■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/庭園
彼女を抱えた人影は、奥まった庭園の一角、高い生垣の角に消えていった。
“何か嫌な予感がする。何か良くないことが起きそうな・・・”
そう思うと、私は自然と急ぎ足になった。相手を追って、生垣の角を曲がる。
“・・・なぜ、このように心が騒ぐ? ほんの一時、ダンスをして少しばかり会話を交わしただけの相手ではないか・・・”
そうした考えとは裏腹に、その時、私の心は確かに揺れていた。
“・・・認めなければならないということか。私の中で、彼女が何らかの意味を持ち始めているということを・・・”
“・・・星よ。我を導きたまえ。彼女のもとに・・・”
呟くように、空に祈る。
『ビリッ』
その時――生垣の向こう、布が裂けるような音が聞こえた。私は、急ぎそちらに走った。
「・・・」
それを目にした瞬間、私の中の何かが押さえ切れなくなる。
無意識のうちに全身から凍てつく鬼気が放たれる。それは、かつて“阿修羅”とともに身にまとっていた修羅の闘気。触れるものすべてを引き裂きかねぬ魔人の刃。
その畏怖の衣を身にまとい、私はつかつかと男に近づく。
「・・・それ以上、少しでも妙な動きをしてみろ。次の瞬間、おまえの命はこのエルスから消えてなくなると思え。」
もし私に声だけで人を殺せるものなら、その男は死んでいたかもしれない。
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