空に落ちる。(35/53)PDFで表示縦書き表示RDF


空に落ちる。
作:きよこ



34:羽は生えてこない。


 傷つけることしか出来ないあたし。
 佐村とは正反対のあたし。

 涙はいつまでたっても止まらない。
 佐村の指があたしのこめかみをぬぐって、その部分だけが名残惜しそうに熱を残す。

 何も言わず、佐村はタオルをあたしの横に置いた。

 佐村の手の重みでたわんでいた布団が元に戻っていく。
 佐村の体が離れていく。

 布を擦る音がして、佐村が布団の中に戻ったことを悟る。


 嗚咽をこらえながら、タオルで目を覆った。
 あたしがこれ以上泣いてたら、佐村をどんどん傷つけてくだけだ。

 泣き止まなきゃいけない。
 そう思えば思うほど、涙が溢れて止まらない。
 せめて、声だけは殺さなければと、タオルを顔に押し付ける。

 明日、佐村と普通に接することが出来るように。

 泣き顔をそのままにしちゃいけない。

 体を反転させて、枕に突っ伏す。

 フウ、と込み上げてくる嗚咽を喉の奥に無理やり押し込んで、ぎゅっと目をつぶる。


 佐村の笑顔が脳裏によぎっては、消えていく。

 もう、佐村の笑顔は見れないかもしれない。

 佐村はもう、あたしをあの瞳ではきっと見てくれない。

 あたしのことを気にかけてくれるのは、きっと今日で最後。

 ――失いたくない。

 差し出されたあの手を取りたいくせに、触れたら壊れてしまう気がして、臆病になる。


 中学のあの頃のように。
 高二のあの時のように。

 きっと、佐村にまで嫌悪感を抱いてしまう。

 そうなった時の方が佐村をもっと傷つける。

 だから。

 これでいい。


 これでいいんだ。





 ***

 チュンチュン、とさえずる雀の声で、あたしは目を覚ました。
 いつの間に寝てしまったのだろう。 
 泣きはらした目が重い。

 まぶたに触れると、いつもよりむくんでいるのがわかった。

 佐村にこんな顔、見せられない。

 布団に潜り込んでいた顔を出し、朝の冷たい空気を一気に吸い込む。
 おびえながら隣の布団を見ると、もう布団は脇に片されていて、佐村はいなかった。

 身を起こして、バッグから手鏡を取り出す。
 真っ赤に充血した目と、ぷっくりふくらんだ二重まぶた。

 どう見ても泣きまくった顔。

 短いため息をついて、浴衣を脱ぐ。
 洗濯してもらった昨日の服に着替え、もう一度鏡を覗き込む。

 どの面下げて佐村に会えばいいんだろう。
 どんな風に接すればいい?


 笑顔を作らなきゃ。

 昨日のことは覚えてないという顔をして、何事もないように振る舞わなきゃ。

 自己中心的な答えだけど……友達というポジションにいさせてほしい。

 隣の席で、今まで通り。

 答えを教えろとせびってほしい。
 授業中に突然話しかけてきてほしい。
 ほんの少しだけでいいから、あたしを気にかけてほしい。

 なんて、自分勝手。

 もう枯れたと思ったのに、また涙が押し寄せてくる。

 泣いちゃだめだと言い聞かせて、鼻をずずっとすする。

 笑わなくちゃ。
 いつも通りのあたしを演じるんだ。


 すっくと立ち上がり、ニーソックスを膝上まできっちりのばす。
 腕を上に押し上げて、大きく伸びをする。

 天窓からは明るい光が差してきていて、小さなほこりの粒がふわふわと浮いているのが見えた。

 布団を手に取り、畳む。
 その度に埃が舞い、白い光が空気の中を踊る。

 小さな羽が、飛んでいるみたいだ。


 どんなに願っても、背中に羽は生えてこない。
 飛ぶことなんて出来ない。

 飛び出そうとしたって、ただ落ちていくだけ。

 ……地面にぶつかって、粉々になるだけ。









 

 


明日も0〜3時更新予定です。

最近、休日を爆睡して終わらせています。
春は眠くなる季節ですね・・・






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Sleeping on the holiday and sunny day.


スピンオフ書き始めました。
空を歩く。





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