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  魔性の瞳 作者:冬泉
第一章「舞踏会」
魔性の瞳-36◆「落涙」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/宮殿/奥の部屋

「・・・労いの言葉、ありがとうございます・・・」

 やがて、ため息を付くように吐息が漏れると、レムリアはそっと言った。

「このように応えるのが普通の反応――エリアドさま、あなたがわたくしに掛けてくれる言葉が、普通の人の言葉であるのと同様に・・・」

 レムリアの声音は余りにも平板だった。感情がかき消えてしまったようなその声は、心のない人形が発するもののようだった。

「エリアドさま。“人に有らざる者”が人に憧れることと、“普通の人”が誤って暗い道に踏み込んでしまうことの間には、飛び越せぬほど深い溝があるのです。
 わたくしが申しあげたあの戯れ言の中に、人に理解されるような言葉が含まれていたとしても、それを発した想いに大きな相違が有ればこそ、それは結果として理解され得ると、その方に思われているに過ぎません。
 真実を・・・ごまかすことは出来ないのです。」

 途中、何度も声が途切れるかのように震え戦慄おののいていた。
 
 暫しの静寂が訪れた。ただ、浅く早い息づかいが聞こえるのみ。
 やがて、俯いていた顔を、僅かにエリアドに向けると。

「それでも・・・そんな、言葉に喜びを感じるわたくしの心が、まるで普通の人であるかのように振る舞うことを・・・いま、いまこの時はお許し下さいませ・・・」

 無理に浮かべたような微笑みからは、痛々しさしか伝わってこなかった。



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