■ヴェロンディ連合王国/王都シェンドル/王宮(祝宴にて)
「はい。では、こちらにどうぞ。」
小さく頷くと、レムリアは自分からエリアドの手を取ってバルコニーへと導いた。
これは有る意味大胆な、そして慣例からすると慎みのない行為であった。と言うのも、ヴェロンディ連合王国では、男性が“主”、女性が“従”で、女性は常に一歩下がった立場で居ることが慣習となっているからだ。
案の定、この行為を見咎めた向きがヒソヒソと臆面もない論評を飛ばしていた。
『まぁ、御覧なさいよ!』
『慎みのないこと。』
『所詮は“妾腹”だからな。』
『こんな所に、出入りできる立場じゃないのにな!』
『お兄さまに甘えているのよ。』
『嘆かわしいな。国の威信に関わることだ。』
どちらが慎みが無いのか、疑問に思われるような言葉を交わしている人々を後に残し、二人はバルコニーに出た。澄み切った夜空が広がり、眼下にシェンドルの街の灯が広がっている。
「・・・嫌な想いをさせてしまいました・・・」
バルコニーの手すりに背を預けながらも、レムリアは言った。その声音には、僅かな戦慄きが混じっている。
“何時も・・・同じこと・・・”
重くなる心に、先程まで高揚していたレムリアの気持ちは急速に沈んだ。自分の存在が、この街の人々にとってどう受け止められているか知らぬ訳でもなかったが、それでも、人々の無責任な言葉を耳にすると心が突き刺される想いがした。“叡智の修練”を受け、感情をコントロールする術を取得していなければ、心が壊れてしまっていただろう。だが、それが受ける“傷”を軽くしてくれるわけでもなかったが。
そんな想いが、レムリアの表情に影を落としていた。類稀ない透明な美しさを身に纏いながら、どこか“暗い色”が混じるベールが覆っている。そして、その中を見通そうとする者は、深い双眸に向き合うことになるのだ。
軽い溜息。別に、今に始まって事じゃない。別に、気にするようなことじゃない。いつも、自分に言い聞かせている言葉を想うと、努めて平静な声でエリアドに言った。
「慣れてしまっているせいか、わたしは鈍感になってしまっているようです。エリアドさまには、申し訳ないことを致しました。」
何事も無かった――そう思わせるように、笑みを浮かべることも忘れない。
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