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傍にいる君へ
作者:織り紙
 そこは真っ暗で、何もない場所。そんなところに君がいた。
 
「おはよ××。今日も相変わらず真っ暗だね」
 
 うんとも、すんとも言わない彼女は、気まぐれで、無口で、無表情で。
 
 僕がこうやって一生懸命話しかけているのに、くすりとも笑ってくれないんだ。
 
「ねぇ、聞こえてる?」
 
 実は、僕は彼女の声を一度も聞いたことがなかったりする。だって、話しかけたって喋ってくれないんだもの。××って名前も僕が勝手につけた。名前も教えてくれないんだからね、彼女は。君はほんと、イケズなんだから。
 
 でも、いいんだ。
 
 君は何時だって態度で示してくれるから。
 
 嬉しかったら身体を揺らしたり、悲しかったら鎮まりかえったり。
 
 何時までも、何時までも君の傍に居たいな。それで、お話を聞いてもらうんだ。今日は楽しかったねとか、明日はもっと楽しくなればいいのにね、だとか。
  
 でもある日、急にお別れの日が来たんだ。
 
 君は、しんみりとした雰囲気で身体を揺らしてる。もしかして、泣いてるのかな。僕だって、泣きそうだよ。
 
「あのね? 僕だって離れたくないよ。でも」
 
 でも、ダメなんだ。僕は君から一度離れなくちゃ。
 
 君にも離れたくない理由があるんだろうけど、僕にだって離れなきゃならない理由がある。
 
 だって、何時までたっても君がいる限り、僕は子供のままなんだ。君がいる限り、いつまで経っても僕は大人にはなれない。
 
 僕のせい? うん、全部僕が悪いんだよね。
 
「ねぇ、……泣いてる?」
 
 君が悲しいと、僕も悲しいよ。

 僕は昔から泣き虫だから、ぽろぽろって涙が出ちゃう。君も昔から泣き虫だから、ぽろぽろって涙が出てる。
 
 お互い抱き合って、泣き虫な僕たちは泣き続けた。
 
 泣いて、泣いて、泣いて。泣きつかれたとき、彼女はぽつりと僕に言ったんだ。
 
「……会いたい」
 
「え?」
 
 びっくりしたし、ちょっぴり感動しちゃった。
 
 だって、初めて君の言葉を聞けたんだもの。綺麗で、心が澄み渡るような声だ。
 
「今、会いたいって言った? 言ったよね」
 
 頷くように、彼女は少しだけ身体を揺らした。
 
 うん、僕も早く、また君に会いたい。また、君の声が聞きたいから。
 
 きっとね? また、会いにくるよ。
 
 
 
 ◇
 
 
 
 とある病室で、二人の母子が見詰め合っている。
 
 片方はまだ二十歳を少し過ぎたような優しげな女性で、もう片方はふわふわのタオルに包まれた赤ちゃん。赤ちゃんはまだ髪も生やしておらず、その下半身には可愛らしい性器がついているあたり産まれたばかりの男の子のようだった。
 
「お、おまえ!」

 そこに、バタンッと急いだようにドアを開けて男性が入ってくる。彼は鼻息荒く足早に女性たちへと近づいてくると、女性と赤ちゃんを交互に見比べてから問いかけた。

「大丈夫なのか。おまえも、赤ん坊も」
 
 そう。
 
 赤ちゃんは、女性とその男性との間に出来た子供だったのだ。

「はぁい、坊や。パパでちゅ。初めまちて。元気でちゅよねー」
 
「お、俺の……!」

 感激のあまり、男性は赤ちゃんに手を差し伸べようと両手を大きく差し出した。それを、女性は彼と赤ちゃんの前に片手を入れて制止をかける。

「ストップ。先に、その荒れた息なんとかしてよ」

 すぅ、はぁー。

 吸って、吐いて。単調な深呼吸。くすりと口に手を当てて笑い見つめる彼女に、言われたとおり実行した彼は、そのまま緊張によって出来た手汗をズボンの端でふき取る。

 そして「はい」と彼女にゆっくりとした動作で手渡された赤ちゃんを、
 
「お、っと……」
 
 男性はぎこちない手つきで受け取った。
 
「ぅ……うえ。おぎゃーっ!!」

「うおっ!?」

 すると直後、赤ちゃんは大きな声を上げて泣き出してしまった。男性は、女性にまたゆっくりとした動作で内心では慌てふためきながら渡し返す。
 
 すると、赤ちゃんはぴたっと泣くのを止めてしまった。代わりに、彼は可愛らしい寝顔を見せてくれている。
 
「うわ、なんだよコイツ。生まれたすぐからマザコンかぁ?」
 
 ふぅっと男性は小さく吐息をつくと、懐いてくれなかった理由にそんなことを言う。ぽりぽりと、小さく彼は頬を掻いた。
 
「父親に似たんじゃない?」
 
 くすりと、女性は男性に――いや、今日から一児のパパになった愛する人に含み笑いしつつ答えた。むっと、むくれた表情を作った彼は言い返してみる。
 
「どこらへんが」
 
「私を愛してくれてるとこ」
 
 女性からの臆面のない言葉に少し男性は頬を赤らめた。それを見て、女性も頬を赤らめる。
 
「ばーか。……でも」
 
 男性の含みのある言葉に、女性は小さく小首を傾ける。そして、男性からの満面の笑み。
 
「可愛いな」
 
「……うん」
 
 にこりと、付き合い始めてから一番の笑顔を見せ合う二人。男性は小さく「お疲れ」とだけ二人に向けて呟くと新しく家族になった坊やの頬を、やんわりと撫でた。
 
 
 
 二人は、今まで夫婦として仲良く暮らしてきた。そしてこれからは、もっと仲良く暮らすのだろう。
 
 それはまだ、未来のことであるから誰にも分からないけれど、きっとそう。
 
 だって、二人の間には。
 
 今、女性の手の中で穏やかに眠る、可愛らしい赤ちゃんがいるのだから。



 ――また、会いに来たよ。
読了、ありがとうございます。
稚拙な作品ですが感想やご評価していただけたら嬉しいです。批評、酷評大歓迎。それと、ジャンルはいちおう文学にしましたが、どのジャンルにも入れづらかったのでこのジャンルにしただけで、間違っていればご指摘してもらえたらなと思っております。それでは、失礼します。
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