第03話:仮執事心
心は三千院家の前に居た。
「よし!」
門を開けて敷地内に入る。
すると警報が作動し、SPの軍勢がやって来て心を囲んだ。
「何だ君は!?」
サングラスを掛け、黒服を着たがっしりとした体型の髭を生やした男が心に訊ねた。
「あんたら何者?」
「我々は三千院家を守るSP部隊だ! お嬢様に危害を加える族は誰であろうと許さん! 成敗してくれる!」
「案ずるな。私は危害を加えに来た訳では無い。アルバイトの募集広告を見て申し込みに来たんだ」
「そうでしたか。では我々が屋敷まで案内しましょう。この敷地はとても広いですから、初めての方はよく迷子になるんですよ」
がっしりした男がそう言うと、屋根が開いた赤い車が現れた。
「これにお乗り下さい。屋敷まで私がお連れしますよ」
と運転席に座ってハンドルを握ってる女性がそう言った。
推定、三十路前後。
「これはこれはマリアさん。いつもご苦労様です」
とSPの方たちが頭を下げた。
「んー……」
心はマリアの顔を見て唸り出した。
疑問符を浮かべるマリア。
「おばさん、今いくつ?」
ピキッ!
マリアの額に青筋が立った。
「私は未だ19歳です! おばさんじゃありません!」
するとSPの方たちが何か言いたげな顔をした。
大方、サバ読んでるよ、とでも言いたいのだろう。
「何ですか、あなたたち?」
マリアがSPの方たちを睨んだ。
SPは「何でもありません」と言うと、慌てて持ち場に戻った。
心は助手席に回って乗り込んだ。
マリアはそれを確認すると、アクセルを踏んで車を出し、屋敷を目指した。
「あの、マリアさんでしたよね。この屋敷には長いんですか?」
「ええ。十数年くらい居ますわ」
「先刻19歳って言ってたけど、計算合いませんよね、それじゃ」
訊ねるとマリアは居眠りをした。
「運転中に寝るなよ!?」
「あ、すみません。居眠りしてしまいました。それで、何の話しでしたっけ?」
「否、もう良いです」
この時、心は思った。この人に年齢の話しはタブーだ、と。
「そうですか。そう言えば、未だ名前を訊いてませんでしたね。何て言うんですか?」
「綾崎 心。心と呼んで下さい」
「え? 今、綾崎と仰いました?」
「仰いましたよ」
「お母さんの名前、綾崎 雛菊さんでは?」
「知ってるんですか?」
「ヒナギクさんは、15年くらい前に此処で働いてた執事くんの奥さんなんです」
「パパが働いてたんですか?」
「そう言えば、あの子がお嬢様から借りた15,6804,000円はどうなったのかしら? 未だ返し切れてないと思ったんですが……」
(パパ、何でそんなの借りたんだよ?)
「着きましたよ」
マリアがそう言って車を停める。
二人は車を降りて屋敷の中に入った。
「執事長の部屋に案内します。付いて来て下さい」
とマリアが心を執事長室に案内する。
「クラウスさん、面接の方がお見えになりました」
マリアが言うと、白髪で眼鏡を掛けたお年寄りが答える。
「そうか。マリア、ご苦労だった」
心はクラウスと呼ばれるお年寄りの前に立った。
するとクラウスが目をハート型にし机を飛び越えて心に抱き付いた。
どうやら、クラウスは心に惚れてしまった様である。
「何なんですかこの人?」
「執事長のクラウスさんです。悪い人ではないので、多少の行いは許してあげて下さいね」
心はその言葉に「はあ」と素っ気無い返事をした。
「倉臼 征史郎と申します。お嬢さんのお名前、教えて頂けませんか?」
「あ、綾崎 心です」
「ん、綾崎?」
「クラウスさん、その娘はハヤテくんの娘さんなんですよ」
「それは本当か!?」
クラウスは驚いて心の顔を改める。
「む、これは?」
クラウスが心の胸元にある飛行石に気付いた。
「ああ、これはパパの形見なんです」
「どうやらマリアの言うことは本当らしいな」
「クラウスさん、私の言葉を信じてなかったんですか?」
「否、そう言う訳じゃないが……。所で、執事の面接だったな。心くん、君が現在通ってる学校名を教えて貰おうか」
「潮見高校です」
「ならん! ならんぞそれは! 今直ぐ白皇学院に転校するのだ! それが我が三千院家執事になる為の第一条件だ!」
とクラウスは格好良く心を指差した。
「と言う事で一応仮採用だ」
ズザー!
心とマリアは転んで床を滑った。
「さて心くん。早速今日から働いて貰う事になるのだが、先ずはこれに着替えてくれたまえ」
クラウスはそう言って箪笥から執事服を取り出した。
心はそれを受け取り、マリアと共に部屋を出た。
「私の部屋で着替えて頂きましょうか」
マリアはそう言って心を自室に案内した。
「此処が私の部屋ですよ」
とマリアが部屋のドアを開けた。
「え、マリアさんこんな広い所に一人で居るの!? 寂しくない!?」
「別に寂しくありませんよ」
「はあ」
二人は部屋に入った。
心は鏡の前に移動し、着替えを始めた。
と此処で毎度お馴染、自主規制君が現れて<見せられないよ>と心の全身を隠した。
そして執事服に着替え終わると、自主規制君は何処かに行ってしまった。
「どうですか、マリアさん?」
と心が一回転して訊ねる。
「とても似合ってますわよ」
「ホントに?」
「ええ。それでは、クラウスさんの所に行きましょうか」
マリアはそう言って、二人一緒にクラウスの下に戻った。
「では心くん、ナギお嬢様の所に挨拶に行ってきて下さい」
「解りました」
心はマリアと共に部屋を出た。
「お嬢様の所に案内しますね」
言ってマリアは心をナギの部屋に案内した。
「ナギ、新しい執事がお見えになりましたよ」
マリアがそう言うと、金髪ツインテールの二十歳前後の女性が現れた。
「三千院 凪だ。って、ヒナギクじゃないか。髪染めたのか?」
「心です」
「心?」
「あ、この娘はハヤテくんの娘さんですよ」
「何!?」
ナギは驚いて飛び退いた。
「ハヤテに娘が居たのか! と言う事は、此奴はヒナギクの娘でもあるのだな!?」
(何なんだ此奴?)
心はそう思いながらマリアを見た。
マリアはそれに目で答える。
「この娘は三千院家の主で二十歳になったと言うのに仕事にも就いていない引き篭りです」
心もそれに目で返す。
「ニートって奴か?」
「そうですね。何でも、働いたら負け、と思ってるみたいですよ」
「何に負けんだよ?」
「さあ」
とマリアは肩を竦めた。
「それじゃあ、次は屋敷内を案内しましょうか」
マリアはそう言うと、ナギに会釈して心と部屋を出た。
するとホワイトタイガーが現れた。
「うわっ、何でこんな所に虎が!?」
心は驚いて飛び退いた。
「ああ、それはホワイトタイガーネコと言う種類の猫で、虎ではありませんよ」
「否、これどう見ても虎ですよ!? 確かに虎もネコ科ですけど、猫がこんなでかい筈がありません!」
心がそう否定すると、虎が鳴いた。
「ニャー」
…………。
沈黙が場を支配した。
「って、虎がそんな鳴き方するかよ!?」
「ネコ科だからするのでは?」
「ニャー」
虎がそう鳴いて心の匂いを嗅ぐ。
「タマって言うんです。可愛がってあげて下さいね」
マリアはそう言うと去って行った。
「えっ、一寸!? 案内は!?」
しかし、マリアの耳にはもう届かない。
「はあ」
心は溜め息を吐いてタマを見る。
(これどう見ても虎だよな?)
「お座り」
心が何と無くそう言うと、タマがお座りをした。
「お手」
お手をするタマ。
(凄え! 此奴利口だ!)
他にもやってみよう──そう思って無理難題を押し付けてみる。
「タマ、三回回ってワンと鳴け」
(って、虎が出来る訳無いか)
そう思っていると、タマが三回回って「ワン」を見事にやってのけた。
(やべ!)
タマは慌てて口を塞いだ。
「お前、今ワンって言わなかったか?」
その問いにタマは慌てて首を左右に振るう。
「三回回ってワン」
タマは三回回って「ワン」と鳴いた。鳴いてしまった。
(やべえ。バレたかも)
とタマは後退りを始める。
「お前、利口だな。こんなに利口だとひょっとして喋れんじゃないか? 誰にも言わんから何か喋ってみろ」
心はそう言って間合いを詰めた。
「本当に喋らないか?」
タマは思わずそう口にした。
「ああ、しゃべ……って、マジで喋りやがった此奴!」
「何だ、虎が喋っちゃ悪いのか?」
「悪いよ。てかそもそも虎の声帯じゃ喋れんだろ。何で喋れんだよ?」
「それはオレが特別だからに決まってるじゃないか」
「オレってお前、雄か? 因みに私は女だ」
「何!? しまった! オレとした事が、女の子夢を打ち壊してしまったぜ!」
「否、女の子は虎が喋らない事に夢は持ってないから。どっちかつーと喋る事に夢を持ってるからな」
「そうか。なら喋っても平気だな」
「待て。そんな事したら確実に女の子は気絶だし、その上見世物にされるぞ」
「じゃあどうすれば良いんだよ? このままじゃオレ、女の子の夢打ち壊す事になっちまうよ」
「否、喋らなくて良いから。そもそも虎が喋るなんて有り得ない事だろ」
「言われてみればそうだ。それよりお前、可愛いな。是非オレの嫁になってくれ」
「恐ろしいから却下だ」
「そんな事言わずになってくれよ。オレ、飼い虎だから女が居なくて困ってんだよ」
タマがそう言って心を押し倒す。
「あー、解った解った。なってやるよ」
「本当か!?」
「ああ。だから退けな」
「ひゃっほ〜!」
タマは退くと大喜びで去っていった。
「ふう」
と安堵の溜め息を吐く心。
(怖かった……)
この先、一体どうなる?
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