第01話:座を懸けた挑戦状
ハヤテとヒナギクの間に子どもが生まれて十数年。
その子ども、綾崎 心も大きくなった。
髪は水色で顔がヒナギクそっくりである。例えて言うなら、髪を水色に染めた高校生時代のヒナギクだ。
その彼女は今、潮見高校に通っている。
当初、ヒナギクは心を白皇学院に通わせるつもりだったが、金銭的な問題と本人の強い希望により潮見に通わせる事にした。
と言うのは立前で、本当は心が手の施しようが無いまでに荒れてしまった不良の為、白皇は受け入れてくれず、仕方なくハヤテが通っていた潮見に入学させたのである。
ある日のお昼休み。潮見高校の校門を一人の女子生徒が、閉まっていた門を破壊して通過した。
髪は水色。背中に正宗を背負っている。
この女子生徒の名前が綾崎 心である事は、最早言うまでも無い。
「綾崎さん、おはよう御座います」
と、校庭で遊んでいた数人の男子生徒が心の下に集まって来て頭を下げた。
「失せろ」
心がそう言って睨み付けると、男子生徒たちは慌ててその場を離れて行った。
と思いきや、一人だけそこに残った。
「あの、綾崎さん」
そいつは怯えながら声を掛けた。
その様子を離れた所で見ている先程の奴らは「何やってるんだあいつ?」と首を傾げる。
心は目の前で震えてる男子生徒に「邪魔だ」と言って無理矢理横に退かして進む。
しかし男子生徒が直ぐに腕を掴んで引き留めた。
「何だよ?」
心は呆れ顔で振り向き訊ねる。
「僕と、付き合って下さい!」
男子生徒は腕を放すとそう言って頭を下げた。
「はあ?」
「僕、始めて綾崎さんを見た時から、ずっと好きでした! 綾崎さんが良ければ、僕と付き合って下さい!」
ガスン!
心は男子生徒をぶん殴った。
「うわっ!」
男子生徒は尻餅を着く。
「いきなり何するんですか!?」
その言葉に心は肩を竦める。
「私はな、強い奴にしか興味は無いんだ。諦めろ。じゃあな」
心はそう言って踵を返すと、昇降口に向かって歩き出す。
その背後で男子生徒が立ち上がって「待って下さい!」と叫ぶ。
「ああ?」
心は振り向いて睨む。
「ほ、放課後、剣道部の部室で待ってます!」
「剣道? お前、剣道で私に勝って彼女しようってのか? 悪いが辞めとけ。お前じゃ勝てない」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃないですか!」
「そうだな。解った。放課後、その勝負受けよう。但し、私が勝ったらお前は奴隷な」
心はそう言って去って行った。
すると、男子生徒の下に先程の奴らがやって来た。
「お前、良いのかよ? 敗けたら奴隷だぞ」
「自信あるから大丈夫。何たって僕は剣道部の部長だから」
てな訳で、時間を飛ばして放課後の剣道部部室。
心は竹刀を持って、竹刀を持った男子生徒と対峙していた。
「勝負の前にお前の名を訊いておこう」
「僕? 東宮 正太郎です」
(東宮? 何か何処かで聞いた事あるような……。まあ良いか)
「よし、それじゃあ始めようか」
「ハンデをあげます。そちらから掛かって来て下さい」
言って正太郎は満面の笑みを浮かべる。
「自信過剰だな。それが命取りにならない事を願ってろ」
言って心は駆け、正太郎の面を狙った。
しかし竹刀は、正太郎の体を透過し、同時に正太郎の姿が消えて背後に現れた。
(残像拳だと!?)
説明しよう。残像拳とは、目にも留まらぬ速度で移動し、相手に残像を見せて恰かもそこに存在するかの様に感じさせる回避技である。
「貰ったぁ!」
正太郎が竹刀を振り降ろした。しかし、心が前転してそれを回避した。
それと同時に正太郎が飛び上がる。
「何!?」
心は慌てて体勢を立て直し、面をガードした。
カッ!
両者の竹刀がぶつかり合う。
「なかなかやりますね」
「身分の座が関わってるからな。敗ける訳にはいかない」
両者は飛び退き、間合いを取った。
(相手は残像拳が使える。さて、どうしたものか)
そう思って何気無く横に目を配る。
すると壁に立て掛けられた正宗がオーラを放っていた。
「東宮とか言ったな。これから私は本気で行く。本気の私に勝てるかな?」
言って心は竹刀を投げ捨て、壁に立て掛けられた正宗を引き寄せて掴んだ。
「木刀に変えたからって、形勢は変わりませんよ?」
「そいつはどうかな?」
そう言って心は正太郎の視界から一瞬で消失し、頭上に現れた。
「上ですか?」
正太郎が飛び退くと、そこに心が着地した。
「隙あり!」
正太郎が体勢を立て直そうとしている心の胴を取った。
「なっ!?」
心は正宗を落とし、床に膝と手を着いた。
(この私が、正々堂々と勝負して敗けた!?)
「僕の勝ちですね。約束ですよ、綾崎さん?」
「ああ。女に二言は無い」
心はそう言って立ち上がると、正太郎に握手を求めた。
「楽しかった」
「僕も楽しかったですよ。またやりましょう」
と正太郎が心の手を掴んだ。握手成立。
すると回りから歓声が上がった。
「何だこの騒ぎは?」
「これは皆が僕の為に祝ってるんですよ。僕が綾崎さんに勝って、綾崎さんが僕の彼女になったから」
(はっ! 忘れてた! 私、こいつとそんな約束してたんだ!)
「東宮、もう一戦しろ」
「駄目ですよ。約束は守らなきゃ」
「くっ……」
心は言葉に詰まった。
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