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  魔性の瞳 作者:冬泉
第一章「舞踏会」
魔性の瞳-31◆「悔恨」
■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/庭園

「・・・相手に対する憤りは心情的に無理からぬ事だが、無思慮な言動が容認されるほど、この国の規範も甘くはない。賢明な者ならば、己の考えを吐露する場所と相手の心得はあるだろう。」

 低い静かな声には、不思議と反論や反感を感じさせない“響き”があった。

「“黄昏卿”(Lord of Dusk)・・・我のことは、斯様に呼ぶがよい。」

 言葉を止めると、しばしの間黙って相手を見る。
 と、俄に本館の方が騒がしくなってきた。ちらりと喧噪の方角に視線を振ると、

「ゆるりと話すのは、次なる機会と致そう。その時までご機嫌よう、エリアド・ムーンシャドウ。」

 金の仮面は踵を返すと、その場からゆっくり歩き出した。
 数歩進んで、生け垣の切れ目にて立ち止まると、肩越しに言う。

「・・・姫君は、本館の奥の部屋で休んでいる。御希望と有れば、見舞いにでも行かれよ。」

 しばし相手に合わせて仮面の向こう側からこちらを見る瞳をじっと見返す。
 その迷いを感じさせぬ瞳に、私は少しだけ目を細めた。


“・・・まだまだ修行が足りぬようだな、エリアド・ムーンシャドウ”


 呟くように自分に言い聞かせ、小さく嘆息して一礼すると、口を開く。

「・・・御助言、感謝する。“黄昏卿”殿。」

 館の喧騒に向かって去る“夕刻斎”と名乗った人物の後ろ姿をそのまま見送り、私は口の中で小さく呟く。

「・・・この国もまだ捨てたものではないということか。それとも・・・」

 しばし瞑目し、この国の未来に想いを馳せる。
 “祖国”と呼べるほどには、この国のことは知らない。
 だが、それでも私にとってこの国は生まれ落ちた故郷なのだ。

「・・・なかば成り行きとは言え、この国でこのような想いを抱くことになろうとは・・・」

 私は呟くようにそう言うと、足早にかの人物に教えられた奥の部屋へと向かった。



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