ポインセチアと、影の伸びる部屋(2/9)縦書き表示RDF


BGMは椿屋四重奏【導火線】がお勧めです。
ポインセチアと、影の伸びる部屋
作:赤峰智子



第二話/七月三十日


その男が気になり始めてから、私はずっとスクーターの音だけを待ち侘びて過ごしている。
誤解して戴きたくないのだが、私は別に夫に興味を失った訳ではない。夫の事は勿論好きだ。家族計画の事もちゃんと考えている。
 

ただ、その男への感情は、夫へのそれとは少し違う気がしている。強いて言うなれば俳優やアイドルに熱を上げる、ああいう物の様な。
……それが果たして良いのか悪いのかは別にして。
 


 

 

……………………………………
 


 


 

今日はいつもより多くその男を見る事が出来た。どうやら道に迷ってしまったらしい。
マンションの四階なので声は聞こえないのだが、路肩にスクーターを停め、汗を拭いながら管理人の婦人に何かを尋ねる表情は、焦っているようで可愛らしい。
 

「……今時の無気力な子だと思ってたけど、意外と熱心な所があるんだ……。」
私はまた呟く。何だか自分の息子を見ている様な感覚だ。
『息子って、一体私は幾つなのよ。まだ二十六のクセして』一人突っ込みを入れながらクスクスと苦笑する。
 

そうしている内に男は笑顔で礼を言い、走り去ってしまった。笑顔も素朴で可愛い。
『将来、息子が出来たとしたら、あんな子が良いなぁ』私はそう思いながら夕飯の買い物に出掛けた。
 


 

今日の晩御飯はハンバーグにしようと思う。夫の好物なのだ。
私はあまり料理上手では無いのだが、ハンバーグだけは上手く作れる自信がある。
きっとあの大学生の様な笑顔で『美味しい』と言ってくれるだろう。

 

私は軽く鼻歌を歌いながら部屋の鍵を閉めた。


展開が遅くてタルいかもしれませんが徐々に進行させる手段なので、期待せずゆっくりお付き合い戴ければ幸いです。











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