空に落ちる。(50/53)PDFで表示縦書き表示RDF


空に落ちる。
作:きよこ



49:恋に落ちた瞬間。


 運命を託して小さな紙切れにシャーペンを走らせる。

 恋がどんなものかなんて、正直全然わからない。
 だって、あたしはまともな恋をしたことない。
 恋に恋したことはあっても、誰か一人を一途に好きになったことなんて無い。

 だから、よくわからない。

 この胸に残る小さなロウソクの光みたいなもの。

 ぽっと灯った柔らかな光は、一体なに?

 ちっぽけなのに、やけにひっかかる。その光の温かさに目が行く。

 目が離せなくなる。

 チリチリと痛む気持ち。
 佐村のそばに女の子がいただけで、湧き上がったのは、どう考えても独占欲。

 意外とあたしも、そういう『女』の部分があったらしい。

 簡単なこと。

 あたしの中でふくらむ。

 最初は気付きもしない小さな光が、気付けば、太陽みたいに大きくなってる。

 どの瞬間が始まりだったのかと聞かれたら。

 あたしはきっと、こう答える。

「手紙を開いたあの瞬間」


『どこかに行こうか』

 最初から認めてた。

 殺し文句だって、思った。

 心を穿たれた、と思ってた。

 わからないから、気付かなかっただけ。
 認めたくないから、知らんふりしてただけ。

 だって、そうでしょ?

 あたしは知らず知らずのうちに、この手紙をお気に入りのピルケースに大事そうにしまってたんだから。


 始まりは手紙から。

 あたしの、たぶん、恋に落ちた瞬間。


 机に突っ伏して寝入る佐村の腕の下に、そっとしのばせる、秘密の手紙。

 その違和感に、佐村はゆっくりと顔を上げた。

 何があったのかわかっていないのか、佐村は半開きの目であたりを見回し、また眠ろうと顔を下に向ける。

 そうして、ようやく、その存在に気付く。

 腕の下の、紙切れ。

 訝しげに眉をしかめながら、佐村は手紙を取って、誰からなのかと探るようにまたきょろきょろする。
 あたしは素知らぬふりで、頬杖をついたまま黒板を眺める。

 誰からかもわからないまま、折り畳まれた手紙を広げはじめた。カサカサと紙の擦れる音が、あたしの顔をにやつかせる。

 ばれないように横目で様子を伺ったら、佐村の喉仏が上下に動いたのがわかった。

「た……」

 丸くした目をあたしに向けるから、あたしは頬杖した手で口を隠して、にっと笑う。

「どういう……」

 大きな声をあげそうになった佐村は慌てて口を手で覆い、今度は声を小さくしてあたしを睨む。

「どういう意味だよ」
「内緒」

 にやつく顔を隠す気は無い。にんまり笑って、すぐに教師が描いていく意味不明な文字の羅列に目線を戻す。

 これは賭けだから。
 教えてやらない。



 答えは、きっと簡単だから。



 ***


 放課後の教室。
 あたしはまたもや教室にひとり残って、ぼんやりと空を眺める。

 そろそろと落ちていく太陽の光を反射して、雲は下半分だけ赤く染まる。
 まだ残る青空が名残惜しそうに紫色を濃くして、やがて赤だけが燃えるように色付く。

 真上にある大きな白い雲は未だ赤くならず、悠々と空を泳いでいた。

 カチカチと動く時計の音が、やけに大きく聞こえる。

 窓の方に向けた椅子に跨り、空を飛んでる鳥の数を数える。

 黒いシルエットになった鳥は、夕焼けに飲まれるように見えなくなっていった。

 さっきまで読んでいた本が、真っ白のページをオレンジに染める。

 全開に開けた窓から、夜を呼ぶ冷たい風が吹き込んで、あたしはブルリと震え上がる。

 時計の音と心臓の音が重なって聞こえて、緊張してることに気付いた。

 大丈夫。

 あたしは、大丈夫だ。


 佐村への手紙。

 記した言葉。


『どこかへ行こうか』



 踏み出すための第一歩を、佐村がくれた。

 だから、お返し。



 ふと見た太陽に眩まされて、瞳を閉じた時。


 時計はカチ、とその時を告げた。

 午後五時半過ぎ。


 教室のドアが、ガタリと揺れた。



 


午後五時半過ぎ。

どこかの学校の。

どこかの教室で。

どこかの誰かが。

気持ちを告げる。


***

明日(5月1日)は五時半過ぎに更新します。

物語の中と現実が、日付も時間も一緒になります。
その時間にネットをご覧になることが出来る方は、ぜひ、時間を合わせて読んでいただけると嬉しいです(^^)

5月1日、2話連続更新。
5月2日、完結となります。

明日、きれいな夕焼けが見えることを願って。






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きよこの小説専用ブログ。5/6「空に落ちる。」番外編アップ。

Sleeping on the holiday and sunny day.


スピンオフ書き始めました。
空を歩く。





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