さて、冒険の始まりだ
――しばしののち
「くっ……そ……」
情報の洪水が収まり、俺はよーやく立ち上がった。脳がパンクするかと思ったぜ。
『大丈夫かね?』
「な……なんとかな。理解、まではいかねぇが、それなりに魔力の使い方はわかった」
とりあえず、表面上だけなぞった程度だがな……。
『使ってみるかい?』
「ああ。まずはこの傷を癒さねェとな」
『なら、その辺りに落ちている魔導石を使うといい。異界人である君は、少々呪文が効きにくい体質だしな』
呪文が効きにくい? どーいうこった? それに、魔導石とやらなんて持ってねェぞ。
いや、そもそも……
「魔導石って……ナンだ?」
ゲーム中で名前が出て来たが、そもそもそれが何かは説明されてなかったな。
『さっき見ただろう? その石像の核となってた石だよ』
「ああ、アレか」
散らばる残骸に目を向け……
「あった。コレか」
緑色に光る石を拾い上げた。
それは、かすかに熱を帯びているようにも感じる。
『そうだ。では、試してみてくれ』
「わかった」
一つ深呼吸。脳内がクリアになる。
そして口中で、先刻脳内にダウンロードされた、魔力を起動させるためのコード――いわゆる呪文ってヤツだ――を読み上げる。
体内に湧き上がった魔力が、手のひらに収束していくのがわかった。それは魔導石を介し、増幅されていく。
俺はその“力”を制御すべく、“印”を結んだ。
仏像の手の形とかで見るアレだ。脳の魔力回路とリンクして、力を増幅するらしい。
足裏には身体の様々な場所のツボが集まってるっていうが、どうやら掌も同じっぽいな。そして、印を結ぶことでそのツボみてぇなモンを活性化させてるようだ。
そして、
「“治癒”!」
“力ある言葉”を解き放った。
これは、この世界の物質に打ち込まれた“タグ”に干渉する言葉らしい。
あー、そうか。少しわかった。地球人である俺の身体を構成する物質には、その“タグ”が無ェんだ。だから、治癒呪文の効きが悪くなってしまうってワケだ。
と、左手に持った魔導石が震え、“力”を放出した。同時に俺の右手から淡い光が溢れる。
「おお……」
頭や拳の痛みが引いていく。効きが悪いとはいうものの、たいしたモンだな。どうやらさっきの魔導石からの輝きが、呪文の効力を増幅してるみたいだな。
「こんなモンかね?」
『ああ。初めてにしては上出来だ。あとは、レベルアップだな』
「レベルアップぅ!?」
ゲームかよ! と、思わず突っ込みそうになる。
『ああ。擬似的なものだがな』
「擬似的、ツーと?」
『うむ。君に授けた“力”はあまりに強大なものだ。ゆえに、使いこなせねば、破滅が待っている』
「破滅って……マジかよ」
『ああ。ゆえに、君がこの世界で得た経験に基づき、その“力”を順次解放するようにしておいた』
「順次、ね……」
わからんでもない。初心者マーク付きがF1マシン乗っても乗りこなせるワケねェしな。が、少しメンドクセェ。
『では、レベルアップなどの説明を行おう。まず、今の君のステイタスを見せよう』
「ステイタスぅ? それに、どうやって見せてくれるんだ?」
ま〜たまたゲームみたいなネタかよ。
『脳の一部――さっき覚醒した魔力回路――に意識を集中してくれ』
「おう。……なんだこりゃ」
視界の片隅にチカチカと光るモノが現れた。
『何か見えたかね? 見えたら、今度はそれに意識を集中してみてほしい』
「わかった」
意識を集中する、というよりもクリックするような……おっと。
視界に重なる形で半透明の四角い“何か”が現れた。
ゲームなんかのメニュー画面っぽいな。
「何か出たぜ」
『では、今君が今できることを表示しよう』
「表示? ……おおっ!」
四角いモノ――脳内メニューウィンドゥとでもいうべきか?――にいくつか文字が表示される。
つっても読めねぇが……アルファベットでもアラビア文字でもねぇ、見た事のない字だ。もしかして、現地の文字か? どーせいっつーんだよ。
そう思いながらも、何気なくその一つに意識を向ける。
「おっ!?」
読めるようになった。“ステイタス”とある。
それ以外には、“鑑定”や“データベース”があるな。
『その中の、“ステイタス”から君の今の状態を確認できる』
「わかった。やってみる」
脳内でクリック。と、画面が切り替わった。
新たなウィンドゥに幾つかのデータが表示されている。
――――
名前 : 仁木壮介 性別 : 男 種族 : 人間 経験レベル : 0 身長 : 41.5サン 体重 : 2シュレン250ロイオ
体力度 : 8 耐久度 : 11 器用度 : 16 敏捷度 : 8 幸運度 : 12
精神力 : 7 精神耐久度 : 8 知性度 : 11 知恵 : 8 魅力度 : 8
HP : 19 / 19 MP : 5 / 15 状態 : 健康
攻撃修正 : +4 回避修正 : +4 速度 : 並 魔法修正 : +3 魔防修正 : -1
スキル : 剣術1
所持金 : 0 経験点 : 0
武器 : なし 防具 : なし
装備 : 服 リュック 所持品 :スマートフォン 魔導石1
言語 : なし
――――
これが俺の能力値か。一ケタばかりだが、そんなにヒドいんか? 魔防修正とやらには-1とあるし。いや、この世界の住人の平均が分からないと何とも言えねェか。それよか、妙な単語が気にかかる。
「サンとかシュレンとかロイオとかって……何?」
『ああ、すまない。単位換算してなかったか』
単位?
『……修正した』
ヤツの声。もう一度、データを確認してみる。
身長166cm、体重54kgとなった。
「確認した。サンやら何やらは、この世界の単位なのか」
『そうだ。データベースにもあるから、時間のあるときにでも確認しておいてくれ』
「データベース? さっきあった項目だな?」
『ああ。この世界における情報の集積体にアクセスできる項目だ。君達の言葉で言うと……アカシックレコードってところかな?」
なーるほど。データを集積したサーバーみたいなモンかねぇ?
「わかった。そいつはそーと……この体力度やらの数字の根拠は?」
『ああ。この世界においての、ヒトの平均能力を10とした場合の、君の能力値だ。ちなみに小数点以下は四捨五入してある」
「お、おう……」
耐久や器用、知性と幸運除いては、皆平均以下か……。魅力度8とか、かなりヘコむモンがあるぜ。
『それは、向こうの世界での君の能力値だ。転移後の君は、私が与えた“力”により、幾らか能力が上昇している』
俺の落胆を知ってか知らずか、ヤツの声。
も一度確認してみるか。
「なるほどな。おっ、数字が増えた」
更新された数字がコレだ。
――――
名前 : 仁木壮介 性別 : 男 種族 : 人間 経験レベル : 0 身長 : 166cm 体重 : 54kg
体力度 : 13 耐久度 : 16 器用度 : 21 敏捷度 : 13 幸運度 : 16
精神力 : 11 精神耐久度 : 14 知性度 : 15 知恵 : 12 魅力度 : 12
HP : 29 / 29 MP : 15 / 25 状態 : 健康
攻撃修正 : +14 回避修正 : +14 速度 : 速 魔法修正 : +12 魔防修正 : +6
スキル : 剣術2 格闘1 黒魔術1 神聖魔法1
所持金 : 0 経験点 : 0
武器 : 聖剣 防具 : なし
装備 : 服 リュック 所持品 : スマートフォン 魔導石1
言語 : トゥラーン語2 ゼルゲト語1 ソアン語1 アトラス語1
――――
ふ〜む。多少はマシになったか。ついでにステイタスがアップした分だけMPも回復したな。
『ここに今回の戦闘経験を換算した経験点を与えよう』
経験点の数字が増えた。
「107か……レベルアップしたんかな?」
『おめでとう。Lv1だ』
「とりあえず、1か。どーなるんだ?」
『好きな能力値にレベル分の数字を加えることができる』
「それなら、HPを上げておきたいんだが……」
ま、死ににくいに越したコトはねぇ。
『HPなら、体力度と耐久度の合計にLVを足したモノになる。そのどちらかを上げておけばいいだろう』
ふむ。
“体力度”という項目をクリック。
と、小さなウィンドゥが開いて説明が出る。
な〜るほど。体力度ってのは腕力とかの肉体的な力か。耐久度の方も見てみたが、そっちは身体的な健康度らしい。
耐久度は割と高めだから、体力度を上げた方がいいか。攻撃力も上がるだろーし。
「じゃあ、体力度を1上げるか」
と、体の奥から“力”が湧いてくるのを感じる。
これが、能力解放か。フルパワーになると、どうなるんかねぇ? ちっと楽しみだ。
そして能力値確認。体力度の1に加えてLV分の1もあるので、HPは2上昇して31になった。
更に攻撃修正とやらも2上がっている。ヤツの説明によれば、物理攻撃時に加算されるポイントらしい。
『後は、スキルだな。レベルアップごとにスキルを取得することができる』
「す、スキルぅ!?」
ナンかもう、完全にゲームの世界じゃねぇか!
あ、例のゲームに似た世界だったな……。だからといって、ねぇ?
『まっ、それぞれの技術を得る事ができるアプリケーションとでも思ってくれ給え』
「そ、そーいうモンか」
造物主サマがいうんなら、間違いあるめェ。多分……。
とりあえず、“危険感知”というスキルをを取っておくか。敵の襲撃や罠の存在を事前に感知できるスキルだそうな。
この先、何があるかワカランしな……。
とりあえず、レベル上げは終了だ。あとは……
「次のレベルまでどれくらい?」
『次のレベルに到達するには、レベル数の100倍に当たる経験点が必要になる』
へぇ。つまりLv2には合計300の経験点が必要ってワケか。Lv3には600と。
『経験点は、倒した敵の強さに応じて与えられる。あとは、魔法の行使や様々な行動の成否によっても得る事が出来る』
「と、言うと?」
『罠解除などを試みた際には、大成功か大失敗の時に経験点が得られる。また、魔法を行使した場合も同様だ』
「ピンゾロか6ゾロでってトコかい?」
『……ま、そんなものかな? 場合によっては、それでスキルが上がることもある。ま、とりあえず、今回の説明としてはこんなところか』
「わかった。で、これから俺はどうすりゃいい?」
『そうだな。とりあえず、南へ向かった方が良いだろう。まずはアルタワールへ行きたまえ。新たな出会いがあるはずだ』
「アルタワール、か」
確かゲームだと、大陸の真ん中やや南方にある、そこそこ大きな街だったっか?
……おっと、そーいえば重要なコトを聞き忘れるところだった。
「ところで、今はドコだい?」
『そこはセルキア神殿だ』
へぇ。確か、アルタワールのちょい北、城塞都市カデスの南にある神殿だっけ。ゲーム中ではちょっとしたイベントがある場所だった気がする。
「ああ、了解した」
『それと、この神殿のすぐそばに小川がある。そこで水を飲んでいくといい。心身の傷を癒す効果がある』
「わかった」
RPGでよく見る奇跡の泉ってヤツかな?
『では、健闘を祈る』
通話はそこで切れた。
も少し詳しい情報も欲しかったが、ま、しゃーない。
行くか。
俺は荷物をまとめると、歩き始めた。
さて、冒険の始まりだ。