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街のおまわりさん
作:子鉄


こんにちわ

はい、こんにちわ。

気持ちの良い笑顔だった。
私は警察署にやってまいりました。
私たち市民の安全を守る、立派なおまわりさんが沢山いるのです。                  
すいません。受付はこちらでよろしゅございますでしょうか?                    
はい。どういったご用件でしょうか?       

生真面目で、誠実そうな短髪のおまわりさんが応対してくれた。
            
あっ、あの、私の大事な大事なMAX-MA1が盗まれてしまったのです。
            
はい?そのマックスなんちゃらというのは何の事ですか?                      
あっ、はい、MAX-MA1というのは私の愛車のことです。                       
お車を盗まれた?車種は何ですか?        

おまわりさんは丁寧に私の話を聞きながら帳簿の様な物を開いた。
            
あっ、はい、車種は分からないんですが、ホームセンター・ダイナミック大吾郎で昨年買った物です。型番はS36-255486です。それは頭に入ってます。はい、色は青です。        

あー、自転車ね?                

おまわりさんは帳簿を閉じながら言った。

いつ、どの辺で無くされました?
防犯登録はされてますか?名義はどちらですか?           

おまわりさんは別の帳簿を開きながら、極めて冷静な表情で言った。                 
いや、無くしたんではなくて、盗まれたんです。間違いないんです。     
現にガラの悪い連中が駅前にたむろしていたのです。一緒に行って投げ飛ばしてください。私が作戦を練りますんで。
            
はぁ、その連中が盗ったところを見たんですか?
じゃなきゃ勝手な推測ではこちらも動けませんので。

みっ、見ました。
私がスーパー・大吾郎から牛乳を買って出てくると、茶髪みたいなオールバックみたいな奴が私の自転車に乗って行ってしまったのです。          

えっ?犯行を目撃されたのですか?                    

あ、はいっ。
チンピラみたいな金髪みたいな悪い奴でした。               

おまわりさんの目が鋭く光った。         
獲物を嗅ぎつけたメスライオンのようであった。

えっ?先程茶髪とおっしゃいましたね?                  

あっ、はい。
ちんぴらみたいな、なんかわけの分からない奴でした。           

はぁっ?ちょっと先程からおっしゃる事がどんどん変わっていくんですけど。 

はい、胸にワッペンみたいなのを三つ付けてました。

はい?さっきから言うことが無茶苦茶じゃないですかっ!
            
いやっ、あの、なにぶん奴ら沢山いたもので。               

あーなるほど。
それで、盗られる所をずっと見ておられたんですか?            

あっ、はい。
すぐ様スーパーの屋上に上がり、望遠鏡で事件を事細かに見ておりました。 
素人の犯行ではないと思います。
現場にこのワッペンが落ちていました。
         
なるほど。で、自転車の特徴を教えてもらえますか?            

はっ、はい。これがMAX-MA1の写真です。私は日頃マックスの写真をアルバムに収めてまして、この左上のが母が買ってきてくれた時のやつです。      
12ページ目の一番右がマッつんと山ちゃんと峠越えをした時の写真です。
23ページの右から3番目が....  

あっ、とりあえず分かりましたので、こちらに記入してもらえますか?                
あっ、はい。ペンは持ってます。ええ、MAXペンです。                  

私は盗難届けと書かれた用紙を渡された。

一番上の日付から順に書き始めた。
読みやすい丁寧な字で書くことを心がけた。

あっ、あの、できました。

あぁ、どうも。
えーと、今日が三月八日。名前が、MAX-MA1。
住所が、ダイナミック・大吾郎駅前店。
本籍が静岡の自転車工場ね。
はい、結構です、では後程連絡いたします。
って、言うわけがないですよねっ!!

はぁ?

いや、失礼。そこは自転車ではなくあなた自身の情報ね?                

えっ?私ですか?    
それはおかしなことですね。私の個人情報ということになりますよね?
これは重大な事ではないですかっ!        
私は税金を払っているのですよっ!
あなたの帽子、制服、靴、そしてその腰にぶら下げたマグナム45、すべて我々庶民の血税なんですよっ。

私が少々声を荒げたので、辺りは騒然となり、周囲の人たちがこちらを見ていた。
連行されていく連続殺人犯までもが私の勇ましさに恐れおののいているようだった。

いやっ、でも書いて頂かないとこちらも困るんですよ。
もし見つかっても連絡取りようがないじゃないですか。           

ああ、連絡ならこちらにメールしてください。えーと、MAX-GOGO@....

ちょっ、ちょっ、ちょっと、メールって!
女子高生じゃないんですから。   

はあっ??
あなたっ!女子高生というのは、あのお尻がプリプリしたあの女子高生の事を言っておられるんですかっ!            

いやっ、プリプリかどうかは知りませんけどね、メールやらなんやら言うのはこちらではやってないんですよ。          
とにかく記入してもらわないと、こちらも困りますんで。            

あなたでは話になりませんねっ!別の人を呼んでくださいっ!
婦人警官を呼んでください。二十歳から二十五歳位のっ!          
色白のっ!

いやっ、なぜ女性でなきゃいけないのか分かりませんけど.....藤見さんっ!ちょっと。
            
はい。何でしょう?               

こちらの方のお話を聞いて差し上げて下さい。            

やってきたのは23歳くらいの、ショートカットがよく似合う、ちょうど良い感じの婦警さんだった。おまわりさんは婦警さんになにやら小声で伝えるとその場を去った。

あぁどうも。
ちょうどいいですよ、はい、ちょうど。      

何がですか?                  

いえ、こちらの話です。はい。            

自転車を盗まれたということですね?では、こちらにご記入頂かないといけないのですが?                   
あ、はいっ。書きます、書きますよ。これは趣味はどの欄に書くんですか?  
サイクリングが趣味なんですけれど。
まぁ、今となっては自転車がないので、歩くリングですがね。
えへっ、えへへへ。           

はいっ?趣味とかは今必要ありませんので、書かれてる所だけ記入してください。
            
婦警さんは急かすように、冷静に言った。
            
あと身分証明書はお持ちですか?                     

あっ、はい。身分証明書はこのゲームショップ・ドンキードンキーの会員証があります。これで全品2パーセント引きです。                

いやっ、あのね、ドンキーがどうしたとかじゃなしに、身分証明書です。分かります?免許証であるとか、保険証ね。       

婦警さんは笑顔ではあったが、目の奥に人殺しのような鋭さがあった。    

あっ、はい。そう言ったものはありませんが、ブックショップ・ドゥーのポイントカードならあります。
はい。
毎週『少年ブンブン』を買うので300ポイント貯まってます。                    
婦警さんの目は鋭さを増した。

ブンブンがどうか今聞いてるわけではないんですよっ。

分かりますか?
身分証は今お持ちでないんですね?はい、分かりました。          
では見つかりましたら連絡いたします。
今日はどうもお疲れさまでございました。     
お待ちの方どうぞっ!  

婦警さんは今すぐ出ていけと言わんばかりに話を終えた。          
私は少々癪にさわったが冷静に受け答えた。            

あっ、はい。それで、愛車はいつ頃帰ってくるのでしょうか?        
というのは、私は明日の10時から12時まで留守にするものですから。こちらも電話かけてこられても困るんですよ。
いい加減にしてもらえますか?えっ!
            
私のハートは気付かないうちにヒートアップしていた。           

大体何ですか?あなた方は。犯罪から可弱い市民を守るのが仕事でしょ?あなたのようにちゃらちゃら男の視線ばかり気にしてて犯人を逮捕できるんですかっ!

あっ、はい。
分かりました。
次の方っ、次の方どうぞっ!           

私の事など虫ほどにも思わないかのように婦警さんは言った。                    
なっ、なんなんだこの警察は!

ちょっ、ちょっと!
待ってください。
何なんですかさっきから。次の方って、しょーもないじーさんとばーさんしかいないじゃないですかっ!小汚い格好したっ。    

あの、こちらは警察署ですのでそういった暴言は控えて頂けませんか?                
暴言も何も、御覧なさい、あの彼らの死んだ魚みたいな目をっ!       
大した用もないのに昼間からアホみたいに。

大体なんだっあんたはっ!欲求不満みたいな顔してさっ。
えっ?お相手しましょうかっ?へっ!       

興奮して大きな声を出す私に周囲の人々の視線が一身に集まった。

少々尖りすぎた刃物のような私は、一度我を忘れると誰にも止められなかった。

その時、ロビーに居た恐そうなおじさんが私に向かってきた。
            
お前さっきからなにぬかしとんじゃいボケッこらっ!あっ?殺ったろかいっアホンダラッ!                   
私は反応する間もなく、胸ぐらを捉まれた。               

ええっ?なっ、なんなんですかっ?あなたは。   

おいっ!お前ちょっとこっち来んかいっ!                 

私の体は20センチほど中に浮いていた。                  

なっ、なんでなの?

やっ、やめなさい。わっ私に手を出すと為になりませんよ。
この婦警さんが黙ってませんよ。         
ちらりと視線を移すと婦警さんは冷淡な表情でこちらを見ていた。                  
えっ?
私は善良な市民ですよ? 

なにごちゃごちゃ言ってんだガキこらっ!おおっ!

さらにきつく両手で掴まれた。          

だったずげでぐだざい。
狂ったチンピラみたいな、角刈りみたいのに絡まれてます。

私は再び婦警さんに助けを求めた。あのぅ、そちらの方は捜査四課の刑事さんなんですけど。           
ええっ?このゴリラが?
刑事さんて、テレビドラマ『ブラザー刑事』の信さんみたいな格好いい人じゃないの?         
私はしばし呆然とした。
            
おうっ!あんちゃん、女性やお年寄りに対する態度がなってないなぁ?  
違うか?
・・・・

ち、が、う、か?
・・・・
何とか言えこらっ!               

わっ私には黙秘権があります。
私は24時間以内に弁護士を呼ぶ権利があり、法廷で不利になる事は話す必要はありません。                   
なぁ、兄ちゃん。悪いことをしたら素直に言う言葉があるなぁ?なんだっけ?

チンピラ刑事は私を諭す様に言った。

なんだっけ?えっ?   
ご?
・・・・
め?
・・・・                     
ん?刑事の鬼殺しの様な目が鋭くなった。
            
なさい。ううっ、ごめんなさい。
            
よしっ、そうだな?女性やお年寄りは大事にしないといけないよな?     
みなさんに謝っちゃえ。             

は、はい。       

私は泣きながらロビーにいる皆さんの処へ行った。             
一人一人の手を取り、目をちらちら見ながら懸命に謝罪した。

うぅっ。
おじいちゃんごめんなさい。
今日は良いお天気ですね?

おばあちゃん荷物持とうか?おんぶしようか?   
お姉さん、抱っこしようか?うん?いいんだよ。              

私は一人一人に精一杯謝って回った。       
みんな笑顔で私を迎えてくれた。         
こんな私でも、罪を犯してしまった私でもみんなは許してくれた。
受け入れてくれた。
私はなによりそれが嬉しかった。         
皆さんに謝り、刑事さんと婦警さんにお礼を言うと、私は帽子を取り深々と頭を下げた。     
二人とも静かにうなずいていた。         

では、私はこれで。

おいっ、兄ちゃん待ちなっ!           

刑事さんに呼び止められた。                       

はっ、はいっ!     
(うまくまとめたのにまだなんかあんの?)           

 ちょっとこっち来な?              
私は刑事さんに呼ばれ、外へ行った。


兄ちゃん自転車盗られたんだろっ?        

はい。

前乗ってたやつで良かったら、持ってけよ。    

え゛っ?                    

先程の厳しい表情から一変、優しい眼差しで言われた。                       
えっ?いいどですか?ほんどうでぃ?

ううっ、お兄ちゃん。              

こういう時なんて言うんだっけ?         

あ?          

り?          

が?          

アリゲーター。     

そう、そうっ、アリゲーター。あれはワニかトカゲか何なんでしょうか?
ってなめてんのかこらっ!
はっはっはっ!     
お兄ちゃん中々おもしろいなっ。                     

えへっ、えへへへ。       

二人で顔を見合わせて大いに笑った。       
お陽様も笑ってた。               
ある晴れた日の午後の事でした。


私はとても大きくなれた気がした。        
刑事さんのでっかい背中を見て、自分も少し大きくなれた気がした。              人は悪いことをしても、間違いをしてもやり直せる。1からだって、ゼロからだって。      
只、その前に自分がした事を認め、考え直すことが必要だ。                     

私は古くなったアルバムをめくりながら当時を振り返っていた。       
アルバムには刑事さんにもらった自転車と笑顔の私の姿があった。                  
あれから十年。
今、私はあの時の刑事さんと同じ道を歩んでいます。
派出所に勤務し、毎日、市民の方々の為に働いています。          

こんにちわ                   

今日もあの日の私のような少年がやってきました。             

はい、こんにちわ。               

私は笑顔で言った。              

おわり














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