肉巻き
思い返してみれば、幼少のころから肉が好きだった。
肉と言ってもステーキなど焼いただけの肉塊で俺を満足させることはできない。
俺が愛してやまないのは「肉巻き」だ。
小学生の時から焼き肉で大根おろしを巻いて食べるのが好きだった。弁当にはアスパラベーコン巻きが必須。そして中学生の時、初めて食べた肉巻きおにぎりのあまりの旨さに感動してむせび泣いた。
巻かれているもので肉の表情は大きく変わる。
それを確かめるのが俺は好きなのだ。
そしてその情熱はとうとう食べ物以外にも向かった。
俺は肉で人間も包みたいと思った。
周りが俺をどんな目で見ようとちっとも気にならない。俺は大量の肉を買い込んで縫い合わせ、肉のドレスを作った。
多くの人は肉ドレスを着たがらなかったが、アメリカの某有名アーティストが俺の肉ドレスを偶然ネットで見つけ、それをカメラの前で着てくれた。
肉ドレスを纏った女性は俺を酷く興奮させた。
肉と女性が互いの良さを増幅しあい、美しさをこれでもかと周囲に見せつけている。白い肌と肉のコントラストも素晴らしい。
これぞまさに肉巻きの醍醐味。
肉ドレスが話題となりあちこちの会社からデザイナーとしてスカウトが来たが、俺は何も服に興味があるわけではない。
それらのスカウトを全て蹴り、「ある目標」を達成するために俺は大学へと進んだ。
それから数十年後……
「ようやくですね、教授」
たくさんの助手の一人が目を輝かせながらそう言った。俺はそれを見ながら大きく頷く。
海を覆い尽くす茶色い地面。それは人類の夢、そして俺の夢でもある。
近年の人口爆発で住むところも食べ物も満足にない状態が続いている。多くの子どもたちが飢餓で死んだ。もっと土地があれば……多くの人がそう思いながらもそれを実現させることはできなかった。
そこで俺は海を陸に変えることにした。
研究に研究を重ね、多くの年月をかけてとうとうそれを成功させた。
今海の上にはたくさんの人が住み、海の上の土でたくさんの作物を作っている。
今や、地球に人の住んでいない土地など存在しない。
「先生、例の写真が届きました」
「ああ。ありがとう」
俺は興奮を抑えながらそれを受け取る。
本当は人口爆発とか食糧危機とかどうでも良かった。そんなのは研究の賛同者を集めるための言い訳にすぎない。
俺は宇宙から撮った地球の写真を見て、感動のため息をつく。
海の青さが消え、真っ茶色になった地球。ここにはぎっしりと人間――つまり「肉」が住んでいる。
俺はとうとう完成させたのだ。
「肉巻き地球」を。