■ヴェロンディ連合王国/王家の森(湖)
「・・・思い出ですか・・・」
レムリアはそっと溜息を付いた。
思い出を糧に、目指すものに向かって着実に歩いてゆく──そんな経験が皆無な自分には、出来ないことだった。
“思い出なんて・・・心に痛いだけ・・・”
思い出したくない──それがレムリアの正直な心境だった。悲惨な過去、暗い思い出。ヴェルボボンク滞在の二年間を除くと、レムリアには楽しい思い出の記憶など思い出せなかった。
「・・・どうされましたか?」
ふと顔を上げると、真剣な表情で自分を見つめる眼差しがあった。
小首を傾げて、不思議そうに相手を見る。知らず知らずの内に、その深い黒い瞳が相手のそれを覗き込んでします。
──魔性の瞳。
魂が深遠に吸い込まれるような、奈落に落ちる感覚を相手に与えてしまうその瞳。その瞳が、無防備にも大きく見開かれていた・・・。
☆ ☆ ☆
『・・・思い出ですか・・・』
ため息と共に洩れた彼女の言葉には苦いものがあった。
複雑な想いを秘めた私の視線に気づいた彼女の黒く深い瞳が、静かに私を見つめる。
──魔性の瞳。
しかし、私にとって、その瞳はけして恐ろしいものではなかった。
それは、むしろ、そう・・・「懐かしい」とでも言えばいいのだろうか。
私にとっては、ある種の既視感(Deja vu)さえ伴うものだ。
“・・・そう、私はこの瞳を知っている。”
それが私の身体を流れる血に刻まれた遥かな過去の記憶の一部なのか、あるいは永劫の後に辿りつくであろう遥かな未来の予感なのか。それは私にはわからない。しかし・・・。
“・・・イスタス(運命の女神)の織りなすタペストリィに賭けて、私はこの瞳に出会うことを知っていた。”
私にはそんな風に思えた。あるいは、それは私の単なる思い込みの過ぎなかったのかもしれないが。
「・・・レムリア殿。・・・もしよければ・・・、私と一緒に・・・」
私は、彼女の漆黒の瞳を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。いや、開こうとしただけだったのかもしれない・・・。
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