確実に気付かれたな
――扉の先
意外とこじんまりとした一室の中央には、これまた重厚な机が置いてあった。いかにも偉いさんの机ってカンジだな。
その背後の棚には、様々な書状やらトロフィーっぽい像、メダルや勲章などを収めた額が並べてあった。
やっぱギルド長室?
と、その席に座る人物がこちらを見た。
年は二十代後半ぐらいか? ギルド長にしては若い。しかも、女性だ。
顔は……美人、なんだろーケド、濃い。つか、ちっと怖い。化粧のせいかもしれんケド。アメコミのキャラっぽいかな? 胸はデカいんだケド、女子プロレスラーっぽいガッチリした体格なんで、相対的に目立たないというね……。
「よく来たね、アーミル」
と、彼女が口を開いた。
旧知、それも親しい仲のような口ぶりだ。
「姉さん、久しぶり」
「え? 姉さん!?」
思わずびっくり。よく見りゃ似てなくもない? って、アーミルの姉っつーコトは、あのおっさんの娘かよ!
「ええ。僕の姉、アーリヤーです」
「そ、そうか……」
とはいえ対照的な容姿の姉弟だな。
「そちらは?」
アーリヤーの声。
「失礼しました。“アルタワール傭兵斡旋所”所属の傭兵、ソースケです」
「同じくエスリーンです」
慌てて自己紹介する。そして、胸のタグを示した。
「ああ、親父の。よく来てくれた。それにしても……あっちのギルドの所属にしちゃ、ずいぶん真面目そうな子だね。それに、女の子までいるなんて。あっちで何かあったのかい?」
「いや……特に変わったことはないよ。彼が新たにやって来たぐらいかな? 彼女はソースケの連れだよ」
「へぇ……」
アーリヤーは俺とエスリーンを値踏みするように見た。
「ふ〜む。何と言うか、ずいぶん変わった二人組だな。ソースケってのは、シロウトなのか手練れなのか今ひとつ判別がつかないな。こんなのは初めてだ。そっちの子は……かなりの魔力を感じるな。それに……“もう一人”いるみたいだね」
彼女はニヤリと笑った。
うーむ……この人には色々見透かされそうだな。敵に回しちゃいけないタイプだ。
「ソースケさんは、今うちのギルドじゃ一番活躍してる人ですよ。若いけど、かなり腕利きで。エスリーンさんも、かなり上位の魔導師ですし」
「なるほどね……。ふむ、エスリーンか。何処かで聞いた名だな」
「……!」
かすかに動揺の色を見せるエスリーン。
「ふふ……」
アーリヤーは意味ありげに笑った。
「いや、勘違いだったかもしれん」
と、彼女。
確実に気付かれたな、これは。
「ところで、リシュートには何の用で?」
「アルタワールにある、“大熊亭”って、ご存知ですよね? そこの依頼で……」
「そうか、食材獲りか」
あー、知ってるか。やっぱ。
「荷車を引くのに輓獣が必要なので、アーミルさんに手伝ってもらってるんです」
「そうか……“あの事”があるからやる気出したわけね」
「ね、姉さん……」
アーミルも動揺しとる。お見通しか。
「ふふ……じゃあ、愚弟のことも頼むよ、ソースケ君」
「は、はい!」
思わず背筋伸ばしちまったい。
「……ところで、ダレル兄は?」
と、アーミル。ロコツに話題を変えよーとしてんな。
「ああ、今はエルズミスだよ。会合があるとかでね」
「ん? 兄さんもいるん?」
もう一人兄弟がいるんかな? でも、なんで二人ともこの街のギルドに?
「私の旦那だよ。この街のギルド長をしているのさ。で、私はその代理だ」
「なるほど……」
あー、こっちに嫁に来てる訳ね。
「ところで……親父はまだ頑張るつもりかい? その子が来たから余計やる気を出してるのかもしれないけど……」
「うん。自分の身体が動く限りは続けたいと言ってるよ。まぁ……それが生きがいだからね」
「な、ナンか……親父さんが引退したら、あのギルドは閉鎖するみたいな言い方だけど……」
と、聞いてみる。
う〜む、いつ閉鎖してもおかしくはない状態だけどサ。
「ああ。もとから自分で最後のつもりらしい。ゴロツキどもの身の振り方とか探すまでの猶予のつもりだったらしいが、何だかんだで今まで続いてるのだけれどね」
「そうなんですか……」
ふ〜む。できれば続けて欲しいが、おっさんが辞めると言ったら、止める訳にはいかんよな。
――しばし後
ギルド長室を辞した俺達は、こっちのギルドへの登録手続きを行う。
これで、この町でも気兼ねなく傭兵として仕事ができるってワケだ。無用なモメごとはごめんだしな。
手続きを終え、ふと壁を見る。
なにやら張り紙がしてあるな。何かの宣伝っぽい?
「ああ、どうやらカデスで何か催し物があるみたいですね。何でも素手のみでの闘技大会とか」
「へぇ……」
城塞都市カデス。アルタワールの北にある都市だ。旧ガンディール王国の西の要。
確かゲームだと、領主の息子がチラッと登場してたっけ? 確か名はシェカール。勇者の父、イルムザールの弟子だっけ。あ、もしかしてそいつが現領主かもしれんか。
「そういえばあの街にコロシアムか何かあったよな。そこで戦うんかな?」
「おそらくは。歴代領主は武を重んじているので、そういう催しを好んで行っていますからね」
「なるほどな〜」
ちっと見て見たい。機会があれば、行って見るか。
そうして俺達は傭兵ギルドを後にした。
そして“祈りの小径亭”へと戻る頃には、とっぷりと日が暮れていた。