第13話:お兄ちゃんとの再会
旧校舎の一角に、異次元へのゲートがある。二人はそこにやってくると、立ち止まった。
「なあ、これって……」
心が漆黒に染まる丸い穴を指差した。
「そう、これが元の世界に通じる穴よ。じゃあ、私は先に戻ってるわね」
ヒナギクはそう言うと、肉体を脱ぎ捨てて穴に飛び込んだ。
ごくっと唾を飲み込み、徐に手を近付ける心。
「お待ち下さい──っ!」
その声と共に現れたのは、アサシン執事だった。
「なっ、お前は!」
心は正宗を掴み、構えた。
「待って下さい。貴方と戦うつもりはありません」
その言葉に心は正宗を仕舞う。
「どう言う事だ?」
アサシン執事は跪いて答える。
「私もお供します」
疑問符を浮かべる心。
「実はですね、貴方の強さに惚れてしまいまして、それで舎弟にでもなろうかと思いまして」
「舎弟か。別に構わないが」
「では、お供させてくれると?」
「ああ」
「有り難う御座います! 所で、お名前を伺って宜しいでしょうか?」
「綾崎 心だ」
心はそう残して穴に飛び込んだ。
「お待ちを!」
アサシン執事も後に続いた。
元の世界では、ヒナギクが穴をジッと見つめていた。
「夏澄ちゃん、心が出て来るまでどのくらいかしら?」
「判りません。このゲートは本来、霊体が通る道ですから、生身の人間が通るとどのぐらい掛かるのか……」
と、その時、穴の中から心とアサシン執事が飛び出して来た。
ゴンッ!
心とヒナギクは頭をごっつんこしてしまった。
「「痛っ!」」
同時に頭を押さえる二人。
「危ないじゃない! いきなり飛び出して来ないで!」
ヒナギクは目に涙を浮かべながら怒鳴った。
「仕方が無かったんだよ。穴に飛び込んだら後ろから道が崩れ始めるから慌てて此処まで走って来たんだ」
「そして私の頭に突っ込んだ、と」
所で──とアサシン執事を見るヒナギク。
「こいつか? こいつは私の舎弟だ」
心はアサシン執事を指差しながら答えた。
「舎弟って、貴方また暴力振るって言うなりに?」
「違うよ。此奴はアサシン執事と言って、あっちの世界のパパを狙ってたんだけど、私が軽く叩いてやったんだ。そしたら、私の舎弟になりたいと」
「そう。それより、貴方に逢いたいって人が居るんだけど」
そう言ってヒナギクは、葉書を取り出して心に渡す。それにはこう書かれている。
綾崎 心さん、その節は助けて頂き、感謝致します。今度、お礼を致しますので、私のお家まで是非遊びにいらして下さい。
「…………?」
心は疑問符を浮かべながら首を傾げた。
(何かお礼されるような事したか?)
心は過去の記憶を呼び起こした。
*
1年前の事だ。当時、心は潮見高校の1年生だった。
その日の夜、心は暇潰しに町中を徘徊していた。
(何か面白い事無いかな)
そう思っていると、偶々通り掛かった空き地の片隅で三十路前後の女性が、人間では無い何者かに襲われているのが見えた。
何者かは逃げ場を失って脅える女性に言った。
「お前の体を寄越せ」
「何なんですの、貴方?」
やばい!──そう思った心は、咄嗟に駆け出し、何者かに飛び蹴りを放った。
「うっ!」
何者かは呻くと共に吹っ飛んで塀にぶつかってズルズルと地面に落ちた。
「くっ……何者だ?」
何者かは立ち上がり、心を見て訊ねた。
「下がってろ」
心は女性を自分の背後に移動させた。
「貴様、宇宙人か?」
「邪魔するな! 俺はそいつの体を頂くのだ!」
何者かはそう叫ぶと、心に気弾を放った。
心は攻撃を喰らい、後ろに吹っ飛びそうになったが、何とか堪えた。
「ほう、俺の技を喰らっても立っているとは対した奴だ」
「何者だ、お前」
「俺か? 俺はチェンジャー星から来たギニュラス様だ」
「チェンジャー星人?」
知らないな──と首を傾げる心。
「そうか。て言うかそこを退け」
「それは却下。何が目的かは知らんが、この女性には指一本触れさせねえ」
「そうか、邪魔をするのか。ならば貴様を殺してからにしようか」
何者か、ギニュラスはそう言うと、心に接近して先制攻撃。だが、心はヒョイと避けてカウンターをお見舞い。
「がはっ!」
ギニュラスは腹を押さえ蹲った。
「つ……強いな貴様。後ろの奴より遥かに高い戦闘力だ」
「鍛えてるからな」
心が答えると、ギニュラスが何かを企んでいるかの様な笑みを浮かべた。
「……………………」
警戒する心。
「気に入ったぞ、その体──っ!」
「…………?」
心が疑問符を浮かべると同時に、ギニュラスが両手を横に広げた。そして、
「チェーンジ──ッ!」
その叫び声と共に、ギニュラスは妙な色の細い光線を口から放つ。
(やべ、動けねえ)
それは単純に、後ろに女性が居るから避けられない、と言う訳ではない。丸で金縛りに遭ったかの様に体が動かないのだ。
(くそっ、動け!)
焦る心。その間にも、妙な色の細い光線は迫る。
(んっ!?)
光線を喰らったと同時に、体内に何かが入り込んだ。そして強い力によって体外へと押し出された心の魂は向かい側のギニュラスの体に重なる。
「ちょっ、何だよこれ!?」
驚き戸惑うギニュラス。
心はクククと笑い、
「交換させて貰ったぞ、貴様の体と──っ!」
「なっ!?」
信じられない事だった。人間の体が他の奴と入れ代わるのは。
「どうやら驚いている様だな」
「私の体を返せ」
「断る。返して欲しければお前のより強い体の持ち主を連れて来い」
「はぁ……」
ギニュラスはその言葉に溜め息を吐いて言った。
「それはお前の体じゃないか」
「どう言う事だ?」
と心は怪訝そうな顔をする。
「それは……こう言う事だ──っ!」
ギニュラスはそう言うと、目にも留まらぬ速度で心の背後に移動し、回し蹴りを放った。しかし、相手は吹っ飛ばず、平気な顔をしていた。
「ふっ、耐久性も優れているな」
心はそう言ってニヤリと笑うと、振り返ってギニュラスの鳩尾に拳を埋ずめた。
「がはっ!」
吐血するギニュラス。
「凄い威力だ。軽く突いただけで怯むとは」
心はそう口にすると、ギニュラスの鳩尾から拳を抜いた。
(くっ……自分にやられるなんて、情けねえ……!)
「さて、そろそろ殺してや──」
心がそこまで言い掛けた所で、何処からともなく二足の下駄が飛来し、ゴスッと額に直撃した。
「誰だ!?」と、心は下駄が飛んで来た方を見た。それに釣られ、ギニュラスも振り向く。その先には、心と瓜二つの人物が居た。
「お兄ちゃん!」
ギニュラスはそう叫ぶと、そのお兄ちゃんに駆け寄って抱き付いた。戸惑うお兄ちゃん。
「逢いたかったよ、お兄ちゃん」
「放せ」
お兄ちゃんはギニュラスの締め付けから脱出した。
「心、それはアイツから体を取り返してからだ」
お兄ちゃんはそう言うと、心の方へ足を進めた。一歩一歩、確実に近付いていく。
「何だ貴様は?」
その問いにお兄ちゃんは答える。
「知る必要は無い。お前は元の体に戻って死ぬのだからな」
「何だと?」
「聴こえなかったか? お前は死ぬんだよ」
お兄ちゃんはそう言うと、デコピンで心を吹っ飛ばした。
「うわああああぁぁぁぁ──っ!」
悲鳴を上げながら土管へと突っ込んで破壊する心。
心は立ち上がり様にニヤリと笑う。
「強い体……気に入った──っ!」
心はそう言うと、「チェーンジ──っ!」と例の光線を放った。
(しめた!)
咄嗟の判断で光線に駆けるギニュラス。
光線を受け、ギニュラスの体に何かが入り込み、同時に強い力で心の魂が外に押し出され、元の肉体に重なった。
「よっしゃあ! 体が戻ればこっちのもんよ!」
心は叫ぶと、お兄ちゃんと共にギニュラスに飛び蹴りを放った。
「辞めろ──っ!」
ギニュラスは叫ぶが、しかし、二人の攻撃はもう止まらない。ギニュラスはダブル飛び蹴りを見事に喰らい、爆裂霧散した。
「お兄ちゃん」
心は着地すると直ぐ様お兄ちゃんへダイブが、しかし、お兄ちゃんにひらりとかわされ、地面に突っ込んだ。
「……………………」
睨め付ける心。
「悪い。つい反射的に避けてしまった」
お兄ちゃんは申し訳無さそうな顔でそう言った。
「まあまあ、睨むなよ」
しかし、心の表情は変わらぬままだ。
「あー……俺、急用思い出したから帰るわ。母さんに宜しく伝えておいてくれ。じゃあな」
お兄ちゃんはそう言うと、攻撃用に使った下駄を履いて去っていった。
「あの……」
女性が心に声を掛けた。心は「何だ?」と顔を向ける。
「助けて頂いて有り難うですわ。今度、お礼させて頂きたいので連絡先を教えて頂けますこと?」
「いや、お礼なんて要らない。気持で十分だ」
心はそう言うと、立ち上がって女性の前から去っていく。
「お待ち下さい!」
立ち止まり、振り返る心。
「出来れば、お名前だけでも!」
「綾崎 心」
そう名乗り、去っていく。
「私は天王州 アテネで御座いますわ! いつか、必ず貴方にお礼を!」
女性は心の小さなその背中に向かって叫んだ。
*
「思い出した」
1年前の記憶が脳裏に過った心は、そう呟いた。
「…………?」
ヒナギクはそれに疑問符を浮かべる。
「お袋、私行ってくる」
「へ?」
心は去っていった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
ヒナギクは叫んだが、しかし、もう聞こえない所に心は居た。
「はぁ……」
ヒナギクは溜め息を吐いて肩を竦めた。
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