チッ……厄介な連中だぜ
しばらく進んだところで森が開けてきた。
灌木も減り、幾らかは道らしくなったか。
「これで少しはラクに歩けるかな?」
「そうね……。ちょっと待って!」
エスリーンの声。
見ると彼女は半眼になり、精神を集中しているようだ。何かを感じたのか?
「ん? どーした?」
俺も精神を集中し……
見つけた。
「何かいるな。あれは……」
藪の中に潜み、蠢くモノども。感じるのは……敵意。
俺はチラとエスリーンに目配せする。
「行くぜ……“光弾”!」
「“衝波”!」
俺とエスリーンが呪文を放つ。
光の矢が藪に潜む“何者か”を襲い、さらに衝撃波が藪ごとなぎ倒す。
「ゴハァッ!」
と、藪から数体の“何か”が飛び出してきた。
青ざめた様な色の、ウロコ状の肌。大きく突き出た様な口元からは、イノシシの如き牙が覗く。体躯はヒトとほぼ同じだが、腕はやや長く、また身体全体が筋肉質で屈強だ。
コイツらは……オークか!
闇妖精の一種。
地下世界や水際に棲む連中で、粗暴で好戦的な事から恐れられている。知性はそれなりに高いが芸術などには理解を示さないそーだ。
弱点はトロールと同じく直射日光。太陽の下では、ややその動きが鈍る。
しかし……ココは薄暗い森の中の獣道。ヤツらはその力を十分に発揮できるってワケだ。
そいつらが、総勢四体。
ナタのよーな蛮刀を持ったのが二体。オノと鉾が各一。どれも実用一点張りの、装飾も何もねェ武器だ。まとう皮鎧も同様だな。
「チッ……厄介な連中だぜ」
トロールよか与し易い相手とはいえ、その強さはゴブリンとは比べ物にならねェ。まぁ基本脳筋なんで、妙な搦め手を使ってくることは少ないがな。
「行くぜ!」
「ゴフッ!」
サーベルを、目の前の蛮刀持ちオークA(仮)に上段から振り下ろす。
が、ヤツはそれを蛮刀で受け流した。
そしてすぐさま反撃が飛んでくる。
「おっと」
鋭い一撃を、頭をすくめてかわす。
そして、蛮刀持ち後方からの鉾の一撃を、首をひねってかわした。
チラと横に目をやると。エスリーンがあたかも猫の様な動きで渡り合っているのが見えた。
よし。大丈夫そうだな。
ケド、二対一の状況だ。どれだけ持つか。
「なら……“風刃”!」
すかさず呪文を放つ。
カマイタチで攻撃する呪文だ。
威力自体は“斬輪”より落ちるが、攻撃範囲は広い。それにわずかではあるが、相手の足止めにもなる。
と、目の前の蛮刀持ちAが、かすかによろめいた。
チャンス!
隙を逃さず、袈裟懸けの一撃。
「ゴハッ!」
ヤツの苦鳴。血飛沫があがる。
だが、浅い!
粗末な皮鎧は斬り裂けたが、その下のウロコ状皮膚が曲者だ。
それなら……
「“衝弾”!」
ヤツの胸に、衝撃波を叩き込んでやった。
「ガアッ!」
「ゴアァ!?」
ヤツは吹き飛び、その後ろにいた鉾持ちも巻き込んで倒れた。
その間に、エスリーンの救援に向かう。
エスリーンは回避しつつナイフと爪、魔法で攻撃しているが、あまりダメージを与えられていない。
横から入り、蛮刀持ちB(仮)に一太刀。
右肩を切り裂く。
そこに斧持ちが斬りかかってくるが、それをエスリーンがけん制する。
おっしゃ。
すかさず脇腹、そして太ももを切り裂く。
そしてトドメに大上段からの一撃。
強烈な手答えとともに、ヤツの頭蓋に剣がめり込んだ。
「オシッ! まず一つ!」
血しぶきをあげて倒れる蛮刀持ちB。
その有様を目の当たりにした斧持ちは、激昂して俺に斬りかかってくる。
クソッ! ゴブリンなら多少は怯むんだがな。こーいう戦闘狂ってのはタチが悪ィ。
が、ボヤいてるヒマまんてねェ。
ヤツは鋭い一撃を打ち込んでくる。
それを受け流し、カウンターを狙う。
その間に、起き上がった蛮刀持ちAと鉾持ちを、エスリーンが“光弾”でけん制している。
ヨシ。
頭を狙った一撃をかわした時に、わざと大きくよろめいて隙を作る。
チャンスと感じたのだろう。
斧持ちは唇を歪め、斧を大きく振りかぶった。
「ソースケ!?」
エスリーンの悲鳴。
一応心配してくれてんのな。ケド、ダイジョーブだゼ!
すかさず横っ飛びで斧に空を切らせると、ヤツの脚を斬り裂く。
次いで剣を跳ね上げ、脇腹に一撃。
斧持ちは、大きくよろめく。
よし、トドメだ!
踏み込み、喉元に突き。
切っ先が顎下を抉った。噴き上がる血潮。
「……二つ!」
血を避け、飛びのく。
と、エスリーンの魔法攻撃をしのいだ残り二体が斬りかかってきた。
悲鳴を上げたせいで、呪文が中断してたな。そーいえば。
だが、十分だ。
鉾を躱すと、怪我で動きの鈍った蛮刀持ちAに一撃。
狙ったのは、先刻の傷の上。
今度の一撃は、ヤツの身体を深々と斬り裂いた。
たまらず、ヤツは倒れる。
その間にエスリーンの“光弾”が鉾持ちを次々と襲う。
そしてついに光の矢が鉾持ちの胸を貫いた。
ヤツは鉾を振りかざし……しかしかなわずどうと倒れた。
ヨシ。戦闘終了だな。
俺は大きく息を吐いた。
今回の経験点は、460点。合わせて1763点だ。Lv5に必要な経験点は1500だから、レベルアップだな。
フィルズ・ロスタミと対峙する可能性もあるし、ここでのレベルアップはありがてェ。
さてと、レベルアップ処理だ。
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名前 : 仁木壮介 性別 : 男 種族 : 人間 経験レベル : 5 身長 : 166cm 体重 : 54kg
体力度 : 17 耐久度 : 17 器用度 : 21 敏捷度 : 16 幸運度 : 16
精神力 : 14 精神耐久度 : 14 知性度 : 15 知恵 : 14 魅力度 : 14
HP : 39 / 39 MP : 25 / 33
攻撃修正 : +22 回避修正 : +22 速度 : 速 魔法修正 : +19 魔防修正 : +13
スキル : 剣術5 格闘1 黒魔術1 神聖魔法1 危険感知 1
所持金 : 185240 経験点 : 1763
武器 : 聖剣 防具 : レザーアーマー
装備 : 服 リュック 所持品 : スマートフォン 魔導石1
言語 : トゥラーン語2 ゼルゲト語1 ソアン語1 アトラス語1
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とりあえず、こんなトコロか。
体力度と耐久度、敏捷度をあげて、ついでにスキルは剣術をとっておく。
とりあえず、ヤツとの戦いを想定して強くなっておかねェとな。
黒魔術に関しては、エスリーンがいるから後回しでもいーだろう。それに、魔道石をブースターとして使ってるんで、擬似的に魔法関連のレベルは上がってるしな。
どうやら襲撃者はあの四体だけだったらしい。
倒したオークから金品を集める。
貨幣数枚。これは、旅人から奪ったモノだろーか?
あとは、蛮刀を一本。それに、鉾持ちが持っていたナイフも貰っておく。
蛮刀はナタとしても使えるだろーし、ナイフは投げナイフとしても使えそーな形状だ。
鉾や斧も貰っておこうかとも思ったが、俺もエスリーンも使えんのでやめといた。
そして俺たちは、また塔を目指して歩き出した。