第02話:悪い事もあれば良い事もある
正太郎との勝負に敗けた心は、正太郎と仲良く手を繋いで歩いていた。
端から見ればバカップルそのもの。とても恥ずかしい絵だ。
「ねえ、綾崎さん」
正太郎が心に顔を向けて言う。
「何処か寄って行きません?」
「否、悪いが真っ直ぐ帰る。バイトがあるんだ」
「そうですか」
十字路に差し掛かり、正太郎が別れを告げる。
「では、僕はこっちなので。短い時間でしたけど、楽しかったです」
正太郎はそう言うと心の手を放して右に曲がって行った。
心は真っ直ぐ行き、アパートを目指す。
アパートに着くと、心は階段を上って2階に上がり、<綾崎>と書かれた部屋のドアを開けて中に入る。
「ただいっ!?」
玄関には母のヒナギクが腕を組んで仁王立ちしていた。
「心、正宗を返しなさい」
「嫌だ」
断ると、ヒナギクが紫色のオーラを放ち、目を赤く光らせた。
「まあ落ち着──」
「黙れ!」
心が言い掛けた所で、ヒナギクが掻き消すように言う。
「何だよ?」
「もう一度訊くわ。正宗を返すの!? 返さないの!?」
「返さないね。正宗は私を気に入ってる。何なら、正宗に決めて貰おうか」
心はそう言うと靴を脱ぎ、ヒナギクを避けてリビングに入り、正宗を中央に置いた。
「正宗は私とお袋、どっちが良い?」
すると正宗は勝手に動きだし、ヒナギクの下に飛んでいく。
「やっぱ私の所じゃない」
とヒナギクが言って正宗を掴もうとすると、正宗はそれを避けて心の下に行き、心の手に収まる。
「どうやら正宗自信も私が好きらしいぞ」
その言葉にヒナギクはショックを受け、ドーンと効果音を出しながら、床に手と膝を着いた。
「正宗は、正宗は私なんかより心が良いのね!? この浮気者!」
正宗が焦り、ヒナギクの下に移動する。
「ふんだ。あんたなんか知らない!」
ガーン!
正宗はショックを受けて暗くなった。
「案ずるな。正宗には私が居る」
心が言うと正宗はパッと明るくなり、元気よく飛んでいく。
「そう言う訳だから正宗は貰う」
心はそう言うと、私服に着替えてバイトに向かった。
どんぐり喫茶。
此処は心のバイト先である。
「ちーっす」
心が中に入ると、マスターの加賀 北斗が顔を見せた。
「今日も宜しく頼むわね」
北斗はそう言うと、店を出て行こうとする。
「マスター、何処行くんだ?」
心の問いに北斗は振り向き答える。
「買い出し」
「気を付けろよ」
と心は北斗を見送る。
その直後、客が来店した。
客は適当な所に座り、メニューを開いた。
同時に心は水を用意した。
「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたら、どうぞ申し付け下さい」
言ってニッコリ笑う心。
すると客が心のケツを触ってきた。
「お嬢ちゃん、可愛いね。名前何て言うの?」
心は顔が引き攣る。
(我慢我慢。此処で追い返したら、店の信用問題に関わる。もしそんな事になったら当然、私は減給だ)
心は怒りを殺し、笑みを保ったまま言う。
「お客様、そう言う行為はお辞め頂きたいのですが」
「ああ!?」
客が心を睨むと同時に、心の額に青筋が浮かぶ。
「何か文句あんのかコルァ!?」
心は拳を作り、力強く握る。
(駄目だ! 我慢だ、我慢するんだ心!)
しかし、心の怒りはついに限界を超え、爆発した。
「てめえ、黙ってりゃ良い気んなりやがって。しばくぞコルァ!?」
心はそう言って客を睨む。
「何だお前? 客に暴力振ろうってか。そんな事して良いとおもっ」
そこまで言い掛けた所で、心の拳が客の顔面にガスンッと埋ずまった。
客は心にビビり、慌てて逃げて行った。
それと入れ代わりに、買い物袋を提げた北斗が店に入ってくる。
「心ちゃん、今の客どうしたの?」
「すまん。また殴った」
そう言って心は頭を下げた。
「そうかい。心ちゃん、君はクビね」
「そうですか、クビですか。って、クビ!?」
「ええ。だって君、いつも客追い返してるじゃん」
「否、あれは向こうが私のお尻を触るから」
「言い訳は良いわ。兎に角そう言う事は店の信用問題に関わる事なの。だからもう君には辞めて貰うわ。給料も出ないよ」
「そんなー」
心は肩を竦めた。
「解ったらさっさと出てって頂戴」
と、北斗が心を店外に追い出す。
「ちょっ、マスター!」
しかし返事は無かった。
心は俯き、店を離れた。
「はあ」
と溜め息。
(最悪だ。減給じゃなくてクビだってよ。あーあ、最悪だ)
そんな事を思いながら歩いていると、掲示板に広告があるのに気付いた。
それは三千院家の執事募集の広告だった。
心はその広告を読んだ。
『三千院家では執事を募集しています。男女は問いません。ご希望の方は三千院家お屋敷まで尋ねて下さい。月給は住み込み、アルバイト共に326,675円! 希望者待ってます! by.ナギ』
「何これ! 待遇よくね!?」
次のバイトこれにしよう!──心はそう決めると、早速三千院家に向かった。
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