空に落ちる。(16/53)PDFで表示縦書き表示RDF


空に落ちる。
作:きよこ



15:特別じゃない、あたし達。


 声が震えてしまったのは、もしかしたら答えを知りたくなかったからなのかもしれない。
 あたしと佐村の微妙な関係に、今、この時にわざわざ亀裂を入れる必要性があるのだろうか。

 あたしのことが好きなの、と聞いて、佐村は「ばれたか」と笑った。
 その答えが、佐村のあたしへの気持ちだとしたら、あたしは答えることが出来るのだろうか。

 それに、ただ単にからかっているだけだったのだとしたら、こんな風に思い悩む自分が自意識過剰の馬鹿みたいだ。

「なに、突然」
「答えてよ。なんでこんなところに連れて来たの」

 意地になって繰り返す。
 佐村の目が、杉の木の合間から見える空へと移される。
 いつの間にか雲が多くなり、透けるような青はほとんど見えなくなっていた。

「東照宮に来たかったんだよ、俺が」

 あっけらかんとした答え。

「……だったら、あたしを連れてこなくてもいいでしょ」
「あのさ、お前だけじゃねえんだからな」

 言っている意味がわからない。
 誘う相手はあたしだけじゃないってこと?

「どこかに行きたいって思ってるのは、お前だけじゃない」
「……そういう意味」

 あたしの中で、いきなり佐村がナンパな男に成り下がるところだった。セーフ。

「俺も、どっか行きたかった。気晴らしに。そしたら竹永も『どこかに行きたい』なんてつぶやいてる。そしたら、一緒にどこか行くかって思うのは、自然だろ」
「……そう、かな」
「違うか?」
「わからない」

 もやもやとしたものが心を占めていく。
 教室にいた時に感じたもやもやとは全く別なもの。
 変なものを吸い込んだみたいに苦しくなる。呼吸困難になる一歩手前みたいな……。
 喉元に手をあて、不自然な呼吸を繰り返す。

――あの時。あの夕暮れ。

「どこかに行きたい」とつぶやいたのが、あたしじゃなかったとしても。
 佐村はこうして、その子を連れ出したのだろうか。
 慈善事業みたいに。苦しんでる子を救い出そうと、あたしじゃなくても。

 佐村は優しいから、きっとそうしただろう。

 あたしは佐村にとって、別に特別じゃない。

 あたしにとっての佐村が、そうであるように。


「竹永?」
「行こうか」

 胸のつかえが取れた気がするけど、イガイガしたものが突き刺さったまま。
 こんな痛みを、あたしは知らない。


***


「拝観料1300円」
「高っ」

 料金所の前で、拝観料が書かれた看板を見上げたあたし達は、値段の高さにただ驚いていた。

 この間、家族で京都に行ったけど、どこの神社も仏閣も三桁だった気がする。
 まさか、四桁とは……。

「どうする?」
「あたしは別にどっちでもいいけど、見たいって言ってたのは佐村じゃん」

 財布を取り出し、中身を確認する佐村。
 あたしだってたいした金額は入ってない。帰りの交通費を考えたら、出せない金額ではないけど、出したい金額でもない。
 1300円といえども、高校生には意外と厳しい金額だ。

「ここはおごるよ」
「かっこつけんな」

 男の子だから、女の子にはおごるなんて、そんなカッコ張りは必要ない。

「誘ったのは俺だし。興味ないだろ? ほんとは」
「そんなの入ってみなきゃわからないでしょ」

 そそくさと財布から1300円を取り出し、払う。
 遅刻の侘び以外は、おごられるなんて、まっぴらごめん。

「お前、男らしいな」
「おごってあげようか」

 皮肉に笑ってみせると、佐村は肩をすくめて財布からお金を取り出していた。

「また今度、別のところでおごってよ」
「また今度があったらね」


 ……また今度なんて、あるのかな。

 灰色をにじませた雲がだんだんと増してゆく。そういえば天気予報、確認してない。
 雨でも降るのだろうか。

 肩にかけたカバンのヒモをぎゅっとつかむ。
 ずれ落ちた靴下が、違和感を生む。

 自分のセリフが頭の中を何度も何度もぐるぐると回って、気持ち悪くなってくる。

 また今度があったらね? どうしてあたしはこんなことしか言えないんだろう。
 また今度があることを、期待でもしてるの?
 佐村があたしを好きだといいと、期待でもしてる?

――気持ち悪い。

 自尊心の固まりみたいな自分が、心底、気持ち悪い。
 



東照宮の拝観料高いと思った数年前。
五重塔の前で写真だけ撮って帰りました。
なぜか大満足な気分になりました笑

明日も0〜3時更新予定です。






ネット小説ランキング>恋愛シリアス部門>「空に落ちる。」に投票 投票していただけると励みになります。(月1回)

ぽちっと押していただけると嬉しいです。

*長編小説ランキング*





きよこの小説専用ブログ。5/6「空に落ちる。」番外編アップ。

Sleeping on the holiday and sunny day.






ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう