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STG/I 作者:ジュゲ
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第三十話 グリーンアイ

「ありがとう」
「え・・・」
「ん?」
「どうしたの、何かあった?」
「なんで?」
「うん・・・何でも無いならいいんだけど」
「うん・・・」
 目は合わせられなかった。
 恥ずかしさがまだある。
 病院を退院してから何かが変わったきがする。
 自分の中で。
 本当の死を感じたのは、これが初めてだったのかもしれない。
 自分なりに今まで感じていたつもりだけど。
 それは圧倒的な経験だった。
「守るから」
「え?」
 振り返るお母さん。
(どうして聞こえるんだろう)

 母さんを守りたい。

 あの時に満たしたのはその感情だった。
 他人事で見ても母さんは美人だと思う。
 器用だし、子供の頃から手作りだった。
 手編みのセーターを何枚か作ってくれたこともある。
 着れなかった。
 嬉しかったのに。
 毛糸が肌に刺さるようで痛くて着ていられなかった。
 何度も着ようとした。
 でも痛くて絶えられなかった。
 着ていない私を見て、少し母さんは悲しそうだったのが思い出される。
 でも、私を責めなかった。
「嬉しいんだけど痛くて着れないの。でも、また作って!」
 弁解する私に母は言った。
「でも着ないんでしょ?」
 この日ほど母が冷たく感じたことは無かった。
 何度も何度も着ようとした。
 でも毛糸の刺激は強すぎて我慢できなかった。
 訳も判らず悲しくなりセーターを抱きしめて泣いた。
 でもやっぱりセーターは痛かった。

 母さんは優しいと思う。
 料理だって美味しくないと思ったことはない。
 ただ男を見るは無かったわけだ。
 社畜で、いつも不機嫌なクソオヤジを選ぶんだから。
 母さん最大の失敗だろう。
 奴はどんな手をつかったのか。
 デキ婚だろうか。
 思えば何も知らない。
 今まで興味を持ったこともない。
 いるのが当然だったから。
 優しいのが当然だった。
 何かしてくれるのが当たり前だった。

(母さんだけはどうにかしたい。死んでも死にきれない)

 生きている時にしか口に出来ない言葉あると思った。
 生きている時にしか出来ないことがあると感じた。
 まだ照れくささがあるけど、思ったより普通に言える。
 私なんかに感謝なんてされたくないだろうけど。

(母さん、守るから。私が、私達が・・・地球を)

 今まで避けていた嫌いな食べ物の積極的に食べるようにしている。
 サイトウの言葉が頭を過る。
 自分の病気なんだ。
 自分で知らないと。
(好きとか嫌いとか、言っている場合じゃない)
 少しでも良くなるのなら。
 少しでも可能性があるのなら。

 私は生まれて初めて感動したんだ。
 奇跡はあるって。

 ”ダーク・ナイト”の戦いが想定外だったこと。
 そして解決不能の問題だったこと。
 あの宇宙人達ですら出来ないことをやり遂げたんだ。

”サイトウが!”

 これこそが奇跡。
 彼がやってくれたんだ。
 すぐにわかった。
 彼しか考えられない。
 約束した。
 約束してくれた。
(私も不可能を可能する。今度は私の番だ)
 私が一人でなんでも出来るようになって、クソオヤジと別れさせてサイトウと再婚してくれるようお願いする。土下座でも何でもする。母さんは必ず聞いてくれるはずだ。そうしたら暮らすんだ。サイトウとお母さんと三人で。

”生まれて初めて生じた希望”

 その為なら。

 でもサイトウは未だ現れない。

 彼女、竜頭巾が退院後二ヶ月が過ぎた。
 そればかりかシューニャも姿を消す。
 三日はログインしていない。

 プリンちゃんの話ではたまにあると言っていたけど。
 ケシャさんは沈んでいるし。
 あの二人とシューニャさんはどういう関係なんだろうか。
 シューニャさんが男だということは結成時の彼女の発言で皆知っているけど。
 リアルでは知り合いではないようだ。
 リーダーはシューニャさんがいないことで困っている。
 相談したいことが山ほどあると言っていた。

 そんな最中にアイツは現れた。

「仮入隊のグリーンアイさんです。チャットが苦手みたいでボイチャもダメみたいだけど仲良くしてやって。ひょっとしたら日本在住の外国人かもしれないから」

(ザワザワする)

 彼女はキョロキョロと全員を見渡しただけで頭も下げない。
 VRデバイスはつけていないのだろうか。
 それでもエモーションは使えるはず。
 最も、外国人プレイヤーならそうしたことも珍しくない。
 文化の違いってことだろうか。

 竜頭巾も数えるほどであるが、このゲームで外国人プレイヤーを知っている。

 見た目はデフォルトの女性アバター。
 見たところ全く弄っていない。
 最初に出てくるキャラそのもの。
 こういうのも珍しい。
 ガキだろうか。
 このゲームが初めてというのならわからないでもない。
 最も、そうした人とはこのゲームでは会ったことがないけど。

「どうして彼女をいれた?」
「今は一人でも多い方がいい」
「それはわかるけど、なんかオカシイと思わない?」
「それは思うが、それはそれで構わない。だから仮隊員なんだ。仮なら何も出来ないだろ?」
「そうだけど・・・なんかアイツ嫌だ」
「チャットも出来ないなら揉め事を起こし用がないだろ?」
「そうなんだけど・・・」
「何をやるにしても今は数がいるんだよ、シューニャさんも来ないし。万が一の時はお前が副隊長をやってくれ。今度は断るなよ」
 私はリーダーは嫌いじゃないけど、どうも最後の最後で信じられない自分がいる。
 ドラゴンヘッズの頃も何度かこうした態度を見せた。
 使えないなら捨てる。
 意にそぐわないなら相手にしない。
 ”まるみ”ちゃんにリーダーに告りたいから手伝って欲しいと言われた時もそうだった。
 彼女は泣いていた。
 本気だったのに、あの態度はない。
 そうだ。あの頃からだ。彼を信用できなくなったのは。
「前も言ったけど僕はダメだよ。向いていない」
「名貸しでもいいから」
「ナガシ?って」
「え?名前を貸すだけってこと。お前のブラッグドラゴンは名が通っているからね」
 こういうところが嫌いだ。
 なんだろう・・・クソオヤジと同じ臭いがする。
 シューニャさんとは違う。
 彼は大人って感じがする。
 サイトウよりも大人だ。
 色々受け止めてくれる。
 皆、彼女には色々愚痴っているようだ。

「・・・何もしないでいいなら」

「あれ?・・・断られるかと思ったけど」
「断って欲しかった?」
「いや・・・なんか、お前変わったな」
「そう?」
「うん・・・。いいよ、凄くいい。何があった?」
 感は鋭い。
 こういう所も嫌い。
「何も」
「・・・そっか」
 そして深入りしない。
 器用すぎる。
 ”まるみ”ちゃんは、そこが好きだと言っていた。
 どうしても彼には本音で向き合えない自分がいる。
 大人なんだろうけど。

 グリーンアイは妙な動きをした。

 不意に気づくと彼女は隊員を凝視したりしている。
 それはまだいい。
 自分の手を眺めたり、足を見たり、身体を擦ったり。
 鏡をみて顔をグニャグニャと動かしていたことも。
 まるで何かを確認するかのように。
 多くの隊員が彼女を不気味がった。
 自ずと彼女の周囲は見えない壁でもあるかのように誰も寄り付かなくなる。

 ところが作戦では想像も出来ない働きをする。

 射撃の腕には竜頭巾も相当な自信があったが、彼女のはまるで異質だった。
 相手宇宙人にピッタリと寄り添い間近から、掘削機のように打ち込む。
 竜頭巾は彼女が支給されたSTG28を見ている時の姿が忘れられない。
 得も言われぬ不気味な表情を見せる。
 複雑な表情を浮かべる。
 まるで恋する九敵を見つめるような。
 数多の新人を見てきた彼女も、あんな表情を見たのは初めて。
 強化も極端だ。
 推進と操舵装置に全振り。
 武器は初期装備。
 オプションは装備しない。
 ツインバルカンのみ。
 リーダーがアドバイスをしたが、まるで外国人がアルバイトの面接で「笑顔はこうやる」と教わったものを、意味を理解せずに機械的に口角を釣り上げたような笑み。
 一層だれも寄り付かなくなるのは当然のこと。

 仮入隊期間の一週間が過ぎてもシューニャはログインしなかった。

 三日目からのケシャさんの落ち込み方は考えられないもので、彼女は毎日のようにシューニャさんの姿を探しては作戦にも参加せずマイルームで泣いた。
 五日目にはログインするなり彼がログインしてないないのを確認すると膝から落ちた。恐らくVRなのだろう。プリンちゃんが介護するけど、直ぐにマイルームに引きこもる。僕達の”ブラックナイト”は彼女が要だっただけに不安が覆う。

 グリーンアイの仮入隊期限が来る一週間目に緊急招集がかかる。

 隊長はシューニャさんに相談したかったようでギリギリまで待っていたようだ。
 リーダーはケシャさんの状態を取り上げ、一人でも戦力がいると力説するけど、私以外の全員が反対。当然だろう。隊長は目で僕に訴えた。

「賛成しろ」と。

 こうした場合、今までは一度も賛同したことはない。
 部隊の事情とか考えたくもないけどケシャさんは致命的に思えた。
 直ぐには応えられない。
 全員が私に話しかける。
 グリーンアイの奇行を。
 不気味さを。
(わかってる)
 私だってイヤだ。
 でも・・・。

 サイトウの言葉が頭の中で聞こえる。

 彼ならどうする。
 彼は身勝手に思えて必ず皆を助ける方を選んでいるように思う。
 無謀なほどに。
 皆が思っているような人じゃない。
 私が、私だけが知っている。
 それなのに誰も彼を知ろうとしない。
 恨み言は一言も言わなかった。

「シューニャさんがいない今、一人でも戦える隊員は欲しい」

 部隊で初めて自分の素直な意見以外の積極的な発言を彼女はした。
(母さんを守る為、サイトウが戻ってくるまで、自分のワガママを言っている場合じゃない)彼女はそう考えた。
 隊長の表情と隊員の表情の明暗の差は明らか。
 部隊長と実質の副隊長の意見となれば皆は黙らざる終えない。
 その程度はわきまえているメンバーである。

 驚いたことに仮入隊は延長された。

 普通では考えられない措置だろう。
 仕様的に可能であることは知っていたが、普通それをやると本人がまず除隊する。少なくとも竜頭巾はそう思った。
 更に驚いたことにリーダーはグリーンアイに仮入隊の延長を説明せず、全く何事もなかったようにその日を過ごす。何時も通り日課のアラートを熟し、グリーンアイもまた何もなかったようにログアウトしていく。全員が説明を求めたのは言うまでもない。

 曰く「感かな」である。

「俺も彼女の奇行は十分にわかっている。でも戦力がいる。俺たちは敵の只中で、尚且つ外の敵とも戦っているんだ。贅沢は言ってられない。挨拶もできない。チャットもボイチャも出来ない奴だとしても戦力にはなってる。戦えている。そいつを奇行程度で手放すわけには行かないんだ。皆がどの程度今の状況を把握しているかは問わないけど、恐らく思っているより悪いから」
 改めて自分たちの立場を思い知らされた。
「じゃあ、どうして?」
 そう問う彼らに、
「紛いなりにも入隊するとなると出来ることが広がるからな。今はまだ危険な気がした。タッチャンがさ、あんなこと言うから逆に冷静になったよ。これまでのお前だったら絶対に猛然と反対したろ」
 リーダーは笑ったが、確かにその通りだ。
「お前マジでシューニャさんとダブル副隊長にならんか?」
「無理」
「そっか~、ま、考えといてくれ。今だから言うけど、ドラゴンヘッズの時にお前に副隊長の話投げたのは勢力上の問題であって、本心じゃ向いていないと端からわかっていたんだ。今はマジだ。正直驚いているよ。俺、人を見る目には自信あったんだけど、ちょっと自信なくすよ」
「無くさなくていいよ、そういうの向いていないから。団体行動出来ないし。したこと無いし」
「そうは思えないけどな~」
 賛同する意見が幾つか続く。
 プリンちゃんは何にでも賛同する傾向があるけど、”おはぎ”も言ってくれた。
(なんだろう、なんか今までと違う・・・)

 シューニャさんは十日目にログインした。

 ケシャさんの行動には毎度驚かされる。
「豚ぁ!豚ぁ!どうして!どうして!豚ぁ・・・」
 罵りながら泣き崩れる。
 二人は恋人同士なんだろうか?
 だとしたらどうしてリアルを知らないんだ。
 何があったんだろう。

 でも、シューニャさんの様子はまるで今まで違っていた。
「まーまー」
 何か口論めいたことが起こると決まって言った。それを言わない。
 部隊のママとまで言われた彼女の柔軟な態度はそこになく。
 棒立ちの状態のまま言った。
「マズイことになった」
 その言葉のニュアンスに部隊ルームは静まり返る。
 彼女は棒立ちのまま言葉を続ける。
「こんなことを見ず知らずの人に言うのは気後れするんだけど、助けて欲しい」
 ガキの私でも事の重大さは伝わった。
「何がどうした!どうすればいい?」
 呼びかける隊長と同時に部隊ルームにグリーンアイがログインする。
「あ、シューニャ、彼女は・・・」
 隊長が言い終えることなく、グリーンアイの顔面が変形する。
 全員が言葉を失う。
 左目だけが巨大化し顔が一つ目になると同時に瞼が口のように開く。
 部隊部屋の彼女らが悲鳴を上げるよりも速く怪音波のような声で叫んだ。

「みいぃぃぃつうぅぅぅけぇぇぇぇたあぁぁぁぁぁ!」 

 その声と同時に全員が次々に強制的にログアウトされていく。
 隊長は竜頭巾を見て親指を上げると苦悶に歪む表情でスイッチを押すような動きを見せるとログアウトする。
(頭が割れそう!)
 自分はまだログアウトしない。
 彼女を見ると大きな口を開けてシューニャに喰らいつこうとしている。
 動けない様子のシューニャ。
 見たこともない形相でタックルをしかけるケシャさんが見える。
(すり抜けた?!)
 その彼女を受け止めると、彼女もまたログアウト。
 その時、自分の手にスイッチが握られているのが目に入る。
 今まさに飲み込まれようとしているシューニャ。

 何も考えずスイッチを押していた。

「うわあああああああああっ!」

 ベッドから飛び起きる。
 びっしょりと汗をかいている。
 少しすると戸を叩く音がして我にかえる。
「どうしたの?ノンちゃん、開けるわよ!」
 母が入ってくる。
「どうしたの?大丈夫」
 自分の息が荒い。
 心臓が張り裂けそうなほど鼓動している。
「お母・・さん」
「苦しいの?救急車呼ぶから」
 踵を返す母を呼びとめる。
「大丈夫!・・・大丈夫だから・・・」
「でもノンちゃん凄い汗よ!」
「大丈夫・・・怖い、夢を見たの・・・凄く怖い、夢を・・・」
 安堵する母。
 歩み寄るとベッドに腰をかけ、頭を撫ぜ抱きしめた。
「大丈夫。もう大丈夫。怖くない。怖くない。お母さんが貴方を必ず守るから。何も心配しなくていい」

 不意に涙が落ちる。

 ずっと抱きしめられるがのイヤだった。
 その度に「止めて!」「放して!」「ババア!」「近寄るな!」と言い拒んだ。
 それでも母さんは抱きしめようとしてくれた。
 生まれて初めて母を抱きしめ返した気がする。
「お母さん・・・本当にゴメンね・・・ゴメンなさい」
 知らず泣いている。
「貴方は何も悪くない。悪いのは私なんだから。だから気にしなくていい」
 お母さんは気にしているんだろう。
 ヤブ医者が気まぐれに言った言葉を。
 今も胸に刺さって抜けないに違いない。
「僕が必ず守るから」
 泣き虫な母が今日はどうしてか泣かなかった。

 知らず眠りに落ちる。

 翌日、これが夢ではなく現実であることを知る。
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