あー、なるほど。それで……
――しばしのち
「ご……ごめんなさい!」
謝る彼女。
俺は彼女にマントを渡すと、治癒魔法で頬の傷を消した。
「いや……こちらこそ、ごめん。裸っていう可能性に気づかなかったしな」
俺も謝っとく。
まっ、裸見ちまったのは事実だしね。なかなかいーモン見せてもらった。
ちと痩せすぎだが、もー少し肉がつけばいー感じかもしれん。そういえば、耳が毛に覆われている上に尖ってたり、爪も鋭かった。そして、尻から生えている尻尾。猫の獣人っぽいな。
……アレ? この世界にそういうタイプの獣人いたっけ? まぁいいか。
「とっ、とりあえず、事情を聞かせてくれないか?」
そう言いつつ、彼女の情報を続けて呼び出す。
“性別 : 女”。……それは知ってる。今“現物”も確認した。“種族 : 人間 (キメラ)”。ん? そーいえばさっきは“人間”までしか確認してなかったな。
それはそーと、この姿にもかかわらず獣人じゃないんか? で、両親はアル……なんじゃこら? 読めねェ。バグってんな。母親の方も表示がバグってる。傭兵組合のことといい、バグ多すぎじゃね? 大丈夫なんか?
ん? 姫巫女の資格を持つだと!? あー、なるほど。それで……
「私は、魔導師の父様と山の中の塔で暮らしていたの。でもある日、あの男がやってきた……。聖堂騎士の元副隊長フィルズ・ロスタミ。ヤツは私の父を殺し、私を連れ去ろうとした。父は、死の間際に私を転移魔法で逃したの。その時、父様の使い魔だった猫と身体が融合してしまって……」
なるほど。だから、“キメラ”なのか。
「そいつはなんで君達を襲ったんだ?」
「私は……姫巫女の資格を持つらしいの。だから、狙われたみたいね」
やっぱしか。
姫巫女とは、この大陸の中心にあるエルズミス大神殿で、女神アゼリアの代理人を務める巫女だ。女神アゼリアは、この世界における最高位、あるいは第二位に位置する高位の神だったっけか。
「なるほどな〜。でも姫巫女は、まだ現役なんじゃないか?」
彼女を探してる最中、小耳に挟んだ噂話だが……
今の姫巫女は十年ほど、アルセス聖堂騎士団にいたとか聞いたな。しかも、ここの駐屯地に。で、ひと月ほど前、聖剣を与えられた勇者とともに大神殿に戻ったとか。
「ええ。でも、騎士団やあの男は、今の姫巫女を認めていないそうなの。だから、それぞれ姫巫女候補を探しているとか」
「げっ……その姿に戻しちまったのはマズかったか」
「いえ……あの男に狙われている以上、あの姿でいようが変わりはないわ。それに、あの男に追われた時に足を痛めてしまい、満足に食事をとることもできずに飢え死にを待つばかりだったしね」
なるほどな。おっと、足を痛めてるんだっけか。
その右脚には、ひどい傷跡があった。
女の子の肌に傷……許せんな。
「じゃあ……“治癒”!」
光が溢れ……
「痛みが引いたわ。ありがとう」
彼女の傷跡は白い新たな皮膚でふさがった。
「私も治癒魔法は使えるんだけど……ほとんど魔力が尽きかけてるのよね」
白い傷跡を見、彼女は力なく笑った。
ま、そりゃそーだな。逃亡生活してたら気が休まるヒマなんて無ェしな。たとえ一晩寝たとしても、精神的に落ち着かない限り、魔力はほとんど回復しない。
そうこうするうちに、ジリ貧になってたワケか。
「詳しい事情は後で聞くよ。今はとりあえず宿に戻ろう。着替えは昨日買った俺のがあるから、着ればいい。女物の下着がないのとサイズに関しては、ガマンしてくれ」
あまりここに長居すると、屋敷掃除の依頼者がまたやって来てハチ合わせする可能性があるからな。今回は不法侵入だしな〜。とりあえず、安全な場所へ移動した方がいーだろう。
「ありがとう。借りるわね」
彼女は俺が差し出した服とサンダルを受け取った。
そして、少し恥ずかしそうに俺を見る。
「あの……ちょっと外に出ててくれる?」
「わかった」
……チッ。
俺は外に出ると、窓に打ち込んだ楔を回収した。
一応、現状回復しとかんとね。あとでナンか言われんのもヤだし。
それをやりつつ、戸の微妙なスキ間から中を覗くのを忘れない。むろん、さりげなくだ。
ちなみに普通に見れば中は真っ暗なハズだが、今はまだ“暗視”が効いている。
「着終わったわ」
一通り抜き終えたあたりで中から声がする。
「じゃあ、入るぜ」
一応声をかけてから、扉を開けた。
彼女は少しほおを赤らめ、俺を見る。
「覗いてないわよね?」
「当たり前だろ?」
覗くに決まってるじゃないか。
「……ならいいけど」
少し疑わしげに俺を見る。
が、俺はウソなどついてないので、平気な顔だ。
しかし納得できないのか、まだ眉をしかめ、窓のあたりを見ていた。
と、そこで彼女の腹が鳴る。
「あ〜、そうだ。コレ食べるか?」
「……も、もらうわ。ありがとう」
俺はさっき渡しそびれた干し肉を彼女に渡した。
――イチョウ通り
俺と彼女は館を出、肩を並べて宿へと向かっていた。
彼女には、朝方露店で買った布をターバンのように頭に巻かせ、耳を隠させている。こういうカッコしてる人は多いから、取り立てて目立たない。
あと、途中の服屋で女物の下着なども買っておいた。
「もしかして、あなたも勇者の資格を持つ者なの?」
道を歩きつつ、彼女は俺を見、尋ねた。
「……そうなんかな?」
「あなたとその剣から感じる“力”……そんなに大きな“力”を持つのは姫巫女と勇者ぐらいよ。あるいは……魔族か」
「ふ〜む……そうなのかな? 俺の場合、ヘンな占い師に声をかけられてセルキア神殿に連れて行かれ、この剣をもらったんだよな」
「え? 占い師? セルキア神殿?」
「勇者って、エルズミスの大神殿で姫巫女から聖剣を受け取るんじゃなかったっけか?」
「通常ならそうね。でも、今の勇者はセルキア神殿で姫巫女と出会い、聖剣を受け取ったと聞くわ」
「へ〜、そうなんか。どんな人なんだろう?」
そーいえば、どこでだったかまでは聞いてなかったか。
「詳しくはわからないわ。ほとんど会ったことのある人もいないみたいだし。そういえばカデスで、この街にある騎士団駐屯地の、当時の隊長を一騎打ちで倒したとか聞いたことあるわ」
「へ? そーなんだ」
騎士団でも、こういった街にいる部隊の隊長ともなれば、相当強いはずだよな。ぶっちゃけ、今の俺じゃヤバそーだな。
「それに、上位悪魔まで倒したとか」
「へぇ……」
まぁ、“勇者”ならそれくらいは……
ン? 待てよ?
「上位悪魔なんぞが地上にいるん?」
「ひと月ほど前にカデスに現れたそうよ。その後、ネルヴェ遺跡でこれも一騎打ちの末倒したとか」
「……流石に勇者と言われるだけあって強いな」
上位悪魔か……。ゲームじゃLv40超えのモンスターだったな。そんなモン一人で倒せるバケモンなのかよ……。
いや、俺もMODで強化されてるし、もしかしてその域までたどり着けるのかもしれんが、今はまだ無理だな。
まぁ暫くは、敵対するよーなマネは避けねぇとな。
にしても、上位悪魔か……。まだ他にもいたらヤバいな。それこそ悪魔王クラスがいた日にゃ目も当てられん。
「そういえば、南方に魔王軍の残党がいるんだろ? その連中と関係あるのかな?」
「南方にいるのは中位悪魔ぐらいね。もしかしたら、もっと強いのが潜んでいるのかもしれないけど……」
「へぇ……」
中位悪魔か……
それぐらいなら、もうちょいレベル上げれば、なんとかなるかな?
でも強敵には変わりねぇケドさ。
とりあえず、ボチボチ仕事を受けながらレベルアップしてくかねーか。
などと考えているうちに、俺達は宿にたどり着いた。