るね。」
はる子ちゃんはそう言うとちゅー太のお墓に小さく手を振りました。
「わっ!!はる子ちゃんまだ帰っちゃ駄目だって!!」
ちゅー太は、はる子ちゃんに叫びかけました。
しかしどうしたことか、こういう時に限ってちゅー太の声がはる子ちゃんにちっとも届きません。はる子ちゃんはそのまま境内の階段へ早足に歩き始めました。
それと同時にさっきまでお参りしていた若い男も、はる子ちゃんを確認し境内の階段の方へ足を運び始めます。
若い男の後ろをついていく女の子の物の怪は、はる子ちゃんに近づくにしたがってどんどん輝きを増していきます。美しく、そしてとても深い漆黒を身にまといだし始めました。
神様はまだしっぽをピーンと立て、まっすぐ空を見つめたままです。
「あわわわわ、はる子ちゃんがさらわれちゃう!さらわれちゃうよー!!」
ちゅー太はもう、あわあわ言いながら神様と若い男を交互に見ることしか出来ません。
はる子ちゃんと若い男との距離はどんどん近づいて行きます。
4、3、2歩・・
あと1歩も歩けば、はる子ちゃんは若い男に捕まる距離です。
もう駄目だ、さらわれちゃう!!
ちゅー太が丸くなろうとした瞬間、後ろから神様の声が聞こえてきました。
「ちゅー太!!はる子ちゃんを急がせるんじゃ!!」
ちゅー太は振り向かないまま髪の毛を握り締め、めいいっぱい叫びました。
「はる子ちゃん!!走ってー!!」
今度ははる子ちゃんに思いが通じたのか、はる子ちゃんは少し駆け足気味に境内の階段を駆け下りていきます。
しかし、若い男の方は止まりません。若い男がはる子ちゃんの方へ手を出そうとしたその瞬間!
神様は真っ黒の少女に向かって飛び出して、そのままどーんと体当たりしました。
神様が少女の体を通り過ぎると、少女の胸辺りにはぽっかりと大きな穴が空きました。
するとどうでしょう。若い男は、追うのを止め、差し出した手をポケットに入れタバコを取り出し、吸い始めたのでした。
真っ黒の少女は自分の体に空いた穴を見つめた後、とてもびっくりした顔で神様に語りかけました。
「まぁ!!神様が私に直接接触してくるなんて驚いた。こんなこと何百年ぶりよ!
私なにかいけないことをしたのかしら?」
真っ黒な少女は乱れて額に降りてきた真っ黒な髪をゆっくり掻き揚げながら、更に続けます。
「私を攻撃しても仕方ないのは神様もご存知のはずよ、私は日向に伸びる影なのだから。私はただ彼が望むものを全て与えているだけ。」
それを聞いた神様が答えました。
「まさしくその通り。溺れているのはそやつ自身なのじゃからな。
まったく心の弱い男じゃ。
しかし、今回ばかりは少し事情が違っておってな。その男の望むもの、少々物が過ぎるようじゃ。
ただただ望むものを与えるのがお主達の仕事なら、物の価値を教えるのがワシらの仕事。悪いが今回ばかりは邪魔をさせてもらうぞ。」
そういうと、神様は一度だけゆっくりしっぽを振りました。
真っ黒な少女は、
「そういう事情なのね、よくわかったわ。
でも私は私の仕事をするわよ。彼が望めばそれを与えるようにするのが私の仕事。
彼が金を望めば金、命を望めば命、憎しみを望めば憎しみを与えるわ。」
そして最後にこう言い放つのでした。
「今、彼が一番望んでいるのは・・・はる子ちゃん。それ以外に何も無いみたいよ。」
第4話 4にちめ(心の弱い、男のはなし。)
今日、境内へ散歩に行ったら隅の並木で女の子を見つけた。
しゃがんで手を合わせていたから、多分あそこにペットか何かのお墓があるんだろう。
僕も今お墓を造らないとような事になったら、ここの境内に作るかな?
たぶん、あそこまで運ぶの大変だろうし、やっぱりその時が来たら自分の家の庭の端っこにでも埋めちゃうんだろうな。
今、僕の家には5人の女の子がいる。
綿密な計画で誘拐してきた、まさに選ばれた5人なんだ。
だからみんな、僕の言うことをちゃんと聞くしとても礼儀正しい。
まあ、実際のことを言えば、そこまで教育するのは確かにとても大変だった。
短期間であそこまでにしたのは自分で言うのもなんだけど、すごいと思うよ。
最近の親はほんと馬鹿ばっかりで、子供も基本がなっていないんだよな。
そのせいで、俺がどれだけ苦労したことか・・・。
今度彼女等の親にあったら、教育ってものを話してやりたいよ。
まぁ、会う事は無いだろうけどね。
ところであの神社にいた女の子は、はる子ちゃんと言うらしい。
名札をつけたままにしていたからすぐに名前が分かったよ。
素直そうないい感じの子だったな。
あれこそが、本当の小学生だよ。
やっぱりああでないと。
実は昨日連れて帰ろうかと考えたけど、もう少し考えて見ることにした。
だって、6人だよ、今度つれて帰ったら。さすがに6人を相手にするのは少々大変だよな。現に今の5人だって相手するのが一苦労だよ。
後もう一つ心配事なのが警察だ。
どうやらやっとこさ気づいたらしく、テレビでも放送が始まった。
やっとだ。やっと気づきやがったという感じだ。
あいつ等このまま無視し続けやがったら、一人くらい殺してどこかへ捨ててきてやろうかと思ったけど、ぎりぎりセーフだったな。
頼むぜ、ちゃんと俺についてきてくれよ、お前らの頭じゃ限界があるのは分かってるんだけど、あんまりもっさりしてると取り返しつかなくなるぜ。
まぁ、これでやっと俺の伝説が始まる下準備は出来た訳だ。
が。
後はあの子、はる子ちゃんだ。
・・・どうしようかな。
あの目。あの目は優秀な目なんだ。ちょっと教育するだけで俺の言うことなんでも聞くようになるぜ。
連れて帰ろうかな?
でも、今連れて帰ったらテレビもさらに騒ぐだろうしな・・・。
・・・
よし!明日連れて帰ろう!
明日神社で待ち伏せして、そのまま連れて帰ろう!
よしやるぞ!今から計画を練ろう、楽しみだな・・・・・
第5話 5にちめ
今日も無事、授業も終わりました。さすがに誘拐の話も発覚してから3日目という事もあって、教室でもおとつい前程は噂になっていませんでした。
先生もまっすぐ帰りなさいとお決まりの言葉を残すのみで、すぐに職員室へ戻っていきます。
そんな中、はる子ちゃんは先生にばれないことに気をよくして、今日も当たり前のようにちゅー太のお墓がある神社の境内へ足を運ぶのでした。
「今日も来ちゃったよ、ちゅー太」
はる子ちゃんは上機嫌です。
今日が金曜日なので明日から休みというのもありますが、新しい自分の日課が出来たのが嬉しいのでした。
今のはる子ちゃんには「忙しい、忙しい」と言いながら嬉しそうに働くお母さんの気持ちもよく分かります。
はる子ちゃんが気分よくちゅー太のお墓とお話しをしていると、いきなり後ろから声を掛けてくる人がいます。
「こら、寄り道しないで帰らないと駄目だろ!」
はる子ちゃんはびっくりしました。おとついも昨日も大丈夫だったのにまさか今日見つかるなんて!!
はる子ちゃんは振り返って声を掛けてきた人の顔を見つめました。
おじさんまでいかない、若い感じの男の人でした。
男の人は
「こらこら、君は四戸小の生徒だな!?おじさんはPTAの班長だよ。先生から寄り道しちゃいけないって聞いてなかったのかい!?」
確かに若い男の首からは「PTA」と「班長・冬髪」と書かれた名札がぶら下がっています。
はる子ちゃんは先生でない事に少しほっとして、
「ごめんなさい、今すぐ帰ります。」
と素直に返事をして、置いていたカバンを背負いました。
「よし、んじゃ階段の下までおじさんも降りるから一緒に降りようか?」
「はい。」
はる子ちゃんはまたもや素直に、その冬髪班長の後ろをついて行くのでした。
それはとても普通な光景で、誰も怪しいと思うことはありませんでした。
しかし私達の見えないもう一方では、そうぜつな戦いが始まろうとしていたのです。
少し時間は戻って・・・
誘拐犯の男が現れた時、まず最初に驚いたのはちゅー太でした。
以前、誘拐犯の冬髪に出合った時、ちゅー太はその男の後ろを歩く真っ黒なかわいい少女を見たのですが、今は違います。
男の後ろをついて歩いているのは、真っ黒な服を着た、はる子ちゃんそのものでした。
ちゅー太は、自分をお墓に乗っている神様に話しかけました。
「神様神様、あいつまた来ましたよ。しかもあの黒い女の子の顔、はる子ちゃんそっくりになっています!」
それを聞いた神様は、
「あやつの姿は、あの男の欲望そのものじゃからな。
きっと今日は、はる子ちゃんをさらう気でこの境内に来たのじゃろう。」
そしてそのまま神様は「黒いはる子ちゃん」へ話しかけるのでした。
「その男、いよいよ覚悟を決めてきてしまったようじゃのぅ」
すると、「黒いはる子ちゃん」は答えました。
「ごきげんよう、神様。どうやらこの男どうしてもはる子ちゃんが欲しいみたいでね。もう我慢できないみたい、おかげで昨日は大変だったのよ。」
というと、「黒いはる子ちゃん」は冬髪の後ろで意味ありげにふふふと笑うのでした。
それを見たちゅー太は
「そんなことはさせないぞ!はる子ちゃんは僕が守るんだ。はる子ちゃんには指一本触れさせないぞ!!」
と意気揚揚です。
それを見た「黒いはる子ちゃん」はにこやかに答えました。
「あらあら!?そういえば、おとついもはる子ちゃんの頭の上に何かいるなと思っていたのよ。あなただったのね。
はじめまして、ハムハムちゃん。私の名は「ウィンスタ」。彼の悪い心に呼び出された欲望の化身よ。」
ウィンスタはスカートの両端を持ち上げると、軽く会釈をしてちゅー太へあいさつをしました。
いきなりあいさつをされたちゅー太は、とまどってしまいました。
どうしたらいいのか分からないちゅー太は、神様を見て目で訴えかけます。
神様は
「あいさつしてきたんじゃから、あいさつで返すのが礼儀じゃろうのう」
神様はちゅー太にあいさつで返すよう、うながしました。
神様に助言してもらったちゅー太は立ち上がり、はる子ちゃんの髪の毛をわしづかみにしながら胸を張って自信満々に答えました。
「僕ははる子ちゃんの元ペットでハムスターのちゅー太だ。一週間ほど前に死んでこの神社に埋められたが、訳あって今ははる子ちゃんと一緒に暮らしているのだ。
はる子ちゃんに手出しすると僕が許さないぞ。」
それを聞いたウィンスタは嬉しそうに答えました。
「まぁ、かわいらしい守護天子様ね、はる子ちゃんの人柄がいよいようかがえるわ。」そう言うとウィンスタは人差し指を前に差し出し、ひょいっと下に向けました。
すると、ちゅー太の頭上に青白いカミナリが現れ、ちゅー太をめがけてドシンっと落ちてきたのです!
自信満々で胸を張って立ち上がっていたちゅー太は、頭の先から足先まできっちりカミナリを浴びて真っ黒なタンポポのようになってしまいました。
ちゅー太は、ちゅっと一声残すと墨屑のようにその場に崩れてしまいました。
それを見ていた神様は
「いや、このハムスタは守護天使などではありゃせんよ、こやつはただのはる子ちゃんの元ペットで、死後の名残でおるだけじゃ。」
それを聞いたウィンスタは「あらら」っと言いながら、口を押さえてびっくりした顔をするのでした。
はる子ちゃんは真っ黒になったちゅー太を頭に乗せながら、冬髪の後ろをついて神社の階段を下りていきます。
神様はやれやれと首を振りながら真っ黒なちゅー太を口にくわえ、かわりにはる子ちゃんの頭の上に乗って、一緒に神社から出て行くのでした。
階段を降りきるとはる子ちゃんは、冬髪にあいさつをして帰ろうとしました。
冬髪はそんなはる子ちゃんを見て
「やれやれ、本当にまっすぐ帰るのかい?おじさんの車に乗っていきなさい、もう暗くなるし送ってあげるから。」
と言いながら、車のキーを出すのでした。
はる子ちゃんは神社からそんなに離れた所に住んでいるわけでないのですが、車に乗るのは大好きです。
どうしようと悩んでいる間に、冬髪が車の鍵を開けどんどん用意していくので結局乗ることにしました。
それに一番驚いたのは神様です。
「はる子ちゃんは無防備じゃな、知らない人の車には乗ってはいかんと言われておるはずなのに・・・。」
そんな言葉を知ってか知らずか、はる子ちゃんが助手席に乗ろうとしたその時!
後ろから大きな声で「なにしてるのー!」と叫びながら走ってくる女の子がいます。
それは夏子ちゃんでした。
夏子ちゃんは追いつくと、
「はる子ちゃん家の車って黒じゃなかったっけ?新しいの買ったの?」
と息をきらしながら話し出します。
はる子ちゃんはこれまでの経緯を、夏子ちゃんに説明するのでした。
車の中でイライラする冬髪のひざの上から、ウィンスタは二人に向けてにゅーっと手を伸ばしました。
その手は二人を捕まえると車の中にぐいぐいと引っ張り込もうとします。
すると今まで不審な顔で話を聞いていた夏子ちゃんの態度が一転し、
「おじさん私も送ってよー」と一緒に乗り込もうとするのでした。
神様は真っ黒なちゅー太をくわえながら、こりゃだめじゃとまた首を振っています。
そんな態度を知ってか知らずか、二人が助手席と後部座席に乗ろうとしたその時!
後ろから大きな声で「寄り道あかんのにー!」と叫びながら走ってくる男の子がいます。 それは秋夫君でした。
秋夫君は追いつくと
「二人でどこいくん?だれのおじさん?」と不振がるのでした。
さすがの冬髪もこれには限界で大声を出してしまいました。
「もうまとめて送ってあげるから、早く車に乗りなさい!」
3人はハッと驚いて振り向きます。
何かイライラしていて、とても怪しい雰囲気をかもし出しています。普通なら子供置いて一人で帰るだろうに・・・
「もう3人で歩いて帰ろうか?」
普段ならそうなるところですが、ウィンスタの手が3人にがっちり絡んで放しません。
3人は結局その場の空気に流されて、車に乗ってしまうのでした。
夏子ちゃんとはる子ちゃんは後ろの席。
秋夫君は助手席です。
車は静かに発進しました。走り出してすぐ、冬髪が話し出します。
「あぁ、しまった!!今日の夜回りの荷物、家に忘れてしまったよ、ちょっとだけ家によっていいかな?もし遅くなってしまったら、ちゃんと私から君達の両親には説明するよ。」
これも、普段の3人ならば疑うところなのですが、3人とも車に乗るのは嫌いではありません。長く乗れて、親に怒られないのであれば逆にちょっとラッキーです。
3人はそのまま冬髪の家まで連れていかれるのでした。
神様はそんなはる子ちゃんの頭の上から、ウィンスタへ話しかけます。
「この男、3人もさらってどうするつもりじゃ?今回は男の子までまじっておるぞ。」
神様は車の中をくるりと見渡しながら、ゆっくりとしっぽを振りました。
ウィンスタは
「知らないわよ、私は男の思うがまま、手伝っているに過ぎないんですから。本当どうするつもりなのかしら?」
そういいながらウィンスタは、後ろの席へ移動してきました。
ウィンスタが、はる子ちゃんの前へ顔を近づけながら、
「本当ならこの子だけでよかったのにねぇ。」と声をかけ、両手をはる子ちゃんの頬に当てて悲しい笑みを浮かべるのでした。
車は冬髪の家へ到着しました。
そこは大きな庭のある家で、冬髪はその庭へ無造作に車を止めます。
冬髪はそのまま運転席へ座り続け、外へ出て行こうとしません。それどころか今にもタバコでも吸い始めそうなくつろぎ具合です。
不思議に思った秋夫君は冬髪に声をかけようとしました。
その瞬間
冬髪はいきなり手元に隠し持っていた警棒で、秋夫君に向かって殴りかかりました。
どんっ!!
警棒はとても鈍い音を立て秋夫君の胸に当たりました。
秋夫君の体は、「くの字」のまま動きません。
冬髪は折れ曲がった警棒で、今度は秋夫君の背中を力任せに殴りつけます。
どんどんっ!!
警棒は車の屋根に当たった後、秋夫君の背中に向かって強く叩きつけられました。
秋夫君は声が出ない為に左の手のひらを冬髪に見せ、もうやめての格好をしています。
「お前ら!マジふざけやがって!!こんな時間までうろうろするわ、知らないおっさんの車に乗り込むわ、どういうつもりだ!!殺すぞ!!」
冬髪は後部座席にいる夏子とはる子を睨みつけながら、身を乗り出して叫び始めました。
「今から俺がお前らきっちり教育してやるから覚悟しろよ!!」
はる子ちゃんは全身の何かがさぁっと引いていくのを感じました。
同時に指先に震えがきます。
怖いと震えるのは漫画でよく読んではいましたが、実際に震えたのは初めてです。
隣にいる夏子ちゃんを見る余裕はありませんでしたが、多分同じような気持ちでいるのでしょう、かすかに震えているのが見えます。
冬髪はそんな二人を見て、表情は変えませんがとても満足そうです。
そのまま勢いよく車から出て、秋夫君のいる助手席の扉を開けました。
そうして、秋夫君の襟首をつかむと同時に、
「お前ら逃げンじゃねえぞ、逃げたらこいつ殺すからな。ついてこい。」
そう言うと、動かなくなった秋夫君を引きずりながら家の玄関へ向かっていくのでした。
車の中に二人っきりになったとき、最初に夏子ちゃんが話し出しました。
「どうしよう、いく?」
はる子ちゃんはその声を聞いて初めて夏子ちゃんの方を見ました。
夏子ちゃんの手は両手ともふざけているのかという位、震えていました。
「秋夫君殺されちゃうよ、いこ・・」
そう言ってはる子ちゃんは車の扉に手をかけようとしましたが、震えがひどくてうまく開けれません。
でもこのままでは秋夫君が殺されてしまいます。はる子ちゃんは震える手を押さえながら何とか扉を開けて車から出て行きました。
二人が玄関に入ると、秋夫君の首根っこを持った冬髪が、だるそうな顔で待っています。「こっちだ。」
静かにそう言うと部屋の奥へ秋夫君を引きづりながら入っていきます。
家は想像以上に大きな家でした。
長い廊下を奥へ奥へ入っていくと、突き当たりに引き戸のような扉が現れました。
冬髪がその扉を開けると、勢いをつけて秋夫君を放り込みます。
「お前らも入れ。」
二人は冬髪の言うとおり、その部屋へ入っていくのでした。
三人が入ると冬髪は、バシンと扉を閉め、鍵を掛けてどこかへ歩いていきました。
状況は最悪ですが、冬髪が一時でも遠くに行ったことに二人は少し安心することが出来ました。
はる子ちゃんはまず部屋を見渡しました。
するとさっきまで全然気づかなかったのですが、私達3人の他にも人がいます。
みんな同い年くらいで、同じ服を着せられています。
いち、にい、さん、、、、
「五人だ。」
はる子ちゃんはつい声に出して言いました。
間違いありません。
冬髪は新聞に出ている誘拐犯です。
近所の女の子をさらっているのです。
はる子ちゃんは5人の女の子をよく見てみました。
3人は壁を見つめて動きません。
2人はこちらを見てニヤニヤしています。
みんなメイド服を着せられていて、力なく壁にもたれかかっています。
はる子ちゃんが、5人の女の子を見ていると、夏子ちゃんは話しかけてきました。
「冬髪、やっぱり誘拐犯だよ。あの5人、誘拐された子達だよ。」
「そうよね。」
「しかもメイド服着せられてるよ、あの男変態だよ。」
「・・・」
返事を返すと怖くなりそうなので、はる子ちゃんは返事を返すのをやめました。
とりあえず、あの5人とは逆の隅のほうへ行くことにしました。
部屋は6畳くらい。
これといって何も無いのですが、なぜか衣類とおもちゃの人形があちらこちらに散らかっています。
衣類をどけながら、2人で秋夫君を引きずっていきます。
秋夫君はどうやら意識はあるようでした、ただ傷がひどいらしく引きずる度に苦しそうに呼吸します。
秋夫君を一番隅に寄せ、隠すようにしてはる子ちゃんと夏子ちゃんはその前に三角座りをしました。
しばらく沈黙が続きました。
しかし、それは私達の世界の話。
見えない世界では、大声でハムスタがなにやら叫んでいます。
「はる子ちゃん!大丈夫!!僕が守ってあげるから安心してよ!!
怖がっちゃ駄目だよ、あいつは怖がると図に乗るよ。」
ちゅー太は、はる子ちゃんの耳元で一生懸命叫んでいます。
もう鼻先は耳の中に入るほどの勢いです。
「怖くないよ!怖くないよ!僕が絶対守ってあげるからね!!」
ちゅー太は怯えるはる子ちゃんを守ってあげるのに必死でした。
しかし、その声は届いているのか分かりません。
それでも、ちゅー太は黙っていることが出来ませんでした。
その点、神様は相変わらずです。
はる子ちゃんの頭の上でゆっくりとしっぽを振って落ち着いています。
ちゅー太はそんな神様が許せませんでした。
「神様、どうして助けてくれないんですか?何の為の神様なんですか?
そんな神様ならいらないじゃないですか!!」
大声で叫ぶちゅー太を尻目に、神様はゆっくりと話しました。
「ワシらは別に人間の正義や犯罪やらを正す為にいるわけじゃない。
温かい家庭や、優しさの中にこそワシらの居場所はあるのじゃ。」
「では、その為にこの状況を何とかしてくださいよ!
この部屋にいるみんなにも温かい家庭があるんですよ!!」
「ワシらは人を裁かん。人を裁くのは人じゃ。」
そういうと、また神様はゆっくりとしっぽを振って前を見据えました。
「ちゅー太、そろそろ来るぞ。」
神様がそう話したとたん、いきなり廊下をドカドカ歩く足音が近づいてきます。
「ちゅー太、はる子ちゃんを助けたければ、何があってもウィンスタを近づけてはならんぞ。ここが正念場じゃ!」
そう言うのが早いか、乱暴に鍵は開けられ冬髪が入ってきました。
そして、その横に立つウィンスタの美しさは今までに見た中で最高の美しさを醸し出しています。
その黒髪はとても艶やかで、まるで濡れているようです。
その肌は蝋の様に白く、瞳はバラのように真っ赤になっています。
様子も今までと違い、とても高飛車で傲慢です。
ウィンスタは神様とちゅー太を見つめ、こう言い放ちました。
「おまえ達、邪魔をするならばするがよい。今、冬髪の気は爆発寸前だ。
この私でもここまで穢れた人間に出会ったのは初めてだよ!!」
そういい捨てるとウィンスタはその透き通った指先で、はる子ちゃんの額に触れようとします。
「やめろ!はる子ちゃんに触れるな!!」
ちゅー太は飛びついて、ウィンスタの指先にかじりつきました。
「こざかしい!!」
ウィンスタは、部屋中が真っ青になる位のいかずちを、ちゅー太の頭上に落としました。ズシンッと言う音と共に、ちゅー太の姿はなくなってしまいました。
ウィンスタは指先に残ったわずかな灰を振り落とすと、そのままはる子ちゃんに掴みかかります。
はる子ちゃんの右手は、ウィンスタと同時に冬髪に捕まれるのでした。
「お前だ!!来い!」
はる子ちゃんは無理やり持ち上げられ、立たされました。
そして、冬髪がそのまま部屋から出ようとした瞬間、右足に違和感を感じます。
ん?と冬髪が振り向くと、足元にはズボンのすそを握っている少年がいます。
それは秋夫君でした。
「病院に連れて行って・・ください・・」
秋夫君は、声も絶え絶えに冬髪に訴えかけます。
そんな秋夫君を見て、夏子ちゃんも無言で冬髪のズボンを握り締めました。
「うっとおしいんじゃ!!」
冬髪がはる子ちゃんを捨て、秋夫君を蹴り飛ばそうとした瞬間!!
今まで寡黙を守っていた神様が、鋭い目をして叫びました。
「たいがいにするがよい!!邪悪な人間よ。醜き姿を白日に晒し己の姿に
おののくがよい!!」
神様がそう叫ぶと同時に部屋中にチャイムの音が響き渡りました。
ピーンポーン
それは冬髪の家の玄関のチャイムの音です。
冬髪は蹴り足を納め、何も言わずだるそうにしばらく聞きいっています。
ピーンポーンピーンポーン
冬髪は更にけだるそうな顔をしながら部屋を出て行きました。
扉を開け、バシンと締めた後廊下から手拍子のような音と共に
苦しそうな冬髪の声が聞こえてきます。
パチッパチンッ
ぐッぐッ
部屋の中にいる3人には何が起きたのか分かりませんでした。
しかし次の瞬間、ガラッと扉が開き理解するのでした。
開いた扉の向こうにいるのはジーパン姿の若い男と、小さいおじさんでした。
「被害者8名、容疑者1名確保しました。」
ジーパンの若い男がそう独り言をいうと、小さいおじさんは5人の方へ、
ジーパンの男はそのままこちらへ向かって歩いてきました。
「大丈夫かー、怪我無いか?」
ジーパンはしゃがみ込むと、屈託の無い笑顔で話しかけてきます。
部屋の空気が一瞬にして変わりました。
まるで換気をしたように澄んでいるようでした。
あまりにもの安堵感に、はる子ちゃんは泣きそうになりました。
夏子ちゃんはもう泣いていましたが、そのままジーパンと話し始めます。
「秋夫君がこんぼうで殴られたんです。私達は大丈夫です。」
ジーパンが後ろの秋夫君を見て
「君たちが秋夫君を守ってあげたんだね、よくやった!偉いぞ!!」
といいながら、はる子ちゃんと夏子ちゃんの頭をぐしゃぐしゃ撫でました。
はる子ちゃんは我慢できず、何か喋ろうとしましたが
声を出して泣いてしまいました。
夏子ちゃんは安堵感のあまり、また泣き始めるのでした。
その後ろで秋夫君は力なく笑いながら、蚊の鳴くような声で言いました。
「こんぼうちゃう、警棒や・・・。」
第6話 (6にちめ)
はる子ちゃんと夏子ちゃんがジーパンに連れられて外へ出て行く途中、
はる子ちゃんがふと目を上にやると時計がありました。
時計はもう0時を過ぎています。
「わぁ、もうこんな時間だよ。」
はる子ちゃんは小さな声で夏子ちゃんにいいました。
夏子ちゃんもびっくりして時計を見るのでした。
2人が玄関まできて靴を履いている途中、いきなり外から大声が聞こえてきました。
「子供に接することも出来んPTAなんてくそくらえだ!!
お前らなんかより俺の方がどれだけ子供の目線か!!ぼけ!!」
はる子ちゃんはその声を聞き、また震えが来ました。
もう大丈夫、もう大丈夫と心に唱えながらジーパンの手をしっかり握ると
ジーパンもそれに答えてしっかり握り返してくれるのでした。
ジーパンは早く連れて行けと独り言を言うと、しゃがみ込んで
はる子ちゃんの目線になりました。
「今日は2人ともよくやった。2人には今からゆっくり休んで
もらうんだけど、おっちゃんは今からまだやることがあるから
ここにいないといけないんだ。
そこで相談。
2人とも今晩はどうしたい?秋夫君と三人で一緒にいるのと
お父さんお母さんの所に一旦帰るのとどっちがいい?」
「三人がいい!!」
夏子ちゃんは、急ぐようにそう話しました。
はる子ちゃんも同意見でした。
冬髪が捕まった今、一番怖いのは3人がバラバラになることでした。
それがなぜ怖いのかは分かりません。でも今の状況から変化することが
はる子ちゃんには怖くて怖くて仕方ありませんでした。
「三人がいいです。」
はる子ちゃんが言うと、ジーパンはよし決まったと飛び上がる様に立ち上がりました。
ジーパンの後ろからは、秋夫君を乗せたタンカがやってきます。
ジーパンはタンカを運ぶ白衣の男2人にむかって言いました。
「すいません、この子達も連れて行ってあげてください。」
「了解しました。では後ろからで結構なんで2人を救急車まで
連れてきてもらえますか?」
ジーパンはわかりましたと言うと、二人の手を引っ張り救急車の前まで連れて
いくのでした。
はる子ちゃんはジーパンの指示に従い救急車に乗る事にしました。
救急車は回転灯を回すと、ゆっくり冬髪の家を出て行きました。
救急車の中では、横たわる秋夫君を挟むように、はる子ちゃんと夏子ちゃんが
座りました。秋夫君はうっすら目を開けていて意識はあるようです。
しばらく黙っていましたが、最初に夏子ちゃんが口を開きました。
「大丈夫?秋夫君どこいたいの?」
秋夫君は上を見たままいいました。
「・・ちくびのあたり・・」
夏子ちゃんとはる子ちゃんはそれを聞いて笑いました。
つられて、秋夫君も痛そうに笑いました。
それをみていた救急車のおじさんは、傷に触るから止めなさいと注意しました。
しばらく静かにしていましたが、今度ははる子ちゃんが語りかけました。
「どっちのちくびが痛いの?」
三人はまた大爆笑するのでした。
結局秋夫君は肋骨が折れていて、様子見も含めて1ヶ月の入院となりました。
秋夫君は救急車での爆笑のせいで、内臓にも肋骨が刺さって少し傷が
ついていたようです、が秋夫君はその事を2人にはいいませんでした。
夏子ちゃんは病院で親に会うことができました。
このとき分かったのですが、実は夏子ちゃんのかばんには「GPS」と言う探知機が
アクセサリーと一緒についていたのでした。
このせいで今回警察に通報し、助かることが出来たのでした。
はる子ちゃんも病院で両親に会うことができました。
お母さんが少し泣きながら、「大丈夫?痛い所無い?」と抱きしめてくれました。
はる子ちゃんはその温かさに、今まで締め付けていたものが開放されました。
はる子ちゃんはお母さんに抱きつきながら、今までに泣いたことの無いような
声で泣いてしまいました。
お母さんの匂いが優しくて、はる子ちゃんはそのまま朝まで寝てしまいました。
お父さんはそんな二人の後ろで、
泣きながらタバコに火をつけて看護婦さんに叱られているのでした。
そんなあわただしい病院の中、待合室では神様とウィンスタが座りながら
話しをしています。
ウィンスタはもう少女ではなく普通の女に戻っていました。
ただ、美しく黒い服装をまとっているのは変わりません。
ウィンスタはいいます。
「神様、今日はもう帰るの?」
「もう何もないからの。わしゃ帰る。」
「冬髪はあのままでいいの?」
「人間は人間が裁くものじゃ。ワシ等は関係ないのじゃよ。」
「ふーん」
ウィンスタはつまらなさそうに立つと、そのまま病院を出て行き
、それからはもう神様の前に姿を現すことはありませんでした。
その後の冬髪は色々と惨い目にあうのですが、それはまた別の話、
今は犯人も捕まり、取材陣の喧騒の中で安堵感漂う日々がまた帰ってきたのでした。
第7話 (7日目のプロローグ)
はる子ちゃんは夢を見ました。
それは、自分の家でちゅー太とお話している夢でした。
ちゅー太は言います。
「はる子ちゃん、守って上げれなくてごめんね。」
ちゅー太は人間の言葉を話しているのですが、夢の中だからなのか
そんなに違和感はありません。
「ううん、ありがとうねちゅー太。大好きだよ。」
はる子ちゃんはちゅー太を手にすくって言いました。
「ちゅー太に出会えたお陰でどれだけ心が安らんだか。」
はる子ちゃんは微笑んでそういいました。
ちゅー太は鼻をヒクヒクさせながらいいました。
「うれしいな。そういってもらえると。死ぬまではる子ちゃんと
一緒にいれて本当によかったよ。
僕はもうあっちの世界に行くけど、はる子ちゃんのこと
ずっと見守ってるからね。さようなら」
そう言うと、ちゅー太はいつからか後ろにいた、きつねの頭の上に
ぴょんと飛び乗りました。
頭にちゅー太を乗せたきつねは、そのまま空に向かって駆け出していきます。
はる子ちゃんは不思議と悲しくありませんでした。
それどころか、笑顔で手を振って送ってあげるのでした。
そこではる子ちゃんは目が覚めました。
目が覚めたそこは、個室の病棟です。はる子ちゃんは下げられたブラインドの隙間から
そっと空を見てみました。
空はとても綺麗にすんでいました。
はる子ちゃんは一言、
「綺麗わぁ」
というと自分のベットに戻り、手のひらを見つめました。
そこにはまだ、ちゅー太の暖かみが残っているのでした。
おわり
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