空に落ちる。(15/53)PDFで表示縦書き表示RDF


空に落ちる。
作:きよこ



14:液晶画面の向こう側。


 大きな鳥居がそびえ立つ。古びた石で出来た鳥居は、あたしの身長何個分なんだろう。三個じゃ足りなそうだ。五個くらい?

 思わず見上げていると、佐村が「口が開いてる」と笑ってきた。
 慌てて口を閉じる。

「大きいね」
「日本三大鳥居のひとつらしい」
「そうなの」
「たぶん」

 すでに先を歩き出した佐村の背中を追って、すぐ斜め後ろを歩く。
 隣を歩けと言われたけど、いいなりになるのは性に合わない。それに、この位置、悪くない。
 すぐ前を歩く佐村の背中は思ったより大きくて広くて、男なんだと実感する。
 昔の女の人も、こうして男の人の後ろを歩く時、きっと背中にこんな頼もしさを感じていたんじゃないだろうか。

 プラプラと揺れる腕を取りたくなるのは、きっと女の子なら誰しもがそうなんだと思う。だけど、あたしは、彼の手より彼の背中を眺めていたい。
 そう思ってしまうあたしは、今時の女の子より数センチずれているんだと思う。

 佐村は隣を歩かないあたしを不満に思うのか、しかめた眉を向けてくる。
 ちょいちょいと動く指が、「隣に来い」と誘ってる。

「あ、五重塔」

 ごまかすように、鳥居をくぐって左手に見えた大きな建物を指差した。
 赤を基調とした五層の塔。さわさわと揺らぐ杉の木に囲まれ、そこにぽつんと建っている。
 少しだけ反り返った屋根の下には、動物が彫られていた。
 近付いてよく見てみると、龍と兎と虎だった。

「写真撮るか?」
「カメラ無い」
「俺も無い」

 苦笑いする佐村。

「ケータイで撮るか」

 ポケットから取り出した折りたたみ式のケータイを開き、あたしに向けてくる。

 あたしを撮るのかよ。

「ほら、ポーズ取れよ」
「あたし、写真嫌いなんだけど」
「たまにはいいじゃん」

 五重塔の前で、口喧嘩をはじめたあたしと佐村を、通りすがりの観光客が笑って見ている。 急に恥ずかしくなってきて、口を真一文字に閉めて、黙り込む。

「撮りましょうか?」

 佐村の後ろから、カップルの女の人が手を差し出して笑っていた。大学生くらいの女の人。 セミロングの髪は内巻きにカールしていて、明るすぎない茶色が髪をより綺麗に見せている。女らしい花柄のワンピースに身を包み、穏やかに笑うその表情は『お嬢様』といったかんじ。
 隣に立つ男の人は、目は小さいけど優しげで、黒髪がすごく似合ってる。茶色のジャケットとジーパン姿も背が高い分、様になっていてかっこいい。

「私たちも撮ってほしいの」
「じゃあ、お願いします」

 佐村はケータイを女の人に手渡し、あたしの横に並んだ。

「撮るよ」

 かざされたケータイ電話の液晶画面の中に、あたしと佐村はどんな風に映っているのだろう。
 普通の、高校生のカップルとして映っているのだろうか。

「手とかつながなくていいの?」

 男の人の方が、茶化すような口調でそう言った。

「手!?」

 佐村を睨み、手を引っ込める。こいつのノリだったら、いきなり手をつないできそうだ。

「はい、ポーズ」

 明るい澄んだ声が、合図を出す。佐村は何もしてこないから、なんとなく安心して肩に入った力を抜いた時だった。

 肩に触れる、柔らかな温もり。

 はっとして佐村を見上げる。佐村は目線だけを動かして、にっと笑った。

 引き寄せられた体と、肩を遠慮がちに抱く手。
 そこからじんじんと響いてくる、熱。

「はい、撮れたよ」

 渡されたケータイ電話の画面の中には、してやったりと笑う佐村と、硬直して顔を真っ赤に染めるあたしと、豪華絢爛に佇む五重塔が写っていた。


***


「ありがとう」

 大学生カップルの写真を撮り終えて、彼にカメラを返す。

「かわいい彼女だね」

 彼の方があたしの顔をのぞきこみ、爽やかな笑みを向けてきた。佐村は照れ笑いを浮かべて、「よく言われます」とかなんとか言っちゃってる。

 だから、なんでちゃっかり彼女にしてんの。

 会釈しながら去っていく彼らを見送り、あたしは佐村をぎっと睨んだ。

「あたし、あんたと付き合ってない」
「社交辞令だって。怒ってんの?」
「怒ってるよ」

 仲良さげに手を絡めて歩いていくカップル。あたしはあんな風にはなれない。あんな風に誰かに「好きだ」とアピール出来ない。

「二人でこうして出かけてんだからさ、恋人気分に浸ってもいいんじゃね」
「良くない。付き合ってないもん」
「まあ、そうだけどさ」

 そうだ。あたしと佐村は付き合ってない。
 なのに、どうして一緒にいるんだろう。
 どうして、佐村とこんなところに来てるんだろう。

――逃げたかったからだ。重苦しい現実から、逃げ出したかったんだ。

 あたしは、優しい佐村を利用してる。


「どうしてここに連れて来てくれたの」


 声が震えた。
 


明日も0〜3時に更新予定です。






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Sleeping on the holiday and sunny day.


スピンオフ書き始めました。
空を歩く。





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