ヴァンパイアハンター日誌 金髪のヴァンパイア(2/36)PDFで表示縦書き表示RDF


ヴァンパイアハンター日誌 金髪のヴァンパイア
作:金城 ユウ



はじまりの風景


 私は、いつものように喫茶店『リーフ』の扉を押した。扉についているベルが、カランと明るい音をたてる。
「おはよう。秋穂ちゃん。怪我の具合はどう?」
 私を見たマスターが訊ねてきた。昨日までギブスを巻いて左腕を吊っていたのだが、やっと取れた。
「もう大丈夫。綺麗につながったわ。今からお客さんに会う約束。ここを指定してきたんだけど、マスター心当たりない?」
 マスターは首を傾げた。
「ウチの常連で、モンスターがらみの事件に巻き込まれたという話は聞いていないな」
 私は、顔見知りの常連連中を思い浮かべた。
「そうよね。私を知っている人なら、こんな回りくどい事をする必要ないし、ハンター協会からの紹介なのよ。普通、協会が受けた案件は協会で打ち合わせになるのだけど」
 私はため息をついた。何か裏でもあるのかな?
「ところで、秋穂ちゃん。注文はいつものヤツでいいのかな?」
 いつもの、ブレンドコーヒーとシナモントーストも捨てがたいけど…… ふと、マスターが昨日私に言った言葉を思い出した。
「うーん、ラプサンスーチョンが入荷したって言っていたよね。という事は、今日は、キャッシュロレーヌがある?」
 マスターは苦笑いした。
「秋穂ちゃんには参ったな。今、準備する」
 やったぁ。ちなみに『ラプサンスーチョン』は中国紅茶で、製造工程で松の煙で乾燥される。独特の燻製の香があるため好き嫌いがわかれる紅茶で、私は病み付きになった口だ。
 キャッシュロレーヌは、その名の通りロレーヌ地方の料理で、タルト生地の中にベーコンとグリュエールチーズを入れて焼き上げたものだ。これがラプサンスーチョンとあう。
 私が上機嫌で待っていると、カランと音がして、男性がふたり入ってきた。
 一人目は五十歳くらいで、頭に白いものがちらほらと混じり、貫禄のある目つきの鋭い人だ。犯罪者ではないと思う。どちらかと言うと、賞金稼ぎ(バウンティハンター)や警官などの人を追う側の人間の目だ。
 二人目は、背の高い二十代半ばと思われる男性。ひょろっとしていて身長が2m弱。目が細い。見た目だけだと、悪徳商法や詐欺にひっかかるタイプの人の良さそうな感じだけど、歩いている時の身のこなしを見る限り、何かしらの武術を身につけていると思う。それが何かまではわからないけど……
 私は、記憶を掘り起こしてみたが、初対面だ。話どころか顔すらあわせた事も無い。しかし、マスターは知っていたらしい。
「田坂さん、佐藤さん、いらっしゃい」
 マスターは、私の前にラプサンスーチョンとキャッシュロレーヌを並べながら、にこやかに迎え入れる。
 マスターが名前を知っているという事は、何度か通って来ているということだろう。
 二人は、カウンターではなくテーブル席に座った。そして年配の田坂という人が、私の方を見た。
「うまそうだな。マスター、そちらのお嬢さんと同じものを二つくれ」
 田坂さんに続いて若い男が口を開いた。
「それから、葉月というヴァンパイアハンター来ていませんか?」
 マスターは、幸せそうにキャッシュロレーヌをパクつく私の方を、無言で指さした。


今回は、まだ何も始まっていませんね。

なぜか、ラプサンスーチョンとキャッシュロレーヌの説明に力がはいっていたりします。
べつに伏線というわけではありませんよ。たぶん私が食べたいだけです(笑
前回も、シナモントーストとブレンドコーヒーをやったんで、このシリーズのお約束かな(笑

では、また来週水曜日にお会いしましょう。











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