34:赤髪の魔人
第34話です。
「それは火の精霊。お前は、まさか……」
赤髪の魔人は、私を見て何か呟いています。
その隙にクルス様が駆けてきて、私の前に出ました。
「リズさん、こいつは今までの敵とレベルが違う。倒す事なんて考えずに、逃げる事を考えましょう」
「わかりました、クルスさん」
私は倒れているチキータさんを見ました。
彼女が目を覚ますまでには、まだ少し時間が掛かりそうです。
「なんで君が精霊魔法を……」
「事情は後から説明します。今はこの場を離脱する事を優先して下さい」
フリューゲルさんに、魔物に悟られないように小声で伝えます。
エプリクスだけでは、この魔人相手にどこまでできるかわかりません。
私は首飾りに手を掛けました。
「どこか面影があるように見える……お前はまさか、サラの娘か?」
突然魔人の口から、私の母の名前が出ました。なぜ、赤髪の魔人がお母さんの名前を?
そう言うと、魔人はこちらへと向かってきました。
「リズさんに近寄るな!」
クルス様がミスリルの剣を構えました。
赤髪の魔人は、まるで意に介さないようにそのまま進んできます。
「邪魔だ」
「うわあ!!」
赤髪の魔人が腕を横へ振ると、クルス様が洞窟の壁へ吹き飛ばされました。
「クルスさん!」
私がクルス様に駆け寄ろうとすると、もうそこには赤髪の魔人が立っていました。
魔人は黙って私を見降ろしています。
「その子に近寄るな!」
フリューゲルさんが、剣を持って赤髪の魔人に斬りかかりました。
しかし、その剣は、見えない障壁に阻まれ弾かれてしまいました。
「うるさい奴等め。久し振りに同胞と出会えたのだ。少し黙っていてもらおう」
冒険者達も、赤髪の魔人の力で吹き飛ばされてしまいました。
「この髪は……」
赤髪の魔人の手が伸び、私の髪に触れました。
私は腰に付けていたナイフを取り出し、魔人へと向けました。
「あなたなんて知らない!私に触らないで!」
「やはりサラに似ている……一族にあるまじきこの髪の色も、サラにそっくりだ」
この魔人は、私の母を知っている……そして、私の事を同胞だと言いました。
鉱山の人々を殺害し、チキータさんの恋人の命をも奪ったこの魔人と、私が……同胞!?
「エプリクス!この魔人を攻撃してください!!」
エプリクスは動きませんでした。
さっきまではそんな事無かったのに、一体なぜ……!?
『主と同じ波長を感じる……これは……』
やめて下さい、エプリクス!
それではまるで、この魔人が言う事が正しいみたいではないですか……!
「サラは、私の妹だ」
私は魔人から跳びのき、弓を構えました。
「【デオフレイムアロー】!」
赤髪の魔人は、私の放った弓を指で挟み受け止めてしまいました。
炎は掻き消され、そこにはただの矢が残りました。
「この子も……メディマム族だと言うのか?」
フリューゲルさんが呟くように言いました。
そして、恐れるような目で私を見てきます。
この目には見覚えがあります。
コルンで牢に入れられた時、私を取り囲んだ兵達の目にそっくりです。
恐れるような、怯えるような目……私は何もあなた達に害を為す気は無いというのに!
「や、やめて下さい……私はあなた達の敵ではありません……!!」
「リズさん!!」
体の震えが止まりません。
クルス様は私に駆け寄り、肩を抱いて下さりました。
「お前達の敵はリズさんか!? 違うだろ!!」
クルス様は、冒険者達に向けて言いました。
そして、すぐに赤髪の魔人に視線を向けます。
「リズさんは、あんたのように人を殺したりしない……あんたとは違う!」
クルス様の掴む手が、僅かに震えています。
赤髪の魔人の力は、あまりにも強大です。クルス様だって怖くないわけは無いのです。
「我々メディマム族には、精霊を使役する能力が備わっている。
その娘が火の精霊を操っている事が、何よりの証拠ではないか」
「リズさんは、確かに精霊魔法を使う……だけど、それは人々を救うためだ!人々に害を為すあんたとは、全然違うんだよ!」
クルス様は、赤髪の魔人を相手に怯むことなく言い放ちました。
私はクルス様の言葉を聞いて、自然と涙が溢れてきました。
「リズさんが何者だって関係無い。僕は、リズさんを信じている」
私は、肩に掛かるクルス様の手を、そっと握りました。
その時、突如洞窟内に轟音が響き壁が破壊されました
「何事だ!?」
赤髪の魔人が振り向くと、そこには禍々しい魔力を放つ悪魔のような姿がありました。
大きくねじ曲がった角、黒い体毛に覆われた体、そして背中には蝙蝠のような羽が見えます。
「これはこれは。まさかメディマム族まで、この地に居るとは」
「貴様、魔族か……」
魔族……!?
その悪魔のような姿の魔族は、こちらを見て笑います。
「火の精霊にメディマム族……土の精霊以外にも、アリエス様に良い手土産ができそうだ!」
魔族の禍々しい魔力が高まって行きます。
「私はアリエス様の配下、カペルという者だ。メディマム族よ、その精霊の力を使い、我ら魔族と共に再び暗黒の世界を築こうではないか」
「くだらん……」
赤髪の魔人は、カペルという魔族を相手に指を向け、巨大な炎の高等魔法を放ちました。
魔族がそれを避けため魔法は空洞内に突き刺さり、洞窟内が大きく揺れます。
魔人と魔族はそのまま戦い始めました。
「ど、どうなってんだよこりゃ……メディマム族の次は魔族だと!?」
「なぜかメディマム族は魔族と戦い始めましたし、逃げるチャンスじゃありませんか?」
バストロンさんと、フォニアさんが言いました。
フリューゲルさんは、二人の意見を聞いてか聞かずか、魔人と魔族の戦いを見続けています。
「……あれ?……あたし……」
チキータさんが目を覚ましたみたいです。
魔人と魔族の戦いを見て驚いています。
「これは一体、どうなってるの……?」
「説明は後だ!もうこんな所オサラバしようぜ!」
バストロンさんは、逃げ出す準備を進めています。
「どうした、メディマム族。精霊は使わないのか?」
「あれは私の精霊では無いのでな。それに魔族如きには、この魔法で充分だ」
赤髪の魔人が指を鳴らすと、炎を纏った巨大な竜巻が発生しました。
魔族はそれを魔力のこもった腕で受け止め、竜巻を押し返しました。
それは既に、私達が付いていけるような戦いではありません。
「人間達よ、今のうちにこの場から立ち去れ」
赤髪の魔人が私達に向かって言いました。
一体どういうことなのでしょうか……!?
「なに……私のこの力を、誰かの為に使ってみたくなった。それだけの事だ」
魔人はクルス様を見て言いました。
そして、すぐに向き直り、魔族へ魔法の連弾を浴びせます。
「メディマム族である貴様が、なぜ我ら魔族に逆らうのだ」
魔族の攻撃が、だんだんと赤髪の魔人を捉え始めました。
「ふん……いい気味だわ!あんたのせいで何人も人が死んだんだ!!
あたしの大切な人も、みんな! ……今更、良い人振ったって!!」
チキータさんの言う通りです。
あの魔人は、チキータさんの恋人の命を奪っています。人だって……沢山殺したんです!
「私は、あの魔人と共に闘うぞ!」
フリューゲルさんは剣を構えて走り出しました。
「【ライトニング・スラッシャー】!!」
雷光を纏った斬撃が、魔族へと向かいました。
魔族はそれを受け止めましたが、体内に電気が走り、動きが一瞬止まります。
そこに隙が生じました。
「でかしたぞ、人よ」
赤髪の魔人が初めて魔法を詠唱しました。
「【ミリューガ・デオインフェルノ】」
最初に見た炎の魔法よりも、もっと大きな火球です。
これにはさすがの魔族も、今までのように掻き消したりはできないようです。
「グガアアアアッ!!」
魔族を炎が包み込みました。内部で激しい燃焼が起こります。
これで、魔族は倒れたのでしょうか……!?
しかし、そこには暗黒の波動で体を包み込んだ魔族の姿がありました。
ところどころ焦げてはいるものの、決定打にはならなかったようです。
「今のは流石に危なかったぞ……!」
魔族から波動が発せられ、赤髪の魔人とフリューゲルさんを吹き飛ばしました。
「……化け物め!!」
「ぬう……!」
二人へ魔族が近付いて行きます。
「【インテンシブ・デオトルネード】!!」
巨大な竜巻が魔族へと向かいます。
それを見た魔族は、二人から跳びのきました。
「フォニアさん……」
フォニアさんは杖を構え、魔族を睨んでいます。
竜巻は空洞内に直撃し、岩肌を削いで行きました。
「こうなったら、僕だって……!」
「俺も、もう逃げるのはやめだ!」
バストロンさんも、大きな斧を振り上げました。
「リズさん、僕達も!」
「……はい!」
赤髪の魔人は、クルス様と話した事で何かが変わったようです。
フリューゲルさんも、そんな赤髪の魔人に協力します。
二人掛かりでも倒せないほど、このカペルという魔族は強敵です。
私達は総掛かりで、この魔族へと挑みます!
お読みいただきまして、ありがとうございました。
魔族のイメージは山羊さんです。
私は、山羊がずっとムシャムシャしているのを見ているのが好きだったりします。