挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
STG/I 作者:ジュゲ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/41

第七話 ブログ

(妙だ)
 ふと思い出した。
 記憶力は元から無い方だけど最近は特に酷い。
 にも関わらず、どうでもいいことを何故か憶えていたりする。
 今回のこれもそれだ。
 初めてハンガーで見た時、彼のSTG装備はパルスバルカンだった。
 それがアラートで出撃した時の装備はツインバルカンになっていた。
「サポーターが装備してくれたんだろうが、確か初期装備はパルスバルカンしかなかったと思うんだけどな・・・」
 些細なこと。
 でも、こうした些細なことを何故か彼は覚えていた。
 夜中に目が覚め、彼は日課のメールとニュースに目を通し、不意にそんなことを思い出した。

(記憶違いだろうか)

 サイトウはそこから狂ったように検索を始める。気になることがあったからだ。
 このゲームが過疎たる所以はわかったような気がする。それでもこれほど緻密に作られたゲームがネットで全く話題になっていないというのは妙な気がする。全てがどうしようもないならともかく、宇宙空間の表現や緻密なメカニック、SF好きの心を擽る妙なりコダワリ。ロビーでの3Dアバターのリアルさや、極めて人間的でリアルなAIパートナー。仮にゲーム内容や仕様そのものを否定されたとしても、ココだけは神ゲーと言える仕上がりが幾つもある。
「自室にサポーターは呼び出せればな~色々聞けるのに」
 サポーターは基本的にSTGと出撃ルームにしかいない。
 自室にサポーターを呼び出すには戦果がいる。
「ない!全くない!なんでだ」
 大概の過疎ゲームにでも一人ぐらいはブログを書いていそうなものだが見つからなかった。レビューらしきものもない。眠い目を擦り、頭を掻きむしり、自分の頬を叩きながら必至になって探したのに。
「過去記事すらひっからないなんて。昔のゲームならいざしらず。もうサービスが終了したオンゲーですら記事が残っているというのに」
 彼はキーワードを変え、何度も検索し、上位千件ほど見たがどのパターンでも無かった。似たようなジャンルからリンクを辿ってもみたがコレというのがない。既に新聞配達員が近所を通っている時間になる。頭がクラクラするまるで酩酊状態。
 ただ、幾つか気になる記事を見つける。
「地球は十年終わりだ。僕は死にます」
 たったそれだけの記事だ。
 文章の内容から推察するに中高生ぐらい。ゲーム好きのようだ。この前後の文章に注目した。

 新しいゲームから招待を受けた。
 このゲームは凄い!凄い!凄い!
 地球は後十年終わりだ。もうやだ僕は死にます。

 新しいゲームを始めてこれで終わり。
 以後更新されていない。
 彼の言う死にますは自殺なのか。それとも、それぐらい落ち込んだのか。わからない。
 何せ今の子供は何かというと死ぬとか殺すとかハードルが低い。
「死にたいから死ぬという行為への距離は相当遠いからな」
 サイトウは自らの過去を振り返るも、思いを寄せるほどの事象ではなかった。
 他にも数人妙なブログを見つけたが、そこには具体的な言及がなく、やはり終わっている。ただそこには共通点があった。

「後十年で地球は終わり」

 彼が受けたDMにも書かれいた文言を想起する。

”貴方の住む地球にも十年ほどで到達するでしょう。”

 十年という区切りは至極普通だ。
 十年一昔とも言う。
 でも、色々なオンラインゲームをやってきて、ありそうで無かったように彼は感じた。
 しかもこの三つの記事に共通するのは先月の記事であるということ。
 妙なのは”十一年後に地球は終わり”という記事は無い点。
 勿論、自称未来予知とか言う輩が世界中で適当なことを言っている為に無いではないが、ザッと読めば妄言とすぐ伺える。彼はある知り合いを思い出した。
「ヤツにとって地球は何回終わっているんだろうな」
 苦笑する。
(ああいう人の方が、結構幸せかもしれない。自分の頭の中だけで生きている)

「よし!・・・やってみるか」

 サイトウもまた星の数ほどいるゲームブロガーの一人だった。
 元々生きてきた証というか足跡のようなものが欲しくて始めた。毎日、起きて食べて寝て起きてを繰り返す日々。日々が秒単位で消化されていく。寝込みだすと一ヶ月が一日の感覚で過ぎ去り、ようやく動ける頃には一年、二年が過ぎている。そしてまた悪くなるを繰り返している。彼にとって十五年という月日は去年か一昨年程度の肉体感覚であった。そこで十年を経過した辺りからゲームのブロクを書くことにした。何せ衣食住以外ではゲームしかやっていない。書くこと無いのだ。嘗て「ゲームの記者にならないか?」とアルバイトの面接で言われたことを思い出し、書き始める。興味はあったが、当時は忙しくて、週三日のアルバイトに入ることが出来なくて断念した。今でも少し悔いている。

「よし、書こうじゃん。”STG28”のブログ」

 彼は簡単に初日の記事を上げると陽が差し込む時間には眠りに落ちた。

 夕方四時に目が覚める。
 彼は真っ先にブログの続きを書こうとノートパソコンの前に横滑りで座ると真っ先に目についた。
「え?すげーコメントが付いている。こんなこと初めてだな」
 コメントを承認制にしている為、実際表側には表示はされていないが承認通知が大量に着ていた。
 同士を見つけたような心境で一瞬胸が踊ったがそれは直ぐに嫌悪感に変わった。
「はっ?なんだこれ」
 そこには「STG28のことは書いていけない」とか「すぐ消せ!」とか「消されるぞ!」とか「殺すぞ!」、「お前のこと特定して突撃するからな」という直接的な脅しすらあった。
「そこまで言うほどのこと書いたか俺?」
 彼は多少なりとも精査して書くと自分のことを思っていた。幾ばくかでも他人が読んでくれるのだから言いたい放題にも節度をもって書こうと。そんな彼も昔は好き勝手書いていたが、自分の昔の記事を読み恥ずかしくなったからである。ストレートに感情をぶつけるような記事は控えるように気をつけていたつもりだ。

 読み直してみたが、そこまで書かれるような文章は思い当たらなかった。
 確かに過疎理由について幾つか言及したが、読み返してみても至極もっともな意見に思えた。その一方で、最近の日本人は本当に訳がわからないとも思っていた為、あり得ない話ではないか、思わないでもない。
「ものは試しだ」
 挑発するつもりはないが二軒目の記事を書き、そこにコメント返しのような内容も載せる。いつも意味のあるコメントには承認後にコメント返しもしていた。こう書いた。

”部隊へのご招待ありがとうございます。
 でも、まだこのゲームのことをよくわからないので少し考えさせて下さい。
 もしホームページ等あれば教えてください。”

 彼の常套句だった。
 始めは必ず断る。
 何せ一緒に遊んだわけでもないのにいきなり誘われてもチームの雰囲気や相性がわからない。これは彼なりの長い経験から得た手段だった。色々いる。嫌な思いを進んですることもない。ゲームは楽しむためのものであり、基本的に彼は自由でいることが好きだった。

 夜、彼らの文言は苛烈さを増した。
 これはある程度予想していたことではあるが、それにしてもやや狂気じみてはいないか気になった。二件目の記事もこれといってマズイとは思えない。寧ろ、否定的な意見を過剰に嫌悪する人がいることは知っていたので、肯定的な部分だけで書いたにも関わらずである。
「ようは”STG28”の記事そのものをやめろってことね」
 理由がわからない。
 こうした場合、独占したいからという理由が真っ先に思いつくが、独占も何も現に過疎っている。制作会社に対して恨みがあるケースも考えられた。実際彼もゲーム会社に在籍していた折に、そうした経験も無いではなかった。ただ、そう仮定したら数が多すぎる。こうしたものは逆恨みであっても直接的なものだ。
 ゲームそのもので嫌な思いをしたから。
 そういう理由もあるだろう。これもそうしたケースは知っている。自分が嫌なものをとかく周囲に周知させようと努力する輩である。彼は「誰であれ自己を肯定して欲しいからね」と呟き、自己に起こったことを思い出す。
 彼は、自己の病がいかに大変かを家族に周知させる為、必至になって訴えていた。十年続けた結果、それは理解されることは無いばかりか決定的な溝となって埋めがたいものを自ら作り上げただけであることに愕然とした。
 父は彼のことを「頭がイカれた」と言い、「母は育て方を間違った」と言って泣いた。心を寄せていた者すら「サボりたいだけでしょ」と言い放ち、彼は失望の底に降り立った。
「今にして思えば、『助けて』と言えば良かったかもしれないな」
 彼の目には薄っすら涙が浮かんだ。
「さて、どうしたものかね・・・」
 相手の言う価値観に自らを無理矢理合わせるのも癪に障る。
 かといって「無理に読みに来なくても良いですよ~」と書くと逆効果である。
「暴力に屈するのはどうも腹立つな・・・」
 少し悩んだ。
 そこで三件目の記事を投下する。
 少し様子を見ることにした。

 彼は一日半ぶりの食事をとりゲームをしたい気持を必至に抑えながら仮眠をとる。

 五時間後目が覚め、真っ先にブログのコメントを読みにいき驚いた。
「はっ?・・・・嘘やろ」
 ブログが無くなっていた。
 アカウントが削除されたのかと思い慌ててほかのブログを見ると、
「あった・・・他は全部・・・ある、な。なんで・・・」
 ”STG28”のブログだけが削除されていた。
 なんの警告もなく、削除されている。
 ブログの跡地には このブログは都合による削除されました とだけ表示されていた。
 削除されるには理由がある。

 多数の違反報告があった。
 ブログの内容として適切さを欠いた。
 運営の勝手な判断。
 圧力。

 意外にも運営の判断というのはあり得る気がした。実際そうした話を以前の会社で聞いたことがある。星の数ほどあるブログを上司が一々把握しているはずもなく、一担当者の判断で勝手に消されてしまうこともゼロではないというものだ。ただしこうした不正はほとんどの場合、ブログ運営者の通報で発覚してしまい簡単に露呈してしまう行為ではある。にも関わらずやってしまうのもまた人間だ。通報そのものが面倒で通報しないブロガーもいるし、削除されていること自体に気づかない者もいる。また、削除が取り消されることもない。多くの場合、一定期間が経過するとデータが無くなってしまう。
 昔はブログのバックアップはとっておいたのだが、今となっては「とっておいたからといって何にもならん」という理由から怠っている。まさか自分の身に起きようとは夢にも思わなかった。レンタルでサーバーを持ってはいたが、仕事以外で使ったこともなく、出来るだけ遊びに関わらせたくなかったので、そこでは何もやっていない。
「さてどうしたものか・・・。まあいいか」
 こうしたやり取りに時間を浪費するよりゲームをしたいというのが彼の本音だったようだ。
 鉛のような身体を辛うじて立ち上げ、デスクトップパソコンの電源を入れる。
 相撲取りのようにどっかりと椅子に座り、彼は大きく、深い吐息をついた。
「うっふぅ~・・・・疲れた」
 コンピューター仕事が長時間出来るよう、探しに探した椅子だ。椅子仕事が腰を痛めたり痔の原因になることを知り妥協せずに自分に合ったものを座って探した。まだ彼が動けた時代の産物。会社員時代からだからもう二十年は使っているだろう。あちこちが大分痛んでいる。同じものを買い替えたいが、既にこの会社は倒産している。
 焦点のばらつく眼で見るとは無しに見上げると、嘗て元気だった頃の写真が目に入る。
 女性が後ろから彼におぶさり足でお腹を絞め上げている。写真に写る彼も今よりふっくらしており、太り気味であることが伺える。
 二人とも溢れんばかりの笑み。
 彼は何の感慨もないといった目で単に見返し、すぐに目線は画面を見た。
 そしてアイコンをクリックすると地球を背景に”STG28”とロゴが浮かび上がる。
「さ~てと、シューニャちゃん、やりましょうかね~」
 顔は精気の無い顔で笑う。
 それでも目の奥には微かにだが光が灯った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ