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STG/I 作者:ジュゲ
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第四十話 ジェラス

 俺はアメリカのゲームのエンディングというエンディングが大嫌いだった。
 孤軍奮闘し、幾度もの絶体絶命の窮地を切り抜け、命からがらエンディングを迎えての悲劇的結末。何の解決にもなっていないという落ち。だったらこれまでの苦労はなんだったんだ。一人生き残った彼がどうしてこんな目に合わないといけないのか。
(俺は嫌だ)
 絶対に、自己の何ものをも引き換えにしても絶対に。絶対にだ。俺はそういう人の気持ちを拾い上げたい。拾わないと。誰が見ていなくとも。誰の為でも無く。例え敵わなくとも、そういう馬鹿な人間がいたということが伝わればそれでいい。そうじゃないとイケナイ。そうじゃないと意味がない。人間である必要がない。
 そんな主人公を救いたい。
 誰か手を差し出さなくとも。
 俺が。
 絶対に。
 何に引き換えてもでも。

 目が覚める。

 いつもの様に辺りを見渡す。
 黒いSTGIの中のようだ。
 ここへ来ることそのものが久しぶりだ。
 ずっとジェラスと一緒だった。
 彼女の力は強大で抗うようなものですら無い。
 これまで来た様々な宇宙人とは全くの別物。
 唯々諾々と受け入れるだけ。
 あるがままを。
(戻れないか)
 法則性がわからない。
(今回はいけそうな気がしたんだが)
 まあ、それはそれだ。
 サイトウはモニターに目をやると目視すら出来るほどの巨大な星が見えた。
「なんだ・・・あの巨星は・・・どこへ流された?」
 何か光るものが見えた。
 僅かな光に照らされ、時折だが人工物の反射光が見える。
 長いこと宇宙を眺めていると、違いがわかる。
 サイトウは身を乗り出す。
「まさか・・・STGか・・・国籍は?」
 パネルを操作し解析らしき画面が出る。
 この数ヶ月、この意味不明なコンソールにも慣れてきた。
 何せこれしかすることがない。
 嫌でも覚える。
 言語らしきものが羅列されるが当然読めなかった。
 全ては感である。
 船影を拡大。
「なっ!」
 あの外装は見覚えがある。
 でも俺の知っているソレとは余りにも大きさが違いすぎる。
 肥大化し赤黒い。
 STGの識別番号は。
「ブラックドラゴン・・・あの肥大化した機体がか?」
 慌ただしくパネルを叩き、データの海から何かを拾うとする。
 理解するというより、感じる為に。
 手がかりを。
 彼は手を留め、その機体を凝視した。
 意識がブラックドラゴンの奥へと移動する。
 見えた。
(タッチャン・・・)
 彼の肉体は半ば溶けていた。
「ソード!今どうなってる」
 コンタクトを取る方法も編み出した。
「あれ?サイトウさーん!遅いじゃない」
 陽気な声。
 表情が概ね固定されている。
 人間なら洗脳された状態だが、パートナーなら。
「何が起きてる?この巨大な星はなんだ。タッチャンはどうした。何があった?」
 ソードは満面の笑みで言った。
「デスロードを起動したんだ」

 やっぱり。

「ひょっとして今のお前は強制執行モードか?」
「さすがサイトウさん!そうだよ」
 となると、キャンセルも出来なければ外部の指示も聞かない。
 マザーの影響からもほとんど外れているということか。
「タッチャンの最後の指示はなんだ」
「デスロードを可能な限り増幅させ、アレを壊す」
 目線指した方向には巨星が。
「無理だろ」
「多分ね」
「説明しなかったのか?」
「聞かないから」
 それで強制執行モードか。
 追い込まれていたんだ。
 思い詰めた。

 眠気が襲ってきた。

 自分の右頬から思い切り殴る。
 一瞬だが目眩が。
「どうすることも出来ないのか?」
 サイトウの言葉はあくまで穏やかだった。
「うん。止まらないよ。僕にも止められない。トリガーは僕が握っているけどね。僕をログアウトした時点で起爆しちゃう。だからサイトウ、タッチャンの願いを聞いて上げて欲しい」
「そうか・・・」
 サイトウは頭を抱え、自らの頭皮に爪を立てた。
 そして強く強く押し込む。
 そのまま頭を開いてしまいそうなほど。
 力を緩めると、大きく息を吐いた。
 ゆっくりと。
 一つだけ。
 長く。
 長く。
 そして大きく吸い込む。
 ゆっくり。
「ジェラス!いるんだろ」
 大声を上げた。
「みーつけた」
 コックピット内に声がする。
 姿は見えない。
 ソードは不思議そうな顔をしている。
 事情が飲み込めないのだろう。
 彼には聞こえない。
 突然独り言をいっているようにしか見えないのだろう。
「なんとか出来ないか?」

「出来る」

 簡単に言い放つ。
「彼を、いや彼女を助けてくれ」
「じゃあ」
「約束しよう」
「嬉しい」
 喜びが声から伝わってくる。
「サイトウ?誰と喋ってるの」
 再び息を吸い込む。
 強く。
 強く。
 横隔膜が下がり、胸が大きく膨らむ。
 限界まで。

「馬鹿があああああああああっ!」

 ありったけの力で。
 初めて彼を怒鳴った。タッチャンを。
 その余韻で全身がブルブルと震える。
 顔は紅潮し、口角から少し涎が。
 般若のような表情に。
「ちょっと!サイトウどうしたの?」
「ソード。今ステージいくつだ」
「六」
「どこまで行くつもりだ」
「最低でも八まではあげたいね。十は無理だろうけど」
「わかった」
 時間がない。
「ジェラス急いでくれ。タッチャンに何かあったら約束は帳消しだ」

 先程まであったジェラスの感覚が消える。

「え!どういうこと。なんで・・・」
 ソードの声が聞こえる。
「グリン?どうやって入ったの」
 多分出来るんだろう。
 ジェラスなら。
 彼女が言うのなら。
 最も、問題はこの後だが。
*

 ブラックドラゴンのコックピットに突然現れたグリン。
 文字通りこつ然と現れた。
 しかも実態となって。
 半分以上ブラックドラゴンと同化している竜頭巾にまたがり覆いかぶさる。
「貴方の側にいてよかった。ありがとう?」
 抱きしめる。
「グリン、君は何者なんだ!」
「偽物は黙れ」
 デコピンする要領でソードを見ることもなく空間を弾く。
「あああ!ヤメロ!タッチャン・・・タッチャンの願いを、タッチャン助けて!それはイケナイ、タッチャンの願いを無為にしては、イ・ケ・ナ・・イ・・」
 消えた。
 でもデスロードのトリガーが下りない。
 半ば本船と一体化した竜頭巾に今度はグリーンアイが融合している。
「パートナーロストにつき本船コンピューター起動。搭乗員心神喪失につき自動起動します・・・」
 飴が溶けるように、ゆっくりと、ゆっくりと混じり合う。
「起動しました。・・・警告、警告。船内に敵宇宙生物が侵入。直ちに排除して下さい。現在デスロード起動中につき自力排除・・・不能。デスロード・ステージ七、トリガー起動、出来ませんでした。エラー。STG機密保護仕様により自爆装置を起動します。動力炉暴走開始。エラー。デスロードによる融合措置の為、起動出来ませんでした。デスロード、トリガー再確認。トリガー機能消失。デスロード・・ステップバックされています。ステージ六。エラー。至急本船を攻撃して下さい。マザーシップ応答・・・不能。マザーシップ反応圏外に移動中。近くのSTGは至急本船を攻撃の上で撃破して下さい。敵宇宙生物の識別不能。推定、ブラック・ナイト。危険、危険。最優先攻撃対象です。本船を直ちに攻撃開始、して下さい。攻撃・・・かい、し」
 グリンの身体はもう半分が混じり合っている。
「ステップ・バック・・ステージ五・・・危険、最優先、対象、撃破・・ブラック・ナイト、自爆、不能・・・規定、違反。逆解析されてます。母星に、直ちに・・・応答・・・下さい。要請・・・五・・・四・・・」

 コックピットの灯りが消え、ブラックドラゴンは死んだ。

*
「お前がサイトウか」
「そだけど?」
「俺は竜頭巾。天才パイロットだ。お前が何やらエース気取りみたいだけど、俺が来たからには覚悟しろよ!」
 尖っていた。
 というより粋がっていた。
 生きてきて初めて水を得た。
 居場所だと思った。
 絶対に失いたくなかった。
「そうなんだ。助かるわ」
 笑っている。
 余裕こいてやがる。
「キモイんだよオッサン。ニートかなんかだろどうせ?いい歳して何やってるんだ。こんなクソゲーに入れ込んで、粋がって。どうせ金注ぎ込んでとった戦果なんだろ?馬鹿じゃね?」
 彼は何の感慨もなく見返している。
 馬鹿にしてんのか。
「彼女も出来ず、外で遊びもしないで、ずーっとゲームやってるんだろ?キモオタ馬鹿オヤジが。ズリセンこいて、イカ臭い部屋で、なんだアレか、お前もロリータか?きめーんだよ!」
 彼は悲しそうな顔をする。
 どこかで見覚えがある。
 思い出せない。
「直ぐに追い抜いてやるからな!覚悟しろよ!」
 馬鹿は、私だった。
「楽しみにしているよ。名前はなんだって?」
「言うかバーカ!」
「タツ、ズキン?」
 彼は頭の上の名前を見た。
「きめーんだよ。勝手に見んなよ!アホかよ。こんな簡単な漢字も読めねーのか。お前、人生終わってるな」
「りゅうずきん、か。俺はサイトウだ。よろしくな」
「ズリセンこいた手を出すんじゃねーよ。このロリータが!それとも・・・さてはショタ好きか、ゲームなんかしてねーで仕事しろ仕事、社畜が!」
 彼はにこやかに笑っている。
 笑ってられるのも今のうちだ。
 直ぐに追い越してやる。
 覚悟しろ。
 ジーサンごときに負けるわけがない。

(追い越せない)

 どうして。
 俺は圧倒的に上手なのに。
 他の誰も追いついてこれないのに。
 俺を掠ることすら出来ないのに。

「よータッチャン、一緒に組もうか」
「キモオタオヤジ!てめーチーターだろ?」
「あの大自然にいる?」
「・・・何言ってんの?馬鹿じゃね。面白くねーんだよ」
「組もうぜ」
「組むかよ!俺がクソさんざんやって追いつかねーなんて絶対に有り得ない。チーターだろ。わかってんだよ。運営に報告すっからな、BANされろや!」
「それよりか、これから行こうじゃいか。アラートあるから」
「行くかよ!バーカ!一人でコイてろ!」

(どうしてだ)

 なんであんな動きが出来る。
 チーターだ。
 クソが。
 チーターは死ね。

(クソ、チーターが!)

 三位以下は大きく引き離しているのに、サイトウとの差が全く埋まる気配がない。
 この深い溝。
 高過ぎる壁。
 チーターしてまで褒めて欲しいのか、いい大人が!
 キモイアバターしやがって。
 髭面のオッサン顔。
 ボサボサの髪の毛。
 変にリアルに作りやがって、あれは自分にそっくり真似たに違いない。

(ナルシストのキモオタ、チーター、オナニストが!)

「どうして?」
「彼は違反をしてませんから」
「絶対ねーから!あんな戦績不可能だから!チート以外に何があるんだよ!仕事しろやクソ運営!」
「サイトウ氏が改造ツール等を使った形跡はありません。彼は正式にプレイしています」
「嘘だ!絶対あり得ないない!ワールドレコードだろ!しかも飛び抜けている。チート以外何があるっていうんだ!このクソ無能のクソボケ運営!」
「竜頭巾様。暴言はアカウント一時停止やペナルティの対象になります。お気をつけ下さい。既に貴方の暴言による報告が多数来ております。運営委員による特例により現在は免除対象でペナルティがアリませんが本来なら既に一時停止措置が施されるレベルです。お気をつけ下さい。最悪貴方がアカウントを剥奪されます」
「うるせーよ!俺がいなくてクソ宇宙人を防げるんだらやってみろってんだ!クソ運営が!この無能が!」
 唾を吐きかけた。

 どうしてサイトウはいつも俺に声をかけてくる。
 どうして俺を誘う。
 これほど罵倒しているのに。
 どうして、いつも笑顔で、暖かい目で俺を見る。
(あれは偽っている!)
 どうせ俺を消えろと思っている。
 うざいと思ってる。
 俺に取り入ろうとしているのか?

「サイトウ!アイツをどうにかしてくれよ・・・全く。あ・・・」
「やあ、タッチャン」
「おい、なんだ?俺がどうかしたって」
「お前なぁ・・・サイトウが」
 サイトウが腕を引っ張る。
 それを振りほどく。
「言わせろ!竜頭巾、クソ餓鬼が、粋がんなよ・・・」
「はぁ?何いってるんすか、万年百位以下のカス搭乗員様?」
 男は顔を真っ赤にした。
「待った!すまん、悪かった。本当に申し訳ない」
 サイトウが男の正面に立ち、頭を下げる。
「どけよ!サイトウ!こいつボコボコにしてやる。大人の怖さ思い知らせてやる」
「すまん!それだけは勘弁してくれ」
「はっ、天下のサイトウが、こんなカスプレイヤーに頭下げてら、みっともね~」
「この野郎・・・許せねー!」
 躍りかかろうとするのを完全に防ぐ。
「すまん悪かった!口が滑っただけだ。許してやってくれ、俺の戦果やるから!」
「あ、お前言ったな!じゃあ今月のお前の戦果、全部俺の部隊戦果によこせ!」
「いいよ!だから、な」
 男は大人しくなった。
「サイトウ、クソだせー」
 竜頭巾を睨みつける男。
「コキ使ってやるからな、サイトウ!」
「わかった、まかせろ」
「甘やかし過ぎなんだよ・・・ったく」
 男は足音を鳴らしながら去っていった。
「バーカ!バーカ!はは、だっせー万年百位以下のクソ隊員が」
 サイトウが振り返る。
 お、怒るか?
 一瞬だけど悲しい顔。
 そして笑顔を見せる。
「さてと、狩り行くか」
 なんでお前は平気なんだ。
 こんなに言われているのに。
 こんなクソ餓鬼に、ボロカスに言われているのに。
 ずかずかと歩み寄ると手をとろうとする。
 それを避けた。
「しゃーねーな・・・稼がせてやるよ」
 どうして。
「頼もしいね~」
 時折見せる悲しい表情。
 でも何時も笑顔だ。
 どうして俺に構う。
 皆、見捨てたのに。
 誰かに似ている。
(母さん・・・)
 母さんもそうだ。
 いや、母さんより・・・大きい。
 母さんは何時も泣いている。
 俺を見る時、悲しそうな顔をしている。
 きっと本心は死ねばいと思っているに違いない。
 生まれてこなければと思っているんだ。
 でもサイトウは違う。
 嬉しそうに僕を見る。
 親しい人を見るように。
 サイトウには必要とされている。
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