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魔法使いの男の娘 作者:木林タカシ
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イニシエーション

 講義は適性検査から始まった。
 カードの束をシャッフルする手つきはアニマ以上に慣れたもので、惚れ惚れするほどだ。
 一から十三の数字が描かれているのはトランプと同じだが、そのスートは決定的に異なっていた。
 火、水、風、土。
 すなわち自然界の最も基本的な四大元素だ。
「適当にシャッフルして上から四枚めくれば、その者の適正がわかる優れものじゃ。試しにやってみせよう」
 ミレニアの札は火の十、水の二、風の七、土の五を示した。
「数字は割合を示すもので、魔力の強さを表すものではないことに注意じゃ。わしの場合、同じ訓練をすれば、火は水の五倍ほど習熟しやすいということになる。まぁバランスが悪いのは天分じゃからな。こればかりはどうしようもない。次、アニマ」
「任せて」
 アニマは軽くシャッフルしてカードをめくって見せた。
 火の七、水の四、風の六、土の三。
「あれ? おかしいな。いつもならオールエースなのに……」
「それはおいおい説明するとして。次はシン殿じゃ」
 シンは言われたとおりに適当にシャッフルしてカードを四枚順番にめくった。
 火の三、水の七、風の七、土の十三。
「これはどうなんだ?」
「ありていに言うと、サポートする魔法が得意になりそうじゃの。その反面直接攻撃は苦手。何しろ火が一番弱い。しかし、曲りなりにも四属性全てに適正があるのは良いことじゃ。同じ属性が四枚めくれると他の属性は全く使えんということじゃからの」
 喜んで良いのか微妙な判定のように聞こえる。
「だからシンは才能あるんだって」
 アニマがまるで自分のことのように喜んでいるので、おそらく喜べばいいのだろう。
「どしたの? 変な顔して」
 シンは気を取り直して顔を引き締めた。
「さて、それでは本格的に始めるとしよう。まずはアニマ。普段、どのようにして魔法を使っておるか、説明してみせよ」
「どうって……魔法の効果をイメージして、あとはその場のノリ?」
 全然説明になっていないが、本人にその気はないらしい。横でミレニアが深々とため息をついた。
「だって、ばあちゃんがやってるのを見て真似したら大体一発で成功したんだもん。口でわかりやすく説明するのは難しいよ」
「シン殿にもこやつに師事するのがいかに無謀かわかってもらえたじゃろう。まぁ基本を蔑ろにしてきたわしにも責任はある。一から教えるから、アニマも一緒に聞くように」
「はーい」
 いかにもやる気の無い返事だが、ミレニアは咎めず講義を再開した。
「魔法の極意は収束と拡散。簡単に言うとそれだけじゃ。空間中をばらばらに漂っている四大元素に働きかけ、任意のものを集め、体内に取り込む。そして己の体を媒介にして外界に働きかける。その一連の行動を魔術と呼び、行使者は魔法使いと呼ばれている」
「魔術なのに魔法使いって変だよね」
「呼ぶのは大衆じゃからの。それで本質が変わるでもなし。説明を続けるぞ」
 ミレニアがひとにらみすると、アニマは舌を出した。
「何も考えずに元素を集めると、それらはさきほどカードが示した通りの割合で体内に取り込まれる」
「すみません。ちょっといいですか? 元素を集めるにはどうすれば?」
 シンの質問にミレニアは凄く不思議そうな顔をした。魔法使いにとっては常識なのかもしれないが、シンにとっては不可解なことだらけだ。
「もしかして洗礼を済ませておらぬのか?」
「洗礼が何を指すかもわかりません」
 見栄を張っても仕方がないのでシンは正直に答えた。
「むむっ。しかしそうか。魔法使いの家の生まれでなければ無理からぬ。しかし、いや、しかしな……」
「もったいぶらないでいいじゃん。洗礼くらいさっさと済ませようよ。一応許可はもらおうと思ってたんだ」
「そうは言うが、わしかぬしか、どちらかがやることになるのじゃぞ?」
「あ、そうか。そうなっちゃうんだ」
 当事者を置いて二人だけで納得している。何故か落ち着き無くそわそわしだしたアニマを見て、シンは不安を煽られた。
「心配するでない。洗礼というのは簡単な儀式じゃ。公にしたならうるさいやつらもいようが、こっそりやれば問題ない。して、どちらとやるのが良いか?」
「慎重に選んでね。少しの間、抱き合うことになるから」
 大胆なことをさりげなく言って顔を逸らした。
「二人して俺を担ごうとしてるんでしょう?」
「うむ。そう思うのも無理はない。本来は物心つく前に血縁者と済ませてしまうのが一般的じゃからな。体内に魔力の通り道をこじ開ける。大事なのはお互いの信頼関係じゃ。して、どちらが良いか? シン殿が決めよ」
 幼女然としたミレニアと美少女にしか見えないアニマを見比べる。
「でもさ。たまたま女の子になってて良かったんじゃない? 男同士で抱き合うよりは抵抗少ないじゃん。あ、もちろんボクを選ばなくてもいいんだけど。その、ばあちゃんなら安心だよ。ボクが保証する」
 アニマがわざわざそんなことを言うから、シンはことさら意識してしまった。
 男同士のほうがまだ気兼ねせずに洗礼を終えられたような気がする。しかし、ミレニアを選ぶと、それはそれで友情にヒビが入りそうだ。
心情的にはアニマを選びたい。アニマのことを誰よりも信頼しているからだ。けれども理性が邪魔をする。
「どうやら決まったようだの。しばらく席をはずす。頃合を見て戻ってくるから、それまでに済ましておくように」
 含み笑いを残してミレニアは風景に溶け込むように姿を消した。
 どちらともなく視線がかち合った。
 アニマの瞳から目が逸らせない。アニマも無言で見つめ返してくる。お互いに一言も発せられないまま彫像のように固まるが、シンの心臓は確かに激しく脈打っていて、いまにも破裂してしまいそうだ。
「あはは。どうしよっか」
「どうするもなにも……」
 言いかけた言葉をシンは飲み込んだ。アニマの瞳が不安に揺れていたからだ。
「俺たちでやろう」
「な、なんで今日に限ってそんなに積極的なのさ。拾い食いでもした?」
 若干引き気味に体をのけぞらせて冗談にしてしまおうとする。
 アニマはまるで猫のようだ。
 自分から気軽に近寄ってくるのに、その本心は明かそうとしない。強引に追いすがれば、きっと逃げられる。それが怖くてシンは踏み出せないでいた。
「俺はアニマにして欲しい。初めてはアニマがいい」
「怖いよ、シン」
 心臓が砕け散るかと思った。膝が笑いだしそうだった。けれども、逃げようとしたアニマの手はしっかりと捕まえた。
 しかし、そのまま動けなくなった。
「いまだけ特別。優しくするね。だからシンも力抜いて」
 拗ねたように唇を尖らせたが、ふっと頭を預けてくれた。背中に腕を回してもアニマは何も言わない。抱き合ってお互いに見つめあう。折れそうなほどに細い体だ。押しつけられた胸から鼓動が伝わる。
「……その、腰引かれるとできない。もっと密着しないと」
「わかった」
「あのね。ボクちょっとだけ嬉しいんだ。何故だかわからないけど凄く嬉しい。始めるね」
 アニマに腰を引き寄せられた。それと同時に全身の細胞がざわめき始めた。
不随意に筋肉が蠕動する。ぬるま湯のなかに体を浸しているような感覚が皮膚から這い上る。むずがゆいが、しかし嫌な感じはしない。
「ボクを感じてシンクロして。そう、そんな感じで」
 じっとりと汗ばんできた。吐息が熱い。細胞の隅々まで微熱が侵食していく。全てを預けてしまいたい。同時に猛烈な飢餓感に襲われる。
「ごめんね」
 アニマが何に対して謝罪したのかは、すぐにわかった。
 気づいた時にはすでに塞がれていた。
 何を?
 唇を。
 息ができない。それなのに苦しくない。不思議な体験だった。
体の内側から生じた猛り狂う欲望が徐々に吸い取られていき、多幸感に包まれた。そのまま波が引いていくのに任せた。
「はい。おしまい」
 とんっと胸をついて離れたアニマは、少しはにかむようにして言った。頬が上気している。
 シンは急に恥ずかしくなって唇を押さえた。
「犬に噛まれたと思って忘れて。これでシンにも魔法が使えるはずだよ」
 ファーストキスだった。
「男同士だからノーカウント」
 胸の前で思いっきりバツ印を作っておどけて見せるが、アニマの顔は真っ赤だった。
 抱き合ってキスをして感覚を共有してしまった。鮮烈に刻まれた。とても忘れられそうに無かった。
それにいまのアニマは女の子だ。落ち着いていられるわけがない。
「ボクは初めてだったんだよ。シンは?」
「……教えない」
「うん。わかった。やったね!」
 魔法の代償は思いのほか大きかった。
 アニマが嬉しそうにしているのがシンには不可解だった。子供のように無邪気に喜ばれると反応が難しい。しかし、詳細を知らされていたら二の足を踏んでいただろう。アニマの言うように犬に噛まれたと思って諦めるしかなさそうだ。ミレニアを選ばなくて良かったとシンは心の底から思った。
「仲良きことは良きことかな」
 消えた時と同様、現れるときもミレニアは唐突だった。
「準備もできたことじゃし、本格的に魔法について教えて進ぜよう」
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