空に落ちる。(17/53)PDFで表示縦書き表示RDF


空に落ちる。
作:きよこ



16:無意味な苛立ち。


 あたしはきっと、自己中心的でどうでもいいプライドだけは山より高い、わがまま女なんだと思う。

 怖いんだ。傷つくのも、ぶつかっていくのも。

「でっかいなー」

 佐村ののんびりとした声で我に返る。

 鳥居をくぐった時のあたしみたいにあんぐり口を開けて、門を守る仁王象を眺めてる。
 急激になぐってやりたい衝動に駆られて、手をぐっと結んだが、あたしを見下ろす仁王像が「やめとけ」と言ってる気がして、手の力を抜いた。

 佐村が何をしたいのか、さっぱりわからない。
 どこかに行きたいと言う女がいたら、あたしじゃなくても連れて行くんだ。
 また今度、そんな言葉だって、結局は社交辞令に過ぎない。
 あいまいな言葉ばかり繰り返して、全然、本音が見えてこない。

 あたしは戸惑うばっかりで、佐村に踊らされてる感じがする。

 佐村がふにゃふにゃ野郎に見えてくる。

 なんなんだよ、こいつは。ていうか、あたしはあんたの何なの?

 仁王像があたしを睨んでる。
 佐村は「かっけー」とか浮かれた言葉を並べて、のん気にきままだ。

「むかつく」
「え、いきなりなんだよ」

 心の声がだだ漏れだ。でもしょうがないじゃない。むかついてきたんだから。

「あ、あそこが『見ざる言わざる聞かざる』の猿だ」

 のん気な佐村は軽い足取りで、建ち並ぶ豪華な建物にうずもれる、質素な建物の方へと行ってしまった。
 何も施されていない木で作られた素朴さ。けれどしなった屋根や、長押にいる三匹の猿の美しい彫刻は、神社の建物としての風格を備えている。

「見ざる聞かざる言わざるの意味って、知ってるか?」
「知らない。まさかうんちく語る気?」
「だめ?」

 返事をする気になれず、パーカーのポケットに手をつっこんで、八個並んだ猿の彫刻を順を追って見て行く。

「子供の頃は悪いことを見ないよう、言わないよう、聞かないようにという意味なんだってよ」
「あっそ」

 心の中では「そうなんだ!」と感心しつつ、ついそっけない態度をしてしまう。だって、感心した態度なんて見せたら、佐村は喜ぶに違いない。

 喜ばせたくないの?
 ……あたしって、自分が思ってるよりずっと嫌なやつだ。

「俺たちは、もう子どもじゃないんだろうけどさ」

 あたしはずっと猿の彫刻を眺めていたけど、佐村があたしを見ているのはわかる。
 子どもに語りかけるような、優しい口調。

「悪いことっつーか、物事の嫌な面ばっか見てたら、先には進めないよな」
「急にどうしたの」
「言葉にしても聞いても、心が悪い方にひきずられる」
「とち狂った?」
「お前のこと」

 アスファルトの地面がジャリ、と音を立てた。

 冷たい水を一気に喉に流し込まれたみたいに、体がすっと冷えていく。
 何を言おうとしたのか自分でもわからない。口が勝手に動く。でも声は出てこない。

 佐村はふと視線を下げて、小さくため息をついた。

「心配してんだよ」

 苦しくなった。吐き出したい言葉があるはずなのに、それは言葉にはならない。
 無意味な浅い呼吸だけが繰り返される。

「見ざる聞かざる言わざる」

 目を隠し、耳を隠し、口を隠す。彫刻の三匹の猿と同じポーズを取り、目を細めて笑う。

 そんな佐村への反発心だけが、広がっていく。

「そんな風に出来るのは、子どもの内だけだよ。大人になったら、嫌でも見なきゃ聞かなきゃ言わなきゃいけないことが増えるんだ」
「でも、法律上は俺たち、子どもだぜ」
「そういう時だけ子どもだって言って、それを盾にするのは卑怯」

 口から溢れ出る、いつもより早い言葉。
 何をイライラしてるんだろう。
 なんで、佐村につっかかっているんだろう。

 佐村は、あたしを心配してくれてるだけなのに。


 ……違う。心配されていることが、嫌なんだ。

 同情してるだけって、思えてくるから。


「機嫌悪いな」
「悪かったね」

 つっけんどんなことばかり出てくる唇。

 素直じゃないのは、人生損する。人を傷つけることしか出来ないあたしは、ただの馬鹿だ。

「あっち、行くか」

 急に明るい声を出して、佐村は踝を返す。

 遠ざかっていく背中。

 風に揺れるシャツが、あたしの指先をかすめていった。


作者はストーブの前で丸くなって寝るのが好きです。
先日もそうして一夜を過ごしました。
5回以上、そんな夜を過ごしています。
風邪、ひきません。
相当なバカであることが判明しました\(^▽^)/

明日も0〜3時更新予定です!






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Sleeping on the holiday and sunny day.






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