空に落ちる。(53/53)PDFで表示縦書き表示RDF


最終話です。
空に落ちる。
作:きよこ



エピローグ:一緒に歩く帰り道。


「進路希望調査票、まだ出してないやつ、早く出せよ」

 朝のHR。
 寝ぼけ眼のままでぼーと黒板を見ていたら、教師と目が合った。

「竹永、お前もだぞ」

 急に名指しされ、「は、はい」とうわずった返事を返す。

 一週間ほど前にもらった調査票。すっかり忘れてた。
 早く提出しなきゃと思ってたけど、まだ何も決まってなかったから机につっこんでそのままにしてた。

 担任が教室から出て行く音を聞きながら、机の中のどこかに行ってしまった進路調査票を探す。

「郁ちゃんは、大学進学?」

 振り返って聞いてくる晶子に生返事で「うん」とだけ答えて、机の中でぐしゃりとつぶれた一枚の紙を見つけた。

「ぐしゃぐしゃだねえ」

 晶子ののん気な声に見届けられながら、机の上に広げた紙を手でのばす。

「どこの大学に行くの?」
「うん……なんとなくは決めたけど」

 晶子が手を口にかざして寄って来るから、あたしは耳を傾ける。

「ほーちゃんと一緒?」
「まさか!」

 大声をあげて否定して、佐村をちらりと睨んだ。
 あたしに背を向けて、向こう隣の男子と肩を叩きあってばか笑いしている。

「どこの大学行くか、教えてくれないんだよ」

 口を尖らせて晶子にささやくと、晶子は「ほーちゃんらしいっちゃほーちゃんらしいね」と呆れた声を出した。

「だから、あたしはあたしの行きたい大学を書くだけー」

 あたしも呆れた調子の声を出す。
 シャーペンを走らせ、大学名を記入していく。
 第一希望、第二希望、第三希望。

「へえ、史学科」
「うん。ちょっと興味が出てきて」

 第一希望と第二希望は共に史学科がある大学だ。
 佐村と東照宮に行ったあの日から、なんとなく歴史に興味が湧いた。元から好きではあったし、興味があるんだから、勉強してみるのも悪くない。

 もう一度しわしわになった紙を引き伸ばしていたら、影が机を黒くした。

「ほーちゃんはどこの大学行くの?」

 机の横に立っていたのは、佐村。ポッケに手を突っ込んで、あたしと晶子を見下ろしていた。

 晶子の問いに、佐村はいたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。

「ここ」

 とん、と人差し指が指したのは。

 あたしの第二希望の大学だった。



 ***

「第一希望と第二希望を入れ替えるべきだな」

 肩にかけたカバンを揺らして、佐村は鼻歌交じりにそう言った。
 学校帰り。
 佐村に買ってもらったソフトクリームを頬張って、口を尖らす。

「東照宮に連れてったのって、そういう作戦?」
「まさかうまく行くとは思わなかったけどね」

 あたしが歴史とかに興味がないと思ったから、最初は「ペンションを見に行く」だなんて言ってたんだ。
 嫌なやつ!

「入れ替えないよ。佐村があたしに合わせれば?」
「いやいや! お前、あの大学よりこっちの大学の方がいいんだからな。カリキュラムとかしっかりしてるし。就職率だっていいんだぞ」
「そんなの知らない」
「叶う杉にだって願掛けしたんだぞ」
「そんなの知らない」

 叶う杉に何をお願いしたか聞いた時は『大学合格にカッコして別のお願いをしてる』って言ってた。

「大学合格(竹永が一緒だといいな)」とかだったわけ?

 ……照れるんだけど。

 天邪鬼のあたしは、素直に佐村と同じ大学に行きたいなんて言えない。
 だけど、なんだかんだで、希望の大学は入れ替わる予感がする……。

 なんか、腹立つ。

「そろそろ予備校の時間」

 五月過ぎてから予備校に通いだした。ちょっと遅いかもしれないけど、大学行くなら少しは勉強しないとまずい。
 腕時計を確認したら、遅刻確実の時間だった。

「そういえばさあ、旅行行ったとき、腕時計のこと聞いてきたよね?」

 まだ半分残っているソフトクリームを一気に食べようとしたら、眉間がキーンと痛くなった。

「聞いたっけ?」
「聞いたよ。『腕時計買う時は何を気にするか』って。あれ、なに?」
「ああ、あれね」

 痛む眉間を親指で押さえていたら、ソフトクリームを佐村に奪われた。
 ぱくっと食いついた唇が真っ白に染まったから、あたしはぷっと吹き出す。

「なんだよ」

 ぶうたれて、唇をぺろりとなめる。だけど、まだはしっこに残ってる。

「なんでもないから、教えてよ」
「付き合う時に気にすること」
「え!」

 あたし、なんて答えたっけ? ああ、そうだ。ずっと使えるかどうか、だ。ということは、ずっと付き合える人を選ぶってことだよね。我ながら、なんて素晴らしい答え。

 佐村は? 佐村は……

「手がかかるやつって言ってた!」
「見事に合ってるな」

 いやらしい顔をして笑うから、頬を軽く叩いてやる。ついでに口の端に残ったソフトクリームをとってやった。

 意外と手がかかるのは、佐村もだよ。

 言わないけど。

「ほら、急ごう」
「なんで?」
「予備校、遅刻するだろ」

 いつの間にか、ソフトクリームは無くなっていた。食べるのはやい。

 すっと伸ばされた手をつかむ。

「手がかかるな」
「うるさい」

 急ぎ足で歩き出す。
 ぎゅっと手をつないだまま。

 道路を照らす太陽は温かい。
 誰かと歩く道は、もっと温かい。
 つなぐ手は、もっともっと温かい。


 好きになって、気持ちを告げて、一緒に歩き出した。

 あたしの、はじめて。

 きっとこれからも増えていく、たくさんの『はじめて』。
 佐村と二人で、増やしてく。



 今日もいい天気。
 明日もきっと、晴れるだろう。




お読みいただき、ありがとうございました!
お礼の言葉を並べたら、地球一周しても足りなさそうです(笑)

リンクしてあるブログにて、後書きを書いておりますので、一読いただけると幸いです。
また、お伝えしたいことがありますので、「『空に落ちる。』終わったのか……寂しいな」という方がもしもいらっしゃいましたら、ブログにお越し下さい。

それでは、もう一度だけ。
ありがとうございました!






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Sleeping on the holiday and sunny day.


スピンオフ書き始めました。
空を歩く。







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