バスに乗って
まーこはその日、バスに乗った。退屈な日常にちょっと刺激が欲しかったのかもしれない。行き先はどこでもよかったけれど、なるべく遠くのほうが都合がよい。しかし、一番遠くに行くバスの色が気に入らなかった。どうせなら、鮮やかな青がいい。
…ということで、まーこは青いバスに乗り込んだ。
バスの中でまーこは、ずっと窓の外を眺めていた。赤いモノと青いモノの数を数えたり、持ってきた飴を食べたりした。退屈だった。
まーこは会話ができなかった。口にしたことが全て事実になってしまう為、もうかれこれ何年もしゃべっていない。
ことの始まりは、忌ま忌ましいあの記憶。
学校の授業中、「喉から手が出る」と発言した瞬間だった。本当に出たのだ。
あの日からまーこのニックネームは「マーライオン」になり、事あるごとにネタにされた。
辛い青春時代を過ごしたまーこは、自分自身の能力を呪い、就職もせずに家に引きこもっていた。このままではいけないと思った。だから、今日 彼女は自分の人生に決着をつけにきたのだ。
もし、この世がまだまだ美しい素晴らしいものだと分かったなら、私はもう一度頑張ってみよう。そしてこのまま海を見に行こう。身も心も入れ替えて、また一からやり直そう。
その時だった。
「動くなぁ!動くと殺すぞ!おい、このバスを山奥まで走らせろ!…ばばあ!動くと殺すぞ!本気だからな!」
このご時世にバスジャック。ヒステリックにピストルを振り回す男性を見て、まーこはもうどうでもよくなった。
すっくと立ち上がり、まっすぐバスジャック犯と向き合う。
「どいつもこいつも舐めやがって!動くなって言ってんだよぉお!」
ピストルがこっちを向いたが、まーこは怯まない。こんな気持ちになるのは初めてだった。まーこは優しく微笑み、何年ぶりの言葉を発した。
「…バス、ガス爆発」