移動は続く
食事が済み、肉を平らげ満足そうに横になるトゥーンを見やりながら、猪の解体を再開する。
今回はたまたま猪が出てきたことで、また撃退することが出来たことで食事にありつけた。
が、また同じような幸運に恵まれるかは分からない。
やっとの思いで胴体の皮を剥ぎ、地面に敷く。
その後、肉をバラすと幾つかに火を通し、その皮の上に置いていく。
ある程度それが集まると、皮で包みその辺に生えている蔦を利用して縛り付ける。
それをなんとか背負う。
これで移動中の食糧はなんとかなるだろう。
火を通したことで、多少持つだろうし。
肉しかないのが残念だが、贅沢は言えない。
上手くいけば移動中に果物の類いが見つかるかもしれない。
それに期待するしかないだろうな。
さて、それでも大量の肉が残る。
足の1つのくらいは引摺りながらでも持っていこうかと思ってはいるが、それ以外の部分だけでも多量にある。
これらはここに置いていく以外ないだろうな。
いずれ、肉を食べる動物に食べられるだろうし、よしんば残ったとしてもいずれ朽ちて木々の養分として吸収されるだろう。
さて、これで準備はこれで出来た。
そろそろ移動を再開しよう。
トゥーンを起こし、移動を開始する。
始めと違い、荷物が増えたため移動しづらくてたまらない。
ま、仕方ないのだけども。
ある程度進むと日が落ちてきたので、適当なところで休むことにする。
野生の勘が働くトゥーンもいるが、一応適当に身を隠せそうなところを探す。
たまたますぐに木のうろが見つかった。
そこに体を預ける。
獣に見つかれば逃げ場はないが、その辺に寝転がるよりはましだろう。
そんな風に一日、二日と移動していく。
その間、特に何事もなく移動することが出来た。
もしかしたら、またワイルドボアのような獣に出くわすかと思ったが、特に何も出てはこなかった。
二日も移動すると、周辺の雰囲気が変わってきていた。
これまでは、それこそそびえ立つと表現するのが正しいと言える大きな木が立っていたが、ここら辺はそれほど大きくない木々が林立していた。
恐らく、長老が言っていた侵入を禁止されたという土地に踏み込んだのだろう。
これまで見ることのなかった小動物や鳥達が、あちらこちらに存在している。
『トゥーン、だいぶ森の雰囲気が変わったな。』
『おう、古代樹の力もこの辺は弱いな。』
『どういう事だ?』
『今までいたとこは古代樹の力で守られてたんだよ。でもこの辺はなんか様子が違う。』
いまいち分からない。
たしかオーグが、鎮守の森を守っているとか言ってたな。
ということは、ここはオーグ達の守備範囲外ということか。
さらに、歩き続ける。
まだまだ、日は高い位置にある。
しばらく移動し続けても問題ないだろう。
むしろここからは移動というより、探索といったところだろうか。
これまで以上に周辺へ意識を巡らせる。
特に何かある様子は見られない。
やはり、あまりにも時間が起ちすぎてしまったのだろうか?
かつて、この地にあったであろう建造物も全て風化してしまっていたとしたら?
いや、ここで諦めても意味はない。
諦めるくらいなら、始めから探す必要などないのだから。
何もない。
ただただ、木々が広がるだけの森を歩き続ける。
それでも何もない。
何もないしかないとしか言えないほどに。
「ふぅ・・・」
『おいおい、クルス!元気出せよ!』
『そうだな・・・』
そうは言っても、ここまで何もないと中々来るものがある。
しばし休憩することにしようか。
たまたま目に入った岩に腰を下ろそうとする。
ヒュンッ!
風切り音をたてて、矢が足元に突き刺さる。
「何だ!」
思わず岩から離れ、腰を屈め身構える。
矢の刺さる向きを見て、矢が飛んできたであろう方へ視線を集中させる。
頭の上でトゥーンも警戒心をあらわにしている。
やがて、視線の先の木々の間から姿を表す。
矢をつがえ、こちらに向けている。
「貴様!何者だ!」
それはこっちの台詞だ!
やっと念話ではなく、ちゃんと喋る人物(?)登場!
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