ポインセチアと、影の伸びる部屋(9/9)縦書き表示RDF


グロ&サイコ描写が酷いです。自分で書いてても気持ち悪かったので、ご覧になる方はくれぐれもご注意下さい。でもまぁ、内臓ボッローンとかカニバリズムとか、そんな程では無いので、そんなに身構える程でもないかもしれません。 今回片手間で書きましたので、以前のよりも誤字脱字、文章や設定の破綻が酷いかもしれませんが、何卒ご容赦願います。
ポインセチアと、影の伸びる部屋
作:赤峰智子



第九話/十二月二日(続き


ひとしきり堪能すると、私は体を起こして、口の端だけを引き上げた嫌な笑い方をしながら彼を見下ろした。
鏡を見ていないから解らないがその時の私の顔は、きっと白雪姫に林檎を売りにきた魔女か、もしくは某漫画の喪黒福造の様な薄気味悪いものだったに違いない。


『………ど、どうして奥さんはこんな』
「優香でしょ?」
目尻から涙を流しながら哀願する彼の言葉を、冷たく遮る。
『…ゆ…うか…?』
「そう。そうやって呼んでって、前に頼んだでしょう?今までずっと呼んでたのに、こんな時だからって気を使わなくて良いのよ。」
うっすら微笑みながら、優しく彼を咎める。
『や、でも僕奥さんを』
「呼びなさい。」
私は真顔で命令した。こんなに仲良くなったのに、今更そんな他人行儀にされるのは正直気分が良くない。
『ひっ…!』
彼が身を竦める。
『…わ、解りました!呼びますから!それで……ゆ…うかさんは、いったい……いったい、僕をどうしたいんですか!?僕、僕…まだ死にたくないっ!!』
彼の中で何かの糸が切れたのだろう。彼は神経質にそう叫ぶと、いきなり大きな声を上げて泣き始めた。
私はそれを、まるで映画やアニメでも見る様に、無感動にただぼうっと眺めた。


………今日は何もかもが違う。
彼は私の事を名前で呼ばないし、会った時のままの格好だし、見た事無い表情ばかりするし、こっそり夢見ていた彼とのキスも何だか予想と少し違うし、何より、………彼を愛しいと思うのだ。
それは私が今まで感じてきた愛しさではなく、何と言うか…どす黒い、粘ついたモノに包まれた、濁った愛しさだった。
そして今、泣き叫ぶ彼を眼下に置いて、新たな感情が私の背筋を駆け登ったのである。





「……貴方が生きるのも死ぬのも、……私の気分次第なの。」
私は粘ついた支配欲に塗れた笑顔で、彼の耳にそう囁いた。





『ひぃっ……く!!』
彼の鳴咽が止まる。
良い眺めだと、私は思った。


今私は、『彼』を構成するモノの殆どを手にしている。それは物質的なモノでなく、あくまでも目に見えない代物なのだが。
喜、哀、楽、と言った彼の感情や表情、彼の自由、そして彼の運命。
こんなにも愛しい彼の内のいったい何割を、私は今手にしているのだろう?





そして、いったい何割を手にすれば…私は彼と一体に成れるのだろう?





…愛しい。愛しくて堪らない。
彼の総てを手にしたい。彼の総てを手に入れて、そして私も彼の総てに成ってしまいたい。彼だけの私で、私だけの彼で在りたい。
…あぁ、いっその事彼と一体に成ってしまえたら、どんなに幸せだろう!彼の内側に私が入って、彼を通して世界を感じるのだ!何て素晴らしく、何て扇情的で、そして何て羨ましい事なんだろう!
私はそれを想像して、思わず体を震わせた。
眼下の彼は涙を溜めた目で私を見上げる。


それを見た私は背骨の辺りから湧いてくる生温い衝動に身を任せ、右手を少し上げ、そのままふらっと彼の右頬に振り下ろした。


《シュッ》
と音がして、彼の頬すれすれを刃先が掠めてそのまま銀色の台に少し突き刺さる。
『うわぁっ!』
突き刺さるのに半拍遅れて、彼が一際大きな悲鳴を上げながら顔を左へ背けた。透き通った大粒の涙が彼の肌の上を滑り落ち、小さな水溜まりを作る。
私は左の親指で左目尻から一直線に続くその涙の痕をなぞり、そして水溜まりへ指を浸した。
彼は失神しかかっているのか、目をつむったまま、声を発する事無くただガタガタと震えている。
私は浸した指先を、そっと舐めた。
目を閉じて味わう。初めは冷たさと塩辛さが舌を突くが、その後ろから彼の味がついてくる。






これでまた一つ、彼に成れた。





私はとびきりの笑顔で彼を見下ろした。
すると彼の右頬には一筋の赤い線が走っていて、そこには薄く血が滲んでいる。私は舐めた親指をその線に伸ばし、ゆっくりなぞった。
指先がほのかに紅く染まる。何とも魅惑的な色だ。
私はまたその指を舐めた。
目を閉じて味わうと、鉄と彼の匂いが頭にじんわり広がる。





これでまた一歩、私の理想に近付いた。





私は舐めた指先をじっと見る。するとそこにはもう、あの紅い彼は居ない。
私は何だか急に淋しくなって、また彼の傷をなぞった。



『………いっつ!』
彼が小さく呻く。
同時に彼の眉間に皺が寄る。彼の口が歪む。彼の目が更にきつくつむられる。そして彼の目から涙が落ちる。
その表情が何ともいじらしく、愛しい。


なぞった指先を見る。
紅い液体が指先を濡らしている。
同時に私の眉が下がる。口元が緩む。更に目が細くなる。そして笑みが零れる。
この冷えた紅い液体ですら堪らなく愛おしい。


………もっと。
もっと彼が欲しい。
もっと彼を手に入れて、彼と一体に成りたい。
もっと彼の体温を感じてみたい。
もっと彼を味わってみたい。
もっと彼の鼓動を肌で感じたい。
もっと彼の涙を見たい。もっと彼の可愛い表情が見たい。子犬の様に震える姿が見たい。赤ん坊の様に泣き叫ぶ姿が見たい。
もっともっともっと………。


私は目茶苦茶に右手を振り上げ、そして彼目掛けて振り下ろした。
ガツガツと何度も台に刃先が突き刺さる音や彼の着古したTシャツを裂く音が聞こえ、そしてその度手に感触が伝わる。
熱く紅い彼が何度も私の皮膚に飛び散り、そして私の上で流れながら冷えていった。同時に私の皮膚も冷えていく。


………あぁ今、流れていく彼と私の表面温度は一体になっている!





「あはは、あはははは!!」
離れていた二人が一体に成っていくのを文字通り肌で感じられて、私はとても満ち足りていた。自然と笑いが込み上げてきた。
私の心臓が今までで一番踊り狂っているのが伝わる。ドクドクという低い音が胸の骨や筋肉を突き抜けて赤い部屋にうるさい程、響き渡っている。
だんだんこめかみが熱くなってきて、軽く汗ばんできた。目も冴えてきた気がする。きっと彼の体温を感じ過ぎたのと、激しい鼓動のせいだろう。
思い切り刺してしまわないように気をつけながら、私は執拗に彼の腕や胸を狙った。


彼は必死に抵抗していた。
『…痛!止め、止めて!お願、い、お願い、止め!ゆ…かさん!おねが、や、…止めろ!!』
するといきなり、彼が私を怒鳴り付けた。
『い………いい加減にしろよ、この野郎!人が下手に出てりゃ調子乗りやがって!いったい俺があんたに何したってんだよ!?そんな猫が鼠いたぶるみたいに、ちまちまやるんだったらなぁ、………ひ、一思いに殺しちまえば良いだろぉ!?』
彼は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
私は彼を見下ろし、右手を振り上げたまま思わず固まってしまった。
さっきまでうるさい程に響いていた心臓の音が急に聞こえなくなり、汗ばむ程に上がっていた私の体温が頭から順にさぁっと冷えていく。


彼は………いったい何と言ったのだろうか?
微かに耳に残った声をどうにか引きずり出してみると、どうやら彼は
『いい加減にしろ、殺すなら殺せ』
と言ったらしい。
彼を見る。
すると彼は見た事がない、さらには想像も出来ないような表情をしていた。目から痛い程の力が溢れている。
これは……まさか………。


『何だよ、黙ってないで何とか言えよ!』
彼がまた喚きだす。
『何の権利があって、お前はこんな事してんだよ!?俺はお前なんか、何とも思ってねぇ』


「今」


私は呟いた。
『………え?』
彼の動きが止まる。
私は体を倒し、もう少しで彼の顔についてしまうくらい顔を近付け、間近で彼の目を見て言う。
「今、怒ったでしょう。…それに『殺すなら殺せ』って、少し自暴自棄になって絶望した。………って事は、私、」
私は姿勢を戻して彼を見下ろし、笑顔で言った。





「…足りないもの全部、手に入れちゃったんだ。」





私は左手を彼の顔の脇に起き、右手を高く振り上げた。彼が喚くのが遠くで聞こえる。
一度治まった鼓動が更に激しく跳ね回り、そして体が熱くなり自分の鼓動の音以外何も聞こえなくなった。
彼の匂いが私を包み込む。






今までに見た喜と楽の表情、そしてさっき見れた怒と哀の表情。
彼の喋る声、笑う声、泣く声、怒る声。
彼の体を構成する、体温、体液、匂い。
そして彼の運命と、自由。
全て、手に入れた。


……あぁ、私は今、完全に彼に溶け込んで一つになったんだ!








嬉しさのあまり、無性に彼を目茶苦茶にしたくて。もう全て溶けて一つになるくらい目茶苦茶にしたくて。
私は勢いよく彼の首元へ包丁を振り下ろした。
水っぽい音と共に、温かい彼が私の顔を濡らす。
もっと彼を感じたくなって、私は目茶苦茶に彼を突き刺し続けた。


次第に彼の声が途切れ、噴き出す液体の量も減り始めた。
それでも尚、私は甲高く笑いながら彼を目茶苦茶にし続ける………。










……………………………………





「…ぅああぁあぁぁああっ!!!!」
私は物凄い叫び声を上げながら跳び起きた。
肩で息をする。粘ついた汗が背中やこめかみ、胸を滝の様に流れている。
「ゆ…、夢……か…。」
両手で髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回し、引っ張りながら布団にうずくまる。…何だったんだ、あれは!


『おい…、大丈夫か?』
ハッとして横を見ると、夫が枕元の電気を点けてこちらを心配そうに見ていた。
『何かあったのか?病院…行くか?』
晩に叱りすぎたと思ったのか、夫はとても優しい声で尋ねてくる。
「ううん、大丈夫…。……ちょっと、怖い夢見ただけだから。」
私は軽く笑いながら答えた。
『そっか…無理するなよ。』
そう言って夫は私を抱き寄せた。夫の温かさと、透ける程汗に濡れたパジャマが冷たく張り付く感触の落差にぞっとする。


どうしてこんな夢を見てしまったのだろう?心を入れ替えて、夫の温かさに包まれて眠っていた、こんな時に?
目を閉じると、あの恐ろしい夢が鮮明に蘇る。
泣き叫ぶ彼の声、肉を切り刻む水っぽい音、うるさい程響く拍動音。彼の血液が飛び散って顔にぶつかる感触、まるで沸騰したみたいに波打つこめかみ。そして血液の生温い温度と徐々に冷えていく皮膚。
私は自分に怯え、恐ろしさのあまり啜り泣きながら、がむしゃらに夫にしがみつき胸に顔を埋める。


そして頬を流れ落ちる自分の熱い涙と冷えていく皮膚の温度に、もう一度大きく震えた。



ここまでお読み戴きまして、本当にありがとうございます。 後二回で完結予定です。最後までお付き合い戴ければ幸いです。













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