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勇者の隣の一般人 作者:髭付きだるま

第一章

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第一話 スキル『一般人』

2017/06/15 サブタイトル追加&本文を細かく訂正
 少年の目の前で映像がダイジェストで流れている。
 映っているのは1人の男の人生の物語だ。
 彼は中流家庭に生まれ、ごく普通の両親と2人の妹と育ち、学校に通い、大学に通い、就職して、30歳で高速道路の玉突き事故に巻き込まれて死んだ。

 一言で言えば一般人の物語だ。
 盛り上がりも無ければ、取り立てて不幸な事も無い。
 まぁ終わりは不幸だったのかもしれないが、割りとありふれた死因ではある。

 だがしかし、問題は、この映像を見ているのが少年だということだ。
 この映像は対象者の人生を映し出すと言われている物だ。
 だからここに映し出されるのは、少年の生まれてから今日に至るまでの人生でなければならない筈だ。

 少年は最初に映像を見た瞬間に違和感を感じていた。
 しかし最初から最後まで見た今となっては、その違和感はもう存在しない。
 彼は思い出したからだ。
 映し出された男は間違いなく現実に存在した事を。
 そしてその男がこの世界ではない別の世界の住人だったという事を。



 今映像の中では2人の若い夫婦と使用人達が絶望に落とされた顔をしている。
 女性の腕の中には赤ん坊が1人。
 しかしその顔に生気は無い。
 死亡しているのだから当然だ。
 赤ん坊の額には呪いの後が見て取れる。
 どうやら赤ん坊は呪い殺されたようだ。

 次の場面では赤ん坊はベッドに寝かされ、若い男がネックレスを掲げている。
 あれは『奇跡のネックレス』だ。
 何故知っているのかって?
 我が家の家宝だからだ。

 若い男、いや若き日の少年の父親が家宝のネックレスを掲げ、懸命に祈る。
 するとネックレスが輝き出し、死んだ赤ん坊の真上で突然空間に亀裂が生じた。
 そこから出てきたのは光り輝く魂だ。
 魂は割れた空間から出てくると、近くにあった魂無き体、即ち赤ん坊の体の中に入って行った。
 するとどうだろう、赤ん坊の顔に赤みが差し、呼吸も戻った。
 生き返ったのだ。
 その場に居た若き日の両親も、使用人達も皆喜びを爆発させていた。

 魂という物を見たのはこれが初めてだったが、少年にはその正体が看破できた。
 当然だ、あれは自分だ。
 そして魂が入った赤ん坊も自分なのだ。

 それから先は記憶にある通りの人生だ。
 厳しくも優しい両親と沢山の使用人達に囲まれて育つ自分。
 2歳の時には弟が出来、母親を取られたと考えてイタズラばかりする自分。
 迷い込んだ野良犬から弟を守ろうと必死に戦った自分。
 幼馴染達と楽しく遊んでいる自分。
 楽しそうに戦闘訓練に明け暮れる自分。
 嫌々ながらも勉強をしている自分。
 そして今朝、スキルを授かる為に神殿に向かって出発する自分。



 そして映像は終わり、目の前には1枚の丸いボードが現れる。
 これはライフルーレットと呼ばれているものだ。

 ライフルーレットは人生の縮図だと言われている。
 生まれてから10年経った頃、世の中の全ての人間は神殿の一室で神に祈り、スキル授与の儀式を行い、ライフルーレットにチャレンジする。
 そこで各自スキルを授かり、レベルを上げて、スキルを使いこなせる様になるのだ。

 この丸いボードには自分がどのような人生を歩んで来たのかが記されている。
 剣の修業に打ち込めば『剣士』や『剣技』、あるいは『戦士』や『騎士』
 商売に打ち込めば『商人』や『計算』
 悪事に手を染めれば『スリ』や『泥棒』
 魔法の修行に打ち込めば『魔法使い』や『水魔法』などと記される。


 ライフルーレットは100分割だ。
 人生の内、1%以上掛けた物のみがボード上に現れ、各自に割り振られた針の数だけスキルを得ることが出来る。
 少年はこの国の名家の息子だ。
 だから幼い頃から英才教育を受けて来た。
 読み書き計算は元より、戦闘訓練、魔法の勉強に始まり、戦場で役立つ知識を片っ端から詰め込まれてきたのだ。
 だから少年のライフルーレットは大部分が戦闘系技能で埋まっている筈だった。 しかし今、少年の目の前に現れたボードは1つのスキルだけで75%が埋まっていた。

 そのスキルの名は『一般人』
 少年は今10歳だ、そして少年は前の人生で30年間一般人として生きて来た。
 だからこの割合は別におかしい物ではない。
 40年の内30年間一般人として生きて来たのなら丁度75%になるだろう。

 そう、少年は思い出したのだ。
 自分が地球という星の日本という国で一般人として生きていたという事を。
 そして交通事故に巻き込まれ死亡し、『こちらの』父親が行なった死者蘇生の儀式の影響で魂だけが死亡した赤ん坊の体内に入ったという事を。
 『向こう』に居た時には、小説や漫画などで散々ネタにされていた異世界転生をしてしまったという事を。

 だがそれは別に良いのだ。
 いや良くはないのかもしれないが、転生してしまったものは致し方ない。
 文句を言った所で元の世界に戻れる訳でもないし、そもそも自分は向こうでは既に死んでいるのだ。
 だったらこちらの世界で新たな人生を歩むしか無い。
 あちらの世界と比較したら色々と厄介だったり面倒だったりすることも有るが、こちらの世界だって捨てた物ではないのだから。

 問題はライフルーレットの内容と、出現している針の数だ。
 先程も説明したが全体の75%は一般人で埋め尽くされ、残りの25%内にこちらでの10年間の人生が凝縮されている。
 これは正直どうにでもなる。
 問題はライフルーレットの針の数が1本しか無いということだ。

 スキル授与の儀式に於いて最も重要な事は、『どんなスキルを授かるか』ではなく、『どれだけのスキルを授かったか』だと言われている。
 何故なら『スキル1つに対してレベルを10上げる事が出来る』からであり、『スキルという物は数があればあるほど良い』とされているからだ。

 レベルとはその人物の実力を図る1つの目安になっている物だ。
 この世界にはステータスという物が存在する。
 自らが持つ基礎的な能力を数字として見ることが出来るものであり、高ければ高いほど良いとされている物だ。
 レベルが上がれば、ステータス、つまり基礎的な能力である力や体力、素早さなどが上がっていく。
 つまりレベルとは高いに越したことはないのだ。

 そしてスキルとは『特殊技能』の事だ。
 スキルにはいくつか区分があり、『技能が上昇する物』や『ステータスに特典が付く物』などが存在する。
 例えば、『剣術』を持っていれば剣の扱いに長け、
 『剣士』を持っていれば力や体力、素早さといったステータスに特典が付くのだ

 つまりレベルにしてもスキルにしても数が多いに越したことは無いのである。
 そしてレベルを上げるためにはどうしてもスキルの数が必要となる。
 だからスキル授与の儀式に於いて最も重要な事は、『どんなスキルを授かるか』ではなく、『どれだけのスキルを授かったか』なのである。


 ライフルーレットに出てくる針の数は、その者が得ることが出来るスキルの数を示している。
 針が10個なら貰えるスキルの数も10個であり、最高レベルは100となる。
 そして少年の様に針が1つだけなら、貰えるスキルは1つだけであり、最高レベルは10止まりだ。
 そして少年のライフルーレットは75%が『一般人』で埋まっている。
 つまり少年は75%の確率で一般人のスキルを取得してしまうのだ。

 ちなみに仮に針の数が10個でルーレットを回し、8本が同じスキルを差し、残りの2本が違うスキルを差した場合は、針が指し示したスキルを抜かして、今度は7本の針でもう1度ライフルーレットをやり直すことになるらしい。
 よってスキルの2重取得という現象は起こらない。
 だから例え全体の4分の3が同一スキルで埋まっていた所で、針の数が多ければ挽回は可能だったのだ。

 だが少年のライフルーレットには針が1つしか存在しない。
 これも恐らくはライフルーレットのボード内容と同じく、少年が異世界から転生してきた事が影響しているのだろう。

 古来、遥か昔の人類達は少ないスキルしか持っていなかったと伝えられている。
 その内段々と多くのスキルを持つ人々が現れ始め、その者達の活躍により、人類は活動範囲を広げ、現在の繁栄を築き上げたという。

 今現在、子供が持つスキルの数と言うのは、両親の持っているスキルの数に影響されるという事が研究結果として報告されている。
 父親が8つ、母親が8つなら、子供も8つ。
 父親が8つ、母親が6つなら、子供は6~8つ。
 偶に増えたり減ったりする事もあるらしいが、概ね両親の持っているスキルの数に収まるのだそうだ。

 軍の副将軍である少年の父はスキルを8つ持っており、母親も6つ持っている。
 だから少年は6~8つのスキルを得られる筈だったのだが、現状スキル取得の為の針は1つしか無い。
 このことから考えて見ると、少年の魂が異世界から来た事が影響しているとしか考えられない。
 少年にはこの世界の魂達が受け継いできた、これまでのスキルを増やす為の営みが継承されていないからだ。
 だから少年の針は1つだけしか存在しないのだ。
 そしてその針は回り始め、予想通り『一般人』の欄で止まってしまった。

 《スキル『一般人』を入手しました。
  レベルを1つ上げる毎に全ステータスが1上昇します》

 少年はその場で崩れ落ち、地面に膝をついた。
 たった1つのスキルであろうとも、内容によっては使い道はあった筈だ。
 しかしこれはないだろう。
 どう考えてもハズレスキルだ。

 スキルとは人生の縮図だ。
 だから必ずしも良い効果の物ばかりではない。
 レベルを上げると不幸になっていくものや、持っているだけで人生に被害が出てしまうスキルも存在する。
 そういった大外れスキルではなかったのは不幸中の幸いだったが、ステータスが1つずつしか上がらず、レベルも10止まりではどうしようもないだろう。


 家を出る時は考えもしなかった。
 少年はこの国の名家の嫡男として華々しい活躍を期待されており、少年自身もそのつもりだったのだ。
 しかしこのスキルでは戦闘などとても無理だ。
 レベル10まで上げれば最下級の雑魚モンスターなら仕留めれられるだろうが、一般的なモンスターでも相当に苦労するだろうし、少し手強いモンスター相手では勝負にもならないだろう。

 これは人生設計を大幅に変更しなければならないなぁと少年は考え、思考がかなり前世寄りになっている事を自覚し苦笑した。
 30年間生きて来た一般人の俺は死に、10年間生きて来た名家の嫡男である俺は『一般人』のスキルを得て人生の変更を余儀なくされた。
 だが、そもそもこの人生はオマケだ。
 こちらの世界の父親が死んだ我が子を蘇らせようと奮闘した結果得られた新たな人生なのだ。
 恐らくは家を出なければならなくなるだろう。
 だが、それでもどうにかして実家の役に立つ様な仕事について、自分の代わりに家を継ぐことになるであろう弟を援助しなければならない。
 前の人生の家族と同様、こちらの家族もまた、少年を愛してくれたのだから。


 少年の名は『ナイト=ロックウェル』

 玄武の国の名門『ロックウェル家』の長男は、これからの人生に思いを馳せながら神殿を後にしたのだった。
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