空に落ちる。(42/53)PDFで表示縦書き表示RDF


空に落ちる。
作:きよこ



41:あたしとあいつの距離。


 HRを終えた教室からは次々に人が去っていく。
 皆、楽しげに会話をしながら、「バイバイ」と手を振って。

 だが、今日はいつもと少し違う。
 クラスの半分位の生徒が未だ教室に残っているのだ。

 机の横にかけたカバンを取り、必要なものだけしまう。ほとんどの生徒がそうであるように、あたしも必要ない教科書はすべて学校に置いて帰っている。

 晶子や岡本達がまだ教室に残っているのは、これからカラオケに行くからだろう。
 誘われてはいたが、行く気は無い。

 ……佐村が来るみたいだし。

 昨日の今日で、顔を合わせづらい。
 帰り際、抱きすくめられた記憶はやけに生々しく残っていて、佐村の背中に触れた手が、未だ熱の感触を残している。

 あんなの、ふいうちすぎる。

 晶子達と目を合わせないようにしながら、カバンを肩にかけ、とっとと教室から去ろうとしたその時。

「あ! 郁ちゃん! 今日どうすんの?」

 呼び止められてしまった。

「ごめん、用事があるから」
「何時から?」
「何時って、ええと……」

 つい口ごもる。晶子はあたしの嘘を見破ったのか、口を尖らせて、あたしの腕をがっしとつかんだ。

「茜が心配してたよ。最近、一緒に帰ってくれないって」

 茜。吉沢茜は、あたしが一年の時からずっと仲良くしている友達だ。
 二年までは同じクラスで、下校をずっと一緒にしていたのだが、三年になってからは、校舎が別になってしまったこともあり、すれ違ってばかりだった。
 メールで何度か「今日は一緒に帰れる?」と聞かれるけど、なんとなく断っていた。

 放課後の教室に残ることが多くなっていたから。

 晶子は一年の時同じクラスだったし、誰とでも仲良くなれる子だから、茜とも当然仲が良い。
 どこかであたしの話を、茜から聞いていたのかもしれない。

「郁ちゃん、最近元気無いし。カラオケ行ってうさを晴らそうよ」

 心遣いが胸に沁みて、鼻がつんと痛くなる。
 全然気付かないでいたけど、あたしを見て、あたしを心配してくれる人は、案外多いらしい。

「……うん。用事は明日に回す」
「そうこなくっちゃ!」



 ***


 歩いて二十分ほどで、駅へとたどり着く。比較的大きなこの駅には、たくさんの人が行き交い、たくさんのビルや店がひしめき合う。

 駅前の時計台前に、佐村はいた。

 学校帰りだから、皆制服だけど、学校をサボった佐村は私服だ。
 赤いロゴの入った白いシャツにジャケットをはおり、ブルージーンズを履いている。

「ほー! てめえ学校はサボるんじゃねえ!」

 岡本が走りながら佐村に蹴りを食らわそうと足を放り投げる。
 だが、佐村はそれをスイとよけて、「たまにはいいだろ」と笑う。
 よけた佐村を別の男子が後ろから羽交い絞めにしたから、結局、佐村は岡本の攻撃を受けるはめになってしまった。
 じゃれつく男子達。それを囲んで笑う女子。

 十五人ほど集まった六組の面々は、教室にいる時と同じように、佐村を囲んで笑いあう。

 あたしは遠巻きにそれを眺めているだけ。

 ……すっかり忘れてたけど。

 これがあたしと佐村の世界。同じ場所にいるはずなのに、遠く、透明な壁で囲まれたように、近付くことのないあたし達。

 昨日の出来事が、夢のよう。映画が終わって、幕が閉じる時のように。急に重い緞帳どんちょうを下ろされた気がした。
 
 

 目の端にきらめいた川面の光。つないだ手と手。
 あの時、あたしはわかっていたはずだった。
 もう離れていくだけだと。友達としてずっと、変わらぬ距離を歩き続けるんだと。




明日も0〜3時更新予定です。






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Sleeping on the holiday and sunny day.


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空を歩く。





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