第09話:和服少女
白皇学院には、旧校舎に入ってはいけないと言う校則がある。
しかし人間、禁止されているとつい行動を起こしたくなるものである。
そんな衝動に駆られた者──綾崎 心が一人、旧校舎の前に立っていた。
目の前に聳え立つ校舎からは、紫色の禍々しいオーラが放たれている。
心はそれに引き寄せられる様に歩き出し、扉に手を掛けた。
「一寸待て!」
とそこに現れたのは生徒会長の薫 雪ノ介。
「そこに入るな!」
雪ノ介がそう叫ぶと、心は振り向き様に訊ねた。
「どうしてだ?」
「校則で禁止されてるからだよ」
雪ノ介はそう言って生徒手帳を取り出し、校則が書かれたページを心に見せた。
そこには確かに<旧校舎には立ち入らないようにしましょう>と書かれている。
「それがどうした?」
心はそう言って扉を開けて中に入って閉めた。
「おい、入るなよ!」
と外から雪ノ介の叫び声。
「何か出ても知らねえからな!」
雪ノ介はそう言って去っていった。
「何か出るって、何が出る──っ!?」
その時、心の目の前に人形の黒い影が現れた。
「な、何だお前!?」
心の叫ぶようなその問いに黒い影は振り向き問い返した。
「貴様、私が視えるのか?」
「視えなきゃ驚かねえよ! つーかお前、ひょっとして幽霊か?」
「ふっ、よく解ったな。褒美に貴様の体を頂いてやろう」
そう言って黒い影が心の体に入ろうとするが、しかし、心は咄嗟に避けて正宗を召喚し、黒い影を切り裂いた。
すると黒い影は「うわあああああ!」と悲鳴を上げて消滅した。
「ったく、何なんだこの校舎は?」
とその時、扉が開いて和服姿の少女が現れた。
身長は奈瑠と同じくらいである。
「あの、今すぐ此処から出て行って下さい」
と和服少女。
心は振り向き様に「どうして?」と訊ねる。
「それは、悪霊や妖怪などの危険なモノが居るからです」
「それってひょっとしてこんな奴?」
心はそう言って先程倒した黒い影のイメージを頭上に出現させた。
「そうです。視たんですね?」
「ああ、視た。てかお前、誰?」
そう訊ねると和服少女が顔を顰める。
「人に名前を訊く前に先ずは自分から名乗って下さいませんか、綾崎 心さん?」
「ああ、そうだったな……って、何で名乗ってもいねえのに私の姓名が判るんだよ!?」
「その木刀が教えてくれました」
和服少女はそう言って正宗を指差した。
「お前、此奴と話せるのか?」
「ええ」
「そうか。で、お前の名は?」
「あ、申し遅れました。私は、鷺ノ宮 夏澄です」
和服少女、鷺ノ宮 夏澄はそう言って「宜しくお願いします」と頭を下げた。
それに釣られて心も「こちらこそ宜しくお願いします」と頭を下げた。
「所で、綾崎さんはこんな所で何をなさっているんですか?」
と夏澄が頭を上げて訊ねる。
「校則に入るなとあったから入ってみたくなって、それで入った」
「不良生徒?」
「かもな。てかお前こそ何しに来たんだ?」
「私はお仕事で来ました。あなたは先程、黒い影を視た、と仰いました。では、この校舎から禍々しいオーラが放たれてるのも視たと思います」
「ああ、確かにそんなの出てたな。けどそれがどうした?」
「この校舎、危険なんです。普通の人が入ったら、命は無いでしょう」
「ふうん。それはそうと、鷺ノ宮って言ったよな?」
「言いましたけど?」
「て事は、伊澄さんの知り合い?」
「妹です。お姉ちゃんをご存知なんですか?」
と首を傾げる夏澄。
「ああ、知ってる。偶に家に遊びに来る。それはそうと、伊澄さんに妹が居たのか。お前、お姉さんにそっくりで可愛いな。女の私でさえ心を奪われそうだ」
心はそう言って頬を赤らめた。
「って、何を言ってるんだ私は!?」
と動揺して挙動不審に陥る心。
それを見ていた夏澄がクスクスと笑う。
「綾崎さんって面白い方ですね」
「笑うな!」
「すみません。それより、先刻の黒い影はどうしたんですか?」
「ああ、そいつなら正宗で切り裂いた」
「お強いんですか?」
「まあそれなりに」
「そうですか。では貴方にお願いします。私を手伝って下さい!」
夏澄はそう言って土下座をした。
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