■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
「臆病・・・?」
レムリアの中で、何かが燃え上がったようだった。或いは、何かが溢れ出ようとするのか。
意志の力を振り絞ると、レムリアは“それ”を押さえようとした。
決して“これ”を見せてはいけない・・・
気持ちを整えるように、幾度か大きく息を付く。
もう大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
「・・・そうなのでしょう。いえ・・・。そのように思って頂いても結構です。」
漸く、それだけを口にする。
顔を上げると、何も感じていないかのような、無表情な仮面が出迎える。
自分の胸の胸の鼓動が聞こえている。
何かが、流れ出していく。
胸の内に、奈落のような空虚な部分が広がっていく。
――何も感じない。何も感じられない。何時も・・・同じ事・・・
隙有れば暴走しようとする“それ”を、どうにか押さえきる。
――今は、駄目・・・今は・・・
少しずつ、“それ”は収まってきた。
何とか自分を落ち着かせると、自分の想いを言葉にする。
「エリアドさま。健全な人がこそ夢を観るのです。狂い続ける者は夢に生き、せめて現世の夢を観ようと想うのですから。」
他人にここまではっきりと言ったことはなかった。
言えば、また差別のネタになるだけだったからだ。
しかし、エリアドは黙ったままだった。
小さく一礼すると、レムリアはバルコニーを後にした。
通り抜けたガラス戸を通して、バルコニーに残した相手の佇む姿が瞳をよぎる。
軽い嘆息を一つ漏らすと、レムリアは後ろを振り返らずに歩み去った。
☆ ☆ ☆
「・・・どうやら、彼女の誇りを傷つけてしまったらしいな。」
バルコニーに残されたエリアドはぽつりと言った。
失言だったか・・・。
ゆっくりと夜空を見上げる。
その言葉の耳にした瞬間の彼女の微かな変化は、かろうじて感じ取れた。
「だが・・・。」
自分は狂気に包まれ、夢の中に生きていると言いたいのだろうか。
「・・・それは哀しい考え方だ。」
手にした“阿修羅”に視線を落とし、小さく呟く。
なぜ、そのように感じるのか、しかと判りはしなかったが。
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