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STG/I 作者:ジュゲ
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第九話 七つの理り

 沈痛なロビー。
 これまでの寂れた感じとは次元が変わった気がする。
(これもSTGの残機がそうさせるのか?)
 退廃的と言えばいいか。
 戦果でパートナーをロビーに連れ出すことが出来るようで、パートナーと抱き合っているプレイヤーもいる。サイトウは自らも不安が込み上げるのを感じながら一方で面白みを感じた。
(これぞ雰囲気に流されるというヤツ。懐かしい)
 負けがこむと、次も負けだと勝手に思いだす。操作が雑になり注意が散漫になっている自分に気づかない。挙句の果てに泣き言。更に進むと泣き言も無くなり気力が失せる。それらは伝搬し更に雰囲気は悪化していく。今の彼らは墓場から出てきた亡者の群れのようだと思った。
(もっとも亡者なんて見たこと無いけど)
 彼は会社が倒産していく様を具に体験し、なるほどこういうものかと体感を得ている。それを思い出した。入れ込めば似た状態にオンラインゲームでもなるのだろう。勿論リアルの方が重さが違う。
 先程から自身の身体からも不安がこみ上げてきているのを感じる。同調現象だ。空気に流されるという人間が本来もっているもの。ふと、ある精神科医の話を思い出す。
 雰囲気に飲まれないというのは不可能だと言う。パニックの中にいてパニックにならないでいるのは出来ないのが普通であり、冷静にはなれないと言った。むしろパニックを抑えようとすると逆に深刻になる。冷静になるにはパニックと距離をとるしかないという。

(さて、どうしたものか・・・)

 プリンの話は彼の疑問に多くは答えるものであった。
 ただ彼はその性格から、言葉そのものは信じるが、それが客観的に俯瞰した際にその通りであるかは別と捉えている。
 木を見て森を見ず。群盲象を撫でる。そういう言葉がある。
(昔の人は本当にいい事を言う。というより、いいことだから伝わったんだろうな)
 彼ら一人一人の言葉は事実なのだろう。でもそれが全体を捉えているとは限らない。あの時もそうだった。
 かといって部分視しか出来ない者に全体を伝えても「そうじゃない」と言う。全てが手遅れになった際にようやく「あんたの言う通りになった」と言われる。それはまだいい方だ。もっと俯瞰している人間の言葉は自身もまたわからないのだろう。でも何かあると心に留めることは出来る。
「あー・・・コレカ」と思った時は既に終わっている。
 嘘つきやホラ吹きですらある意味では本当のことを言っている。彼らにとっては事実。嘘という形、ホラという形で歪曲的に事実を伝えている。人には視点があるからどう転んでも本人にとっての事実しか伝えられない。
 芋づる式に色々思い出してきた。あれは、ある世界的権威の脳科学者の記事。
「人は見たいものを見ることが出来る」
(脳は事実を捉えることが本当は苦手なんだろう)
 彼女の言うことは嘘やホラや妄想の類には感じられなかった。ある程度人間関係を深めてみないと実際のところはわからないが、そう感じた。

 あの話しから彼が引っかかっているのは二つある。

 プリン曰く「STGの消滅イコール、地球の滅亡」だということ。
 これはゲーム内の出来事ではなく現実だというのだ。当然ながらにわかには信ずることは出来ない。確かにアメリカの無人偵察機や攻撃機があるぐらいだから遠隔操作でSTGえお動かすことは可能だろう。通信が届くのなら。AIサポーターが一人に一体付与されるのも、本来ならシミュレーター並に複雑な動作の大半をAIが賄うからなのだろうと考えられる。なにせ現代ですらジャンボジェットはほぼ自動で飛んでいると聞く。
 この葬式ムードは、彼らは「そうだ」と思っているからだろう。
(何を根拠にそう思うんだろう)
 地球が滅亡をすると感じているのだと思われる。
 勿論そうじゃない連中もいる。なにせ目の前で交通事故が起きても丸で他人事。恐らく空から大王が降ってきても他人事なのだろう。サイトウは「日本人が益々鈍感になっている」と常日頃思っていた。
(いつから人はこんなにも鈍感になったのだろうか)
 このロビーにも現実から目を背けたくてはしゃいでいる者達がいる。
 今日もSTGの機体数が減っていた。
(果たして本当にゼロになったら地球人が捉えられるぐらいの距離まで一気にくるのだろうか。そしてある日突然、あの映画のように人々は空を見上げ、なんだなんだと言っているうちに滅びるんだろうか)
「わからない」

 二つ目の疑問は「宇宙人はいる」というもの。

 この戦いそのものが宇宙人がサポートしており自分たちが乗っているSTGは彼らが提供しているというもの。
(宇宙人、便利な言葉だ。それで全てが解決したような気さえする)
 宇宙人だから。
 超能力者だから。
 天才だから。
 才能があるから。
 全てはこの一言で済んでしまう。
(宇宙人はいるんだろうよ。俺らがいるんだから)
 彼は元から宇宙人はいると思っていた。
 自分たちがいるということは、宇宙人もいると考えた。
 ただしそれは人間が思うような存在かというと話は別。
(Gなんて、宇宙人と言われても何ら不思議に思わないね。やっぱりって感じだよ)
 画面の前で身震いする。
 サイトウに死が最も近づいていた十年前。毎日ほぼ寝たきり。ある日、昼日中から寝ていると顔に何か感触がある。目をつぶったまま手でゆっくりと振り払うと何かしらの感触が得られた。そしてあの音。トイレに起きたおり死骸を見た。
(あーやだやだ、思い出したくもない)
 面白いもので元気だと寄ってこない。聞いた話しでは弱りきった人間を前にするとネズミも生きているか確認するためかカジっていくらしい。あいつらは虎視眈々と狙っているのかもしれない。
(宇宙人だ!・・・まあ冗談はさておき、実際にいると仮定して、どうして宇宙人は手をこまねいているんだろう。何故、俺達にやらせる)
 聞いてからずっとその理由が気になっていた。
 彼が考えたのは、人間社会にルール、規範があるように、恐らく彼らの中にもあるのは至極当然だろう。そのルールがそうさせるのだろうと仮定する。

(なんだろうこの感じ・・・何かに似てる・・・)

 マイキャラをロビーからルームに戻し、立ち上がる。
 久しぶりに窓から差し込む太陽を浴びたきがする。
 電気ポットからお湯をだし、賞味期限切れギリギリのセールで買ったスティックコーヒーを入れる。彼にとっての贅沢品。味が気に入っている。これを他のコーヒーや飲み物で再現することが出来ない。ただしリサイズ化の結果として味が変わってしまったのが惜しまれる。見るとはなしにコーヒーの空き瓶で埋め尽くされた台所のテーブルを見て何かを思い出した。

「親だ・・・親の視点に似てる」

 与えるが手を出さない。与えるだけ与え、後は見守る。
「でも親ならいよいよになったら手をだすけど、宇宙人が手を出すかは別だろうな。なにせ親は特別だ。もしかして動物園の動物を見るような感覚なら怖いな・・・」
 コーヒーを一口飲む。
(うまい。このミルク感がいい)
「親でも子を見捨てる時代。愛想をつかしたら見捨てることはあるだろうなぁ。他人なら尚更だ。宇宙人なら余計に・・・」
 折りたたみの椅子を取り出し座る。
 息が切れているが気づいていない。
「というよりだ、もし、宇宙人が連合のような状態で地球人を見守っているとしたら、ルールはキツく個別には対処出来ないことが多いかもしれない。俺たちだってそうだ、不条理な条約を結んでいる。おかしいが無視は出来ない。EUであれ国連であれ、組織は大きくなるほどに身動きがとれなくなる。それでいて無視すればしっぺ返しが長く続く。緩やかな干渉といえばいいか・・・解決するには結局は当事者がやるしかない」
(全ては推測、いや、事実が少なすぎるから妄想と言っていいな。プリンの人となりをもう少しわからないことには、どういう視点でものを言っているのかわからない。少なくとも彼女は、それを事実だと思っている)
「疲れた。面倒くさい・・・俺はゲームがしたいだけなのに」
(百歩譲って、地球が滅びても構いはしないけどな。どのみち俺の後はない。いつか何か致命的な欠陥が見つかるのは時間の問題だろうし。もう嫌だ。苦しみは短い方がいい)
「出来れば即死で頼むわ宇宙人さん。もう辛いのはご免だから」
*
 サイトウは一旦全てを棚上げし遊ぶことにする。
 どうにも出来ないことを捏ねくり回しても仕方がない。
 部隊は一旦全て断り、プリンとは流れでフレンドになる。
 他にも三人ほど申請は受けておく。
 内心は(やっぱり野良が気楽でいいな)と思っていたようだが。
 三人とも簡単な挨拶を交わし、プリンと似たような話しを少しだけ聞かされる。
 彼女ほど熱心ではなかったように思えた。
(危機的状況においても隣同士で全く感想は違うものだからなぁ)
 出撃ゲートやSTGにはクエストを受けないと入れないからサポーターに質問出来ない。そうしたやりとりにすっかり時間を奪われてしまいゲームが出来ていないことにフラストレーションを募らせる。疑問も浮かんでは消えを繰り返し、彼の脳内プールは溢れんばかりに満たされていく。それもストレスの原因のようだ。
「まずはマイルームにサポーターを呼び出せるだけの戦果が欲しいけど・・・機体強化が先かな~。最低限度の使えるレベルには強化しておかないとゲームにならないし。それとも課金でレベル3装備に・・・」
(いやいや分をわきまえろ)
 まずはゲームということでミッションを幾つかこなしてみたが、あのアラートで見た銃座のようなシステムは今のところ出てこない。ミッションにはパートナーが出ないようでコンピューター側のフルアシストでの戦闘。しかもレベル1で参加出来るミッションは軽いものが多く、基本的な戦い方や立ち回りを学ばせるものだと伺える。まるで素人に対するマニュアル用ミッションといったところ。対戦系のオンラインゲームに慣れた人間には不要なものばかりとゲームとしては退屈する。それでも彼は無限のごとく広がる宇宙表現や、コックピットの造形とリアリティー。STGの挙動に酔いしれ、同時に、先だって遭遇した隕石のような宇宙人を観察し、堪能は出来た。すっかり疲れ切り、食事もとらずに横になった途端、気づいたら寝ていた。

「シューニャ」
「シューニャ」
(声が聞こえる。聞き覚えがある名だ)
「シューニャ、起こしてすまない」
(俺のことか?)
「そう、君だよシューニャ。
 まずはおめでとう。君は一つの理りにたどり着いた。
 残すは六つ。
 時間は余り無いかもしれないが、その時まで」
(さっぱりわからん。
 あなた誰だ?)
「宇宙人です」
(宇宙人?)
「君たちに矢じりを与えている」
(ヤジリ?なんのとことだ。益々わからない)
「STG28と言ったかな」
 シューニャ、
 STG28、
 脳が電撃に撃たれたような衝撃を受ける。
「色々と聞きたいことがある!」
「それら多くの質問には答える時間はない」
「いや、まだ何も言ってないが」
 霧がかって全く見えない。
 白い。
 限りなく白い。
 何か人工施設の中だということはわかる。
 凄く広い。
 音が反響し、全方位からソレの声が聞こえる。
 宇宙人は濃霧のどこかにいるような、空間に溶け込んでいるような。
「君の問いで答えられるのは一つ。
 矢じりを失えば地球は滅びるだろう。
 あくまでも推計だが限りなく確率は高い。
 君が根拠を知る頃にはその問いは無意味になっているだろう。
 時間は余り残されていない。
 君が残りの六つに辿り着くことに尽力するか、矢じりで彼らと戦うか、小さな殻で終わりを迎えるかは自由だ。いずれにせよ行動した方がいい。立ち止まって考える時間はもう無い」
「その六つが解明されれば地球は助かるのか?」
「間接的には関係があるが、直接的には関係がない」
「馬鹿でもわかるようにハッキリと言ってくれ!」
「君が理解する頃には地球はないだろう。
 今、言えること。君は一つの答えに辿り着き、残りが六つだということ。
 全ての答えに辿り着けば君は助かる」
「教えてくれ!俺はどんな秘密に辿り着いたんだ」
「それは君自身がよくわかっていることだ」
「わかんねーよ・・・待て!まだ聞きたいことが山ほどあるんだ!」
 声が次第に遠のき、空間に満たされた存在感が薄らいでいくのが感じられる。
「矢じりの残りは少ない。どう使うかは君たちの意思に委ねられている」
「今の地球人はクソなんだ!お前たちならわかるんだろ?助けて欲しい、頼む!」
「それもまた君たちが望んだ結果だ。気づくか気づかないか。気づかないとしたら本心では終わりを望んでいる。気づき、抵抗するのならこの手を掴めばいい。手は常に差し伸べられているのだから。待っているよ地球人。出来れば掴むことを願うよ」
「頼むよ!無理なんだ。届かないんだよ!馬鹿なんだよ!」

 身体が弓の字に反り返り痙攣するように動くと目が覚めた。
(泣いている・・・)
 腹筋は痛いほど身体が硬直したことを示した。
 上腕も凝り固まっている。
(酷い夢を見たような気がする・・なんだ、わからない)
 知らない何か。
 見たことのない空間。
 霧の中。
 何者かの声。
(かなり悪くなってきているなぁ)
 彼のバロメーターからすると悪い中でも悪い方にあたる。
(ゲームやり過ぎたか・・・やり過ぎって言ったって、三時間か・・・五時間はしていないけど。
「やり過ぎだな・・・」
(俺の身体でそれは自殺行為か。いっそゲームしながら死ぬのなら本望だが・・・死ぬほどまでは身体が耐えられないから、それも敵わないだろうし)
 目尻に触れると濡れて感じられる。
「謎がどうとか言っていたような・・・何かまともなことを言われたような気がする。でも・・・」
(なんだこの辛さ・・・身体とは違った得も言われぬもどかしさ)
 大きくため息をついた。
「起きたばかりなのに、疲れている」
(なにか酷く時間がないような示唆があったような気がしたけど、いかんせん身体が動かないことにはどうしようもない)
「今日はログインだけ・・・あ・・・馬鹿だ・・・ログインしっぱなしじゃないか。寝落してた」
 パソコンの方を見るまでもなく煌々としている。
(駄目だ、メールもニュースも二日見ていない)
「案外平気なもんだな・・・」
(半ば強迫観念で見ていたような部分はあったのか)
「駄目だ、今日はこのまま寝よう・・・身体に力がない」
(これはアカンやつや・・・震災用の保存水と食料で済まそう。こんなに食べてないのにお腹も減っていない。本当にマズイ時は腹減らないからな。人間の肉体ってのはよく出来ている。精密なパソコンみたいだよ。死ぬにはまだ少し遠いだけに厄介だ・・・)
 枕元にキャリングケースと靴が置いてあった。
 大震災が起きるたびに教訓を活かしていったらキャリングケースになる。
 やることはやっておきたい。それで駄目なそれで結構。
 災害用準備が幸いし、起き上がれない時は保存食や保存水を口にして起き上がらずに済んでいた。万が一の際の簡易トイレも入れてある。
「終わりなら終わりで早くしてくれ・・・」
(死ぬ方が楽だ。死ぬまでの過程が大変なのであって。もう十分俺は苦しんだよ・・・)
 涙は乾いていた。
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