序.劇中のマリオネット
[0.愛士、君へ]
「死なないで」
震える声がリピートされる。何度も何度も。真っ暗な視界の中で、彼女にはそれしか聴こえなかった。
「死なないで」
痛みもなにも感じない。自分が横たわっているだろう寝台の冷たさも。全身麻酔をかけられているのだから当たり前だ。何故この声だけがはっきり聴こえるのかは解らない。
周りには誰もいないのだろうか。否、それはあり得ないだろう。霞む意識の中で彼女は思考する。記念すべき初めての“完成品”だ。出来損ないではあるけれど。そして今、それは息絶えようとしている。天才と呼ばれているとはいえ、彼ひとりに全てを任せるとは思えない。
「死なないで」
死なないよ。
根拠のない言葉を心の中で呟いて、彼女は微笑んだつもりだった。声の主であろう彼を安心させるためだ。けれどそれも叶わないらしく、彼は繰り返し続ける。
「死なないで」
聴いたことがないほど哀しげな声が、彼女を蝕んでいく。実際に蝕んでいるのは他のものなのだが、彼女は何故か彼に殺されるのだという妙な確信があった。それは祈りでもあった。
「死ぬな」
ぶつり、それから音が途絶えた。
いやに男らしい、必死な声を最後に、彼女の耳には、もう何も聴こえない。
それでも呟く。死なないよ。死ねないよ。
愛しい彼が、世界で唯一、本当に大事だと思える彼が、また笑ってくれるように。
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