挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
STG/I 作者:ジュゲ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

25/41

第二十五話 ニューゲーム

 苦しい。

(夢?誰、なんで泣いているの)

 しゃがみ込んだ中年の男。

「サイトウ?どうしたの」

 男は彼女に気づくと恐ろしいモノを見たように後ずさる。
 彼は立ち上がると逃げた。

「サイトウ!どうして、なんで逃げるの!」

 追うと尚の事を足を速め走った。

「逃げないで!お願い!私が悪いところあったら直すから!」

 見えなくなった。
 疲れ切って膝をつく。
 息が苦しい。
 後ろの方から足音がすると男の声が聞こえる。

「どうしたんだい?」

 振り返るとサイトウが。

「サイトウ・・・」
「どうした。泣きべそかいて」
「サイトウが・・・私を見て逃げた・・・」
「ああ、あれは食べられたサイトウだよ。無理もない」
「貴方は?」
「食べられなかったサイトウだ」
「どういう意味?」
「大丈夫、君の地球は彼が守った。もうそろそろ起きた方がいい。余り彼を心配させてはいけない」
「え?でも・・・貴方は?」
「へ~・・・気づくんだ」
「気づく?」
「彼は諦めて」
「彼?彼って」
「サイトウ」
「諦めるって?」
「貴方とは一度話たかった。ようやく見つけた」
「誰なの?」
「彼は私と一つになる。貴方がたはせいぜいアレを守ればいい。無理だろうけど。彼らは傍観者だ。何もしない怠惰な存在。彼らにも自身を守ることは出来やしない。出来ると思っているようだけど」
「何の話?」
「黙って聞け。暫く喋るな」
「・・・」
 声が出ない。
「近いうち、サイトウはいずれ貴方がたと過ごすより私と過ごすことの有益性に気づく。その時は私と彼は一つになる。私は地球を食べる気はない。今はすっかり不味そうだからね。興味はないから安心しなさい。でも奴らは違う。アイツラは味もわからないから食べるでしょう。それは私には関係のな話。彼が望むのなら、貴方が彼らに食べられるのを二人で見届けましょう。そうすれば彼も諦めるでしょう」

 意味がわからなかった。

 彼女が何を言っているのか。
(彼女?)
 嫌なモノを感じている。

「そろそろ起きなさない。手術は失敗したけど、少し弄っておいたから起き上がれるはずだ。今、死ぬことは許さない。でないと彼は私を疑いかねない。君は私のカードになってもらうよ。その為に助けるのだから」

 奥底から何かが蠢いた。
 憎悪?
 怒り?
 嫉妬?
 わからない。
 でも、確実に言えることがある。

(死んでたまるか)

 得体の知れない力が彼方から湧き上がる。
 でも喋れない。
「それでいい。見てますからね。これから。彼に手を出すなと言われているから何もしないけど、見てますから。ただ、見てます。貴方を。ずっと。見つけたから。全てを見てます。貴方の行いによっては直ぐにでも・・・」
「サイトウはどこ!」
 声が出た。
「ココにいますよ。彼は私と一緒にいる。アイツラに食べさせるわけにはいかないから」
「離せ」
「言われずとも」
「離せよ!」
「サイトウは貴方に何を見出しているのかしら?そもそも彼は何処にいるの。知らない?」
「ココにいるって自分で言ったじゃないか」
「肉体の話」
「肉体?」
「忘れないで。見ているから。それと出来るだけ彼には近づかないで。じゃないと食べちゃうから。美味しくないけど、いざとなったら関係ない」
「彼がそんなこと許さない!」
「だったら・・・彼も食べちゃうから」
 怒りが湧いてくる。止めどもなく。
 簡単に、いとも簡単に言い放ちやがって。
「許さない!」
 彼女は笑った。
「面白いね地球人は。本当に愚かで・・・面白い」
「消えろ!」
「見てますからね」

 身体が痙攣したように動くと目が覚めた。
 母の顔がそこにある。
 見覚えのある医師が曰く有りげに安堵する表情を浮かべる。

「ノンちゃん・・・良かった・・・先生ありがとうございます」

 涙ながらに喜ぶ母。
(嫌な夢を見たような気がする。ここは・・・)
 思い出した。
 起き上がろうとしたが身体が動かない。
 口をどう動かすか思い出せない。
 手はどこ?
 足は?
 まるで回路が断線したように肉体が感じられない。

(地球はまだ、あった・・良かった・・・)

 母の安堵する顔。
 生まれてこの方、母に感謝された記憶がない。
 自分が何かをして、本当に役にたった覚えが。
 私が死んで、あの馬鹿ととっと離婚すれば、母も自由になれる。
 サイトウならきっと大切にしてくれる。
(母さんだけは守りたい)
 口に思いを委ねると。
 声らしきものが口をつく。
「お母さんは、何時も、泣いるね」
 音にならなかった。
「どうしたの?何か欲しいものある?」
 今一度、声を発しようとすると、
「今、何日?」
 別な言葉が出た。

*

 思い出せない。
 毎度のことだが、どうして俺はココにいるんだ。

(マイルーム・・・また戻されるんかね?)

 サイトウはノートパソコンを見て日付と時間を確認する。
 徐々に記憶が蘇ってくる。

(新しいSTGIを乗りこなせない)

 壁にぶち当たっていた。
 巨大な人型兵器、STGIと呼称している、今は漆黒の巨人。
 アレが夢に出てきた彼女だということはわかった。
 気化体の宇宙人。やけに執心している。
「白い巨人はどうした?」
 この前、尋ねた。
「食った」
 彼女は応える。

(そういうことか)

 以前乗っていたSTGIは彼がアダンソンと命名していた宇宙人から貰い受けたものだ。それがどうして彼女が改造出来るのだろうと不思議に思っていた。何せ宇宙人の関係性というのはサッパリわからない。そうしたことも可能なんだろうと、その程度にとらえていたが。
 彼のSTGIは、マザーが言うように「敵巨大宇宙生物」と成り下がったということである。
 挙句に新たな機体はSTGIと言えるかどうかも怪しい。
 自らの意思をもちサイトウの指示を必ずしも聞かない。
(言うことを聞かないパソコンなんて想像しただけで仕事にならない・・・)
 STG28のパートナーは搭乗員の命令を必ず聞く。ところが彼女は違った。動かそうとしても動かない。口で命令しても平気で反故にする。操縦桿はまるでギミックのように反応しない。これまでのSTGIは対話型AIではなく純粋な機械。触っているうちに理解する。でも今回は違う。どうすれば動くのか。

 新たなSTGIを彼女の言動から「ジェラシー」と名付ける。

 彼は一旦操舵を諦め、彼女のやりたいとうにさせることにする。自ら何か発露するまで彼は何も言わずに彼女のコックピットに居座った。
 驚いたことにSTGIがジェラシーになったことで、彼は全くといっていいほどSTG28には戻れなくなった。
 ある日、戻れたと思った瞬間があったのだが、何時ものようにビーナスに報告を受け、横になっていると、声が遠のき、またSTGIに戻された。そんなことはこれまでのSTGIにはただの一度もなかったのに。
 その瞬間に理解する。
 ジェラシーが何らかの力で無理矢理自分をココに連れてきている。

 彼女の狙いはわからない。

 コックピットでは頻りに「貴方の話をして」とせがんだ。地球での生活をとりとめもなく、特に面白いわけでも無いことを話すと彼女は聞き入った。例えばこうだ。
「近所のコンビニにオリジナルブランドのチョココーティングされたバニラアイスがあったんだけど、オリジナルブランドやめちゃってさ、それ以来行ってないんだ。あれが食べたくてよく通って、お店のアルバイトの子とも仲良くなったんだけどね。可愛い子なんだ。何より一生懸命働いているのが清々しくて。輝いて見えた」
 そのような話だ。
 他愛もないもそうした話を彼女は母親が子の話に耳を澄ますように聞き入った。俺は子供を抱っこする母のように抱かれつつ、意識が途切れるまでいつ終わるともしれぬ会話をする。会話とは言えないか。独り言だ。彼女はほとんど「うん、うん」としか言わない。
 寝たら寝たでまた彼女は普段通りの気化体で俺を訪れることが多い。不思議と嫌ではなかった。それは恐らく、どうあれ彼女は「本当に自分のことを好いているんだな」ということが感じられたからかもしれない。
 彼女は困るといつも黙り込む。悪巧みをしているのだろう。甥や姪が自らマズイことをしたと自覚がありながら、それを認められない時にそうする。
(まるで幼児のよう)

 サイトウはタッチャンやSTG28、地球の様子が気にならないではなかったが、考えるのを止めた。無理な時は無駄なことはしない。チャンスを待つ。駄目な場合は覚悟をする。それしか出来ることはないと思った。

「戻らないな・・・。ビーナス」

 ホログラムから実体化される。
「お帰りなさいませマスター。心配しました・・・」
「なるほど、まだアカウントは維持出来ているか・・・」
「マスターのアカウントが凍結されることはありませんよ」
「さ~どうだろうね。じゃあ、何時ものように主要なニュースとメールを朗読して」
「何件にしぼりますか?」
「そうだな・・・三十件ずつ。ご無沙汰だしね」
 横になろうとする。
 妙な違和感に気づく。
(身体が妙に元気だな・・・こんなこと久しくない)
 起き上がり、ベッドに腰を下ろす。
 座っていられる。
「じゃあ頼む」
「はい」

 日本・本拠点に、いや、地球に起きていたことを知る。
 そしてまた眠りに落ちる。

*

「戻れた!マイルームだよ、良かった。一時はどうなるかと思ったけど」
 シューニャはここニ日はログインしてもマイルームに戻れなかった。
 マイルームどころかSTG28の本拠点に行けない。
 ログインすると例のコックピットにいる。
 巨大黒ナメクジのようなソレは宇宙に漂うだけど動力らしきものも感じられない。
 内部は見たこともない文字ばかりで読むことは出来ないし。
 当初はすぐログアウトしたが、何度ログインしても変わること無く、暇なこともあり操縦桿を操作したりボタンを押したりしてみた。それでもソレはうんともすんとも言わない。挙句に何度か隕石型宇宙人の斥候とすれ違うこともあった。
 ココが何処なのか、コレがSTG28とどう関係するのか?一週間、記憶が飛んでいることと何か関係があるのか。何もかもが不可解だ。
 公式に問い合わせすることも考えたがマイルームに行けないことには無理だ。
 どのみち最近この手の問い合わせは条件入力を複雑にし質問をさせないようにしている。バグの報告に対する回答ですら「検討後、公式発表にてかえせさせていただきます」以上、最早非人道的とすら言える。AIの方が余程いい。こういう不毛な問い合わせはAIの登場で改善されるだろうか。

(何日かすれば直るだろう)

 その程度の認識。
 最もそう思えるようになったのは年齢的な問題かもしれない。自分が二十代だったら必死こいてメールしたに違いない。そして一日千秋の思いで待っただろう。
 ほとんどのことは待つことで解決したり、解決の糸口が訪れたりするものだと経験上わかった。自らの力でどうにもならないことで精神や肉体を浪費することもない。

(さすがに三日は長かったが)

 長く感じるほどこのゲームに夢中になっている。他のゲームならとっくに引退だろう。何時もならネットで調べるのだけど、STG28に関する情報は一切出てこない。無いわけではないのだが、どうも違うもののことを指している。公式サイトとユーザーズページにはゲームにログインする必要があるのに。
「ビーナス」
 マイルームでのパートナー呼び出しは音声サービスしかアンロックしていない。
(いずれホログラムも開放したいな)
「マスター・・・そんな」
「どうした?」
「生きていた・・・」

 彼女の口からここ十日程の出来事を聞く。

 驚きを通り越すと思考が停止してしまう。
「・・・なんと言っていいか」
 過去にもそういう体験があるが、特別にショックが強かった。
 今までとは次元が違う。
「良かった・・・本当に良かった・・・」
 声だけでも泣いているのがわかる。
 普段と違い、彼女の反応に何の感慨も湧いてこない。
 それは相手がコンピューターだからというわけではない。

 彼が記憶を亡くした日。

 ブラック・ナイトという敵超巨大宇宙生物が飛来。
 全STGの出撃。
 本拠点マザーコンピューターの操作する無人STG全機撃墜。
 最後の作戦をかけ、有人部隊の一つ”猫いらず”が旗頭になって残存部隊を結成。
 突入するも第一次突撃隊が壊滅。
 その後、ブラック・ナイトが突然消失。
 部隊”猫いらず”が勝利宣言。
 ここまでは百歩譲ってまあいいとしよう。

 問題はそれどころではない。

 まず俺の小隊がスパイとして上げられている点。
 しかもそれを書いているのは”猫いらず”の部隊員だ。
「スパイ小隊”シューニャ”我らが”猫いらず”の勇者らによって排除。先の本拠点襲撃の際に同胞を多数死なせた”地雷女”、自らの部隊を裏切った”脳みそプリン”の三人小隊。隊長は謎の色黒女。曰く『隊長が最もレベルが低いなんてありえない。恐らく複赤だろうと』なんだこれは!」
 シューニャはビーナスが読み上げた記事を改めて自分でも目を通す。
 更に記事は「勇者によって逃げ場を追われた臆病者シューニャは自らの最後を悟り、ブラック・ナイトに突撃し自殺」とある。
「好き勝手にもほどがあるだろ・・・」
 公式記録にはブラック・ナイトへ向け進軍し、消滅としかない。
「あれ・・・覚えてない・・・」
 自然に身体が震えた。
 自分でもわからない。肉体感覚が全くない。
「じゃあ・・・俺はなんなんだ。ログアウト・・・出来たんだな。そうだよ。俺はビーナスに緊急事態レベルが五に達したら強制ログアウトするように指示しているし」
「マスター・・・・それが」
「だよな?」

 ビーナスの言葉は信じられないものだった。

 自分が彼女を自らのSTG28ホムスビから解任し、マイルームに戻したと言う。
「俺は・・・ログアウト出来たのか?」
「わかりません」
 まさか一週間寝ていたのと関係があるのか。
 俺はVRはつけていないから、そもそもVR症候群になるはずもない。

 思い出せない。

 思い出せなくても、普通は体感のようなものが残っているものだ。
 地続きの感覚。
 それが何かがスッポリ抜けてしまったような。

 更に愕然とする。

 戦死者リスト。
 有人出撃機の九割以上に相当するプレイヤーがブラックリストになっている。
(黒は・・・消滅だったか)
 彼らはあの戦いの以後、一切ログインしていない。
「まさか・・・」
 アラートの状況を確認する。
 宇宙人進軍の目安がアラート。
 緊急戦闘に相当し、それ以外が多少なりとも先手をとっての進軍だったと思う。
 見ると、日本からの出撃数はほぼゼロと言っていい。
 ただ、思ったより宇宙人の進行は捗っていないようだ。
 他国が日本の分担してい箇所を受け持っているとある。
(それにしても・・・)
 助かったやら、色々今後が怖いやら。
 まず何らかの交渉のカードを切ってくる可能性は大いにある。
「そうだ、プリンは?ケシャも、無事?」
「はい。お二人ともマスターの采配で無事ではありますが・・・」
「そうか・・・良かった。”が”どうした?」
「軍法会議にかけられるとのことです」
「はあっ?どうして!」
「スパイ容疑です」
 馬鹿げている。
「マザーに問い合わせればわかることだろ」
「マザーは問題を指摘しておりませんが、彼らは受け入れてません。軍法会議は地球人サイドのシステムでマザーはそれを止めることは出来ません」
「魔女裁判かよ!・・・どこまで愚かなんだよ!クソが!」
「・・・それで、先程からドアの外に治安部隊が着ており、マスターの出頭を命じてます。どうされますか?」
「二人は?」
「二人ともログインしてません」
「・・・・わかった。ビーナス、頼みがある」
「はい。なんなりと!」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ