告白
「なあ隆二、ちょっといいか?」
「一馬の『ちょっといいか』はいつもめんどくさいからなあ、まあいいけど。何か用か?」
講義の合間の昼休み、大学の構内で、うろうろと探し回って、教育学部の303教室で、ようやく隆二を見つけた。
自分が入ってきたとき、隆二は昼飯を食おうとしているところだった。
ひとまず隆二には昼飯を食うのは後にしてもらって、ちょっと俺の悩みを聞いてもらうことにした。悩みすぎて、夜もなかなか寝られなくなってしまっているくらいだ。
「俺さ、ずっとずっと前から好きな亜美ちゃんのこと、最近その思いがどんどんと膨らんできてさ、妄想が止まらないって言うか、悶々が止まらないって言うか……毎日がそんな気分なんだよ!」
「はぁ……それで?」
隆二は『お前の言っていること、よくわからない』といった表情を浮かべながら、生返事を返してきた。おかしい。俺のこの苦しい気持ちがなぜ伝わらない。
だが、気にせず続けることにする。
「それで、もう我慢できなくてだな。亜美ちゃんに告白することにしたんだ。けど、その前にちょっと自分の告白でOKがもらえるかどうか、ちょっと隆二に確認してもらいたいんだよ」
「……どう頑張っても無理と思う」
「あん? 何か言ったか?」
「いやいや? なんでもないよ? それで、どんなふうに告白するんだ? 告白のセリフを聞かせてくれよ」
なんか、途中腹立たしい言葉が聞こえてきたような気がするが、今はそんなことにかまっちゃいられない。
「じゃ、じゃあいくぞ。『俺は、ずっとずっとあなたの事が好きでした!』」
「隆二君! いっしょにごは……ん……た、べ……?」
最初の一言目を言った瞬間誰かが中庭に入ってきた。えっと……俺たちと同じサークルの麻子ちゃんだな。
隆二と麻子ちゃん、いつの間に一緒に昼ご飯を一緒に食べる関係になっていたんだ。
「りゅ、隆二君ってそっち系だったんだね……」
「ちょ、ちょっと待て麻子ちゃん! これは違う! 違うんだって!」
……どうでもいいが、早く会話を終わらせてほしい。亜美ちゃんへの告白の為に、一分一秒が惜しい時だというのに。
「い、いいよ気にしなくったって。私、誰にも言わないから……」
「いやいや! 違う! 違うんだって! いかないで麻子ちゃん!」
慌てて隆二が麻子ちゃんを追いかけようとしたので、がっしと抱きしめて、隆二が追いかけるのを阻む。
「待てよ隆二。俺との約束の方が先だろ? 先に俺の告白を聞いてからにしろよ」
「離せ一馬! 今はお前なんかより、麻子ちゃんの方が大事だろ!」
なかなかいうことを聞いてくれないが、隆二に行かせないよう、一生懸命抱き止めつづける。
「隆二ー! 突然来ちゃったー。一緒にご飯食べよー! ……えっ?」
……後ろを振り向くと、今度は同じ教育学部の美登理ちゃんがいた。
「……へ、へ、へ、変態―! 隆二の変態―!」
「み、美登理ちゃんちょっと待って! これは誤解! すべて誤解なんだよ! っくそ! だから一馬! 離せって!」
隆二から離せと言われるが、ここで離してしまったら、俺の告白を誰が聞いてくれるって言うんだ。そう思い、自分は隆二の罵声を無視し、ただただ隆二の進行を阻む。
それにしても……まさか美登理ちゃんともいい仲になってたとは、隆二、あなどれない。
タッタッタッと美登理ちゃんが走り去っていく音が聞こえ、やがて聞こえなくなった。
そのころになると、ようやく隆二も諦めがついたのか、教室から出て行こうという気持ちがなくなってきたようで力が緩んだ。
俺が抱きしめるのを離すと、ぐったりと近くの椅子にへたり込んだ。
「はぁ……終わった。終わったよ……俺の大学生活」
もう、この世の終わりのような顔をしながら、隆二がつぶやく……ううん、何か励ましてやらないといけないかな。
「……ご愁傷様、人生いろいろだ」
「お前のせいだろ! ああ、もう! さっさとお前の告白聞かせろよ! 聞いたら誤解を解きに行かなきゃいけないんだから!」
怒りで顔が真っ赤になっているが、どうやらそんな状態でも隆二は俺の話を聞いてくれるらしい。
それならと、俺は亜美ちゃんへの告白の内容を隆二に向けて話した。
言い終えた後、隆二からの返事を待つ。
「……まあ、普通にいいんじゃないか? 別にどこもおかしくないし、お前の思いも伝わってくると思うぞ」
隆二からのGOサインが出た! やった! これで亜美ちゃんに告白に行くぞ!
「ありがとう隆二! やっぱり持つべきものは隆二のような奴だよ!」
俺は感謝の意を込めて、ぎゅっと隆二を抱きしめた。
「おいこら、気持ち悪いから離せって」
いやいや、このくらいじゃ俺の感謝の気持ちは表せないぞ。
「隆二君……も、もしよかったら、お弁当作ってきたんだけど……い、いっしょ……? りゅ?」
隆二を抱きしめていたら、また誰か別の人がやってきたらしい。ちらっと見てみたら、アルバイトで一緒の美咲ちゃんだった。
「美咲ちゃん!? ち、違う! 誤解誤解! どこまでも大きな誤解なんだって! 狭くて浅い理由があるだけなんだって! だから一馬! 離せと言っているだろうが!」
まだまだ、俺の感謝の心はこんなものじゃない。支離滅裂な状態になりながら、隆二は何とか美咲ちゃんを説得しようと試みていた。
目を真ん丸にして俺ら二人を見つめていたが、やがて何も言わず、ふらふらと去っていった。
ようやく俺の気持ちが満足し、隆二を抱きしめるのをやめた。それと同時、隆二はその場に倒れこむ。
「終わった……俺のバラ色の人生……」
いや、三股かけている時点でどうかと思うのだが。
落ち込んでいる隆二の事も気になるが、今は亜美ちゃんへの告白のが大事だ。
「じゃ、俺は告白に言ってくるから! サンキュな!」
「二度と俺に顔見せんな!」
そして、亜美ちゃんを大学建屋の中庭に呼び出し、俺は今まさに一世一代の告白を決めようとしていた。
「――でした。ずっと、亜美ちゃんのことが好きでした! どうか俺と付き合ってください!」
「……ごめんなさい。ホモはちょっと……」
…………こうして俺の恋は終わった。